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21.幻術科の課題の被験体


「ランチの食券あげるから、お願いします!」

「三枚でお願いします。」

「んーニ枚!」

「仕方ないですね、ニ枚で。」

「ありがとう、ネモ!じゃあ早速、練習場に移動しよう!」


マイラ先輩はとても嬉しそうな様子で、逃げられないようにするためなのか、私の手を引いて離そうとしない。


幻術科第三学年の彼女とは、たまに寮食を一緒に取る仲でもある。今日も課題で遅くなってしまった寮食を一人食堂で食べていると、幻術科の課題の被験者を探していたマイラ先輩がひょっこり現れた。すぐに終わるから課題の被験体になるのを手伝って欲しい、と協力費の食券をちらつかせて懇願され、やむ無く協力することにしたのだった。


「私の他に誰か試したんですか?」

「ううん、自分以外だとネモが初めてだよ。でもネモの後にもあと三人くらい試すつもり。今のところ既に二人に断られちゃったんだけど…まあ、期限は一週間もあるしね。」


魔法科が自然界の要素を利用した魔法を学ぶのに対し、幻術科は人の精神や肉体に作用する魔法を学ぶ。


例えば、その代表格が治癒魔法。その他は精神状態に働きかける精神魔法、肉体強化の補強魔法やその他に学科の名前の通り、幻術魔法を幻術科では学ぶことができる。


魔法自体が人がいないと成り立たないものが大半なので、幻術科の生徒は学年を追うごとに被験体を求めてあちこちをうろつくことが多い。ちなみにこの行為は幻術科の狩りと言われてる。捕まってしまった私は完全にいい獲物だった。



寮の練習室に入るやいなや、部屋の中央に立つよう指示される。そして先輩は私が立った場所の周りに円陣をガリガリと描いていく。


「今回の課題ってどんなことをするんですか?」


「今日のは、精神魔法と幻術魔法の合成魔法の練習だよ。被験体には魔法をかけるまで詳しい内容は伏せなきゃいけないから、説明はここまでね。痛くないから安心して。たぶん五分もかからない位で終わると思う。」


内容がバレたらいけない魔法ってなんなんだろうか。

痛くないならそれでいいや。


「わかりました。」

「あっさり了解してくれてありがとう。ネモは本当に物わかりがいいよね。」


ただ何も考えずに素直に頷いただけで、物わかりがいいとかそういう訳ではないと思うが。


「じゃあ、魔法をかけるね。かけ終わった後に、効果についてインタビューもさせてね。」

「わかりました。いつでもどうぞ。」


マイラ先輩が呪文の詠唱を開始する。それと同時に自分の周りに白い煙のようなものが出てくる。

詠唱が終わると、私の視界は完全に煙に包まれ、目の前にいたマイラ先輩が見えなくなる。


煙と違って息苦しい訳ではないのだが、何が起きるのかわからないため、少し緊張しながら次の展開を待つ。


「…」


…何も起きない。声は出してもいいのだろうか?

いいや、声かけちゃえ。


「マイラ先輩、煙があるだけで何も起きないんですが、これあってます?」


話しかけてみるも、返事がない。

それどころか、マイラ先輩の気配がしない。


奇妙に思いつつも、もう少し待ってみるか、とその場に腰を下ろす。

すると、徐々にではあるが辺りに充満してた煙が薄くなってきた。


(え?)


視界がクリアになると、先ほどまでいた練習室が、エンデ先輩とよくいる校舎はずれの森の中に変わっていた。しかも今は夜なのに、自分が視えている景色は明るく、日の傾きから放課後の時間に変わっている。視界だけでなく、匂いすら、森独特の土や木々のものになっている。


(幻術のはずだけど、本当に森に転移したみたいだ)


辺りを見渡すと、離れた場所に見知った人の後ろ姿が見えた。

思わず声をかけようと一歩踏み出したそのとき、


「早かったね、終了だよ。」


マイラ先輩が目の前にいた。足元をみると、先ほどまでたいた森の土ではなく、練習室の床に描かれた陣を踏んでいた。


「これで終わりなんですか?私、放課後の森を見ただけなんですが。」


「お、放課後の森か!それで、誰かそこにいた?あ、人だった場合、それが誰だったかは言わなくていいからね。」


「はい、後ろ姿だけですが、見えました。」


「なるほどなるほど。」


頷きながら、私の言ったことをマイラ先輩がメモを取っていく。


「喋ったりはしなかった?」


「話しかけようとしたのですが、少し離れていたため、近づこうとしたら魔法が終わりました。」


「あらら、残念。でも半分成功したみたいで良かった!」


「半分…え、と、これって何の魔法だったんでしょうか?」


終わったのならタネ明かしをしても問題ないはずだ。


「課題の提出が終わったら教えてあげる。あと三人は試したいって言ったでしょう?それまでネタばらしをするわけにはいかないんだ。」


「ええ〜…」


「ありがとうね!はい、食券二枚。またよろしく!」


魔法の結果が上手くいったことで、マイラ先輩は非常に機嫌が良かった。そんな先輩と反対に、私はあの光景の意味について、一週間も待たなければならないことにモヤモヤした。





後日、あの魔法は、被験体が思い入れのある場所や人、感触、音、匂いなどの五感を再現して映し出すというものであることを知った。


もしもあのとき、私が円陣から出なければどうなっていたのだろう。どんな会話をあの人としたのだろうか。

自分が彼と初めて会ったあの瞬間ではなく、放課後のあの時間を再現したことに、自分でも驚いた。



ちなみに、カタリナもあとでマイラ先輩に捕まり、彼女の場合は実家の自分の部屋で、昔飼っていた飼い猫が出てきて久しぶりに猫吸いをして癒されたらしい。

カタリナはもう一回やりたい!と言っていたが、私はネタばらしをされてもモヤモヤが残ってしまっただけなので、二回目は…いいかな。



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