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23.魔法騎士科の彼

メタ視点あり。



「ネモ・フィリアスはいるか!?」



その一声で、ざわついてた座学教室が静まり返った。

呼ばれた先を見ると、短い灰色の髪をした男子生徒が立っている。ローブの線は一本。同じ第一学年の生徒であるようだが、一年にしてはかなり体格がよく、鍛え抜かれた身体つきをしていた。


「ネモ、なんか呼ばれてるけど。」

「呼ばれてるね。見たことない人だな…ちょっと行ってくるね。」


全く見覚えは無いが、とりあえず彼の元まで向かう。


「おい、あれ魔法騎士科の…」

「フィリアスと知り合いだったのか?」


徐々に教室がざわめき出す。


「はい、私がネモ・フィリアスです。」

あんた誰、のセリフは、かろうじて飲み込んだ。


「話があるからついてこい!」


そう言って私の腕を掴んで歩き出す。ちょっと強引だし、痛いんですが。

私は一発でこの人が嫌いになった。





「で?あなたは誰ですか?話って何ですか?」


連れてこられた先は人気の無い魔法騎士科の校舎のある中庭。

一応、初対面なので、敬語を使う。


「俺はジョシュア・ヒルデン、魔法騎士科の第一学年だ。」


よし、同じ一年という言質はとった、もうこの人に敬語は使わないと決める。


「私これからお昼食べようと思ってたんだけど。話ってすぐ終わる?」

「終わらん!これでも食っとけ!」


そう言って食堂の購買部で売られている人気の甘いパンと辛めのパンの二つを投げてきた。

言動のわりに優しいな。


「…ありがとう。」


午後は移動教室のため、できれば早めに終わらせたい。遠慮なくパンの包みを破って咀嚼する。


「それで、話は何?」

「君がダリオ・エンデ先輩とお付き合いをしているというのは本当か!?」

「っ!?」

思わずパンが喉につまった。これ、わざわざ呼び出して昼ご飯まで与えて確認することか??


「…付き合ってないよ。ただの先輩と後輩。それと、このやりとり、今日あなたで4人目だよ。男の子から聞かれたのは初めてだけど。」


朝から午前中のうちに、3人の見知らぬ人たちから先輩と付き合っているかどうかを確認された。もちろん寮や魔法科のクラスメートを除いてである。本当にみんなどれだけ話題に飢えているのだろうか。


「俺は昨日見たんだ。稽古帰りに、森から二人が手を繋いで仲良く帰っていくところを。それでもしらを切る気か!?」

「これまでの3人と同じことを聞いてくるね…。手を繋いでたのは本当だけど、ダリオ先輩とは付き合ってないよ。理解しがたいかもしれないけど、そういうんじゃないんだよ。」


勘違いしそうになるが、ダリオ先輩と私はそういう関係ではない。

恋愛ではなく、師弟関係である。


「君は…エンデ先輩のことをどう思っているんだ?」


先程から興奮気味だったヒルデンのトーンが少し落ち着く。


「憧れの先輩。」


間髪入れずに答える。

この答えに関してはまったくブレることがない。


「そ、そうか。」


なぜかヒルデンの表情が緩む。


「ええと、ヒルデン君もダリオ先輩に憧れてるとか?」

「あの人のことは有名だから知っているが、個人的な憧れがあるわけではない。俺の憧れは魔法騎士科の先輩の中にいるからな。」

「そうなんだ。じゃあなんで私と先輩の仲を聞いてきたりしたの?」

「…」


下を向き、口に手をあてて、急に黙り込んでしまった。


「ヒルデン君?」

「…なんだ。」

「ん?ごめん、聞こえなかった。」


「だから、君のことが好きなんだ!!!!」


「!?」


まさかの告白だった。


「ええ、私たち初対面だよね?自分で言うのもなんだけど、一目ぼれされるような容姿でもないし、一体なんで?」


予想外の展開に驚きで心臓がばくばく言っている。

ヒルデン君とはこれまで会ったことはないし、告白される理由が本当に思いつかない。


「いつも、放課後の稽古の帰りに、課題に奮闘する君を見ていた。」





魔法騎士科の生徒は自己鍛錬を欠かさない。


この学科に入った時点で、将来騎士になることが約束されたようなものだからだ。その分毎日の授業は厳しく、退学していく者も少なくない。

物理的な武器を使った鍛錬であったり、強化魔法の訓練であったり、生徒たちは日々己を磨きあげる。鍛錬の先に強さがあるのだと信じて。


ジョシュア・ヒルデンもまた自分に厳しく毎日の鍛錬を欠かさない生徒の一人だった。基本は寮や学校の実習室を使うのだが、それらの使用は上級生が優先されることもあり、校舎はずれの森で一人素振りをしたり、クラスメートと模擬戦の稽古をしていた。



その日、一人で校舎はずれの森で鍛錬をしていると、奥から緑の光が見えた。自分以外にも誰かいたのかと思って、休憩がてら様子を見に行くと、一人の女子生徒が課題の紙を片手に、奮闘している姿が見えた。


夕日のような赤毛に、森の木々を反射させたような緑の瞳。小柄な身体の手のひらから現れる緑の光と花々たちが、彼女の周りを彩っていく。

先程まで険しい顔をしていたと思ったら、彼女の魔法と同じ花が咲いたかのような明るい表情に変わる。



「やったー!できた!成功!今日は早かったー!!」



彼女が喜びの声をあげた。その声はとても可愛らしい響きだった。

自分がのぞき見していることには全く気付いていない。声をかけようと思ったが、彼女の元に一匹の契約獣が現れ、きゃっきゃと彼女は契約獣にかまいだす。

彼女が子犬姿の契約獣と戯れている姿は、まるで絵画の天使のように見えた。

この光景を壊してはいけない…そう思って、声をかけるのはやめた。でも、また彼女に会いたい、心の底からそう思った。



「それから、何度か放課後の森で課題に取り組む君を見かけた。声をかける勇気がどうしてもでなくて、今度こそ!と意気込んでた矢先に、エンデ先輩と手を繋いで帰っている君を見てしまったんだ…」


その顔は絶望を含んでいた。なんて感情の起伏が激しく、それでいてわかりやすい人なのだろう。


「毎日一生懸命課題に取り組む姿、そして君の扱う柔らな魔法、契約獣を愛でる愛らしい仕草…そんな君に、俺は惹かれたんだ。」

「う、うん。」


色々と恋愛フィルターがかかってる気がしないでもないが、ここまで直球に告白されたのは初めてなので、どうしたらいいのかわからない。


「もし、エンデ先輩と付き合ってないのなら、俺の恋人になってくれないだろうか?」


私はこの人のことを全く知らない。

彼も私のことをほとんど知らないと言ってもいい。

最初の入りがマイナスだったのもあるけれど、今のところ、この人と今すぐ恋人になるのは私には考えられない。


「ごめんなさい。私はヒルデン君のことを何も知らないし、ヒルデン君も私のことを見てただけで何も知らないと思うの。だから、恋人っていうのは…」

「では、友人ならどうだろうか?」


あっさり引いてくれるかと思いきや、意外な粘りを見せてきた。

友人か…まあ、友達としてならいいのかな。


「うん、友達なら。」

「ありがとう!!!!!」


ガシっと私の両手を掴み、ブンブンと握手をする。

ヒルデン君はいままで私の周りにいなかったタイプで、戸惑いしかない。


「友人なら、俺のことはジョシュと呼んで欲しい。俺も君をネモと呼んでもいいか?」

「うん、もちろん。」


ダリオ先輩と違って、あっさり名前呼びを要求される。

なんだか色々ストレートで新鮮だなあ。魔法騎士科の子ってこういう人が多いのかな?


その後は昼休みの間、ジョシュの持ってきたパンを二人で食べ、今度の休みに遊びに行く約束までしてしまったのだった。





「・・・モテ期到来?」


「いや、ちがうから・・・」


告白されたけど、たった一人だけのことであって、これはモテ期とは言わないだろうに。

キアラは面白そうに私を見る。


「でも、ジョシュア・ヒルデンか…また大物だねえ。」

「え?キアラしってるの?」

「騎士団のヒルデン団長の息子でしょ?有名だよ。」

教室に彼が来た時にざわついてたのは、みんな彼が誰か知ってたからだったのか。


「知らなかった…今日ジョシュと話したとき、そんなこと一言も言ってなかったよ。」

「じゃあ親の権力で威張らない人なんだね。急に教室に乗り込んできたときは何コイツって思ったけど、いい人そうじゃん。」

「まあ、お昼ご飯くれたし、いい人ではあると思う。」


結局なんやかんやでお互いのことを話し、意外にも話しやすい人だということがわかった。


「付き合う?」

「いやーそこまで彼のこと知らないし。」

「エンデ先輩はどうするの?」

「ダリオ先輩は関係ないよ。」

「あら、ちゃっかり名前で呼んでるし。」

「もう、キアラったら、面白がってるでしょ。」

「ははは、あー私も彼氏欲しい!」

「私もいないってば。」


気軽に今度の休みに出かけることに同意してしまったけど、高等部に入学してから異性の友達と出かけるなんて初めてのことである。友人としてとは言ったが、これではほぼデートみたいなものではないか。


…緊張してどうにもならなくなったら、クロに出てきてもらおう。


そんなことを呑気に考えていたけど、このデートが思いもよらぬものになるなんて、この時は予想もできなかった。







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