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20.質問攻めにあう

いつもより長め。



「こんにちは、シャノン先輩。」


たまたまシャノン先輩が廊下の向こう側から歩いてきたので声をかける。


「やあ、ネモ。これから授業?」

「いえ、授業で使う道具を先生から持ってくるよう頼まれたので、今から魔法薬科の校舎まで取りに行くところです。」

「ふーん、手伝おうか?」


思ってもいなかった手伝いの申し出に、思わず飛びつく。渡りに船とはこのことか。


「え、いいんですか?ありがたいけど、先輩は授業はいいんですか?」

「午後は各自の卒業研究の時間だから、大丈夫だよ。ちょうど休憩しようと思ってたところだし。」


最終学年である第五学年は卒業研究なるものがある。提出は任意だが、出せば単位が加点されるし、就職先から提示を求められることもある。


「じゃあぜひお願いします。ビーカー三箱分らしいので、往復して取って来るつもりでした。」

「重労働だな…教師に目を付けられでもしてるの?」

「いや、たまたま通りかかったのが私だけだっただけです。」


たまたま移動に出遅れて一人廊下を歩いていた私に、いい雑用を見つけたと言わんばかりに先生が押し付けてきたのだ。誰か助っ人を呼びに行こうにもすでに周りには誰もおらず、渋々一人倉庫に向かっていたところだった。


「運が悪かったね。」

「はい、本当に。」


そうして二人で魔法薬科の校舎までの道を歩く。

魔法薬科と魔法科の校舎は比較的近くに位置しているため、備品類は魔法薬科の共有倉庫を使用している。


「そういえば、シャノン先輩の進路はもう決まってるんですか?」

「ああ、俺は王立魔法研究所にもう内定しているよ。」

「ええ、早いっ。」


どうやら先日のスカウトの団体が来た時に、向こうさんから入所のオファーが来たみたいだった。

「正確には入所条件が卒業研究と論文の提出だったから、内々定だね。」

「それでもすごいです。そっかーシャノン先輩は魔法研究所か~…」


交流授業で彼と関わったとき、実験や考察が好きなんだろうなとは思っていた。なので魔法研究所の進路はシャノン先輩にはぴったりだと思う。


「ダリオの進路は聞いた?」

「先日軍を志望するか迷ってることだけ伺いました。」


あれからどうなったのだろうか。

考え方が変わって舞台演出家を目指していたらどうしよう。


「相当迷ってたみたいだけどね。まぁ、本人からどこに決めたか聞いてみて。」

「はい、そうします。」


そうこうしている内に、倉庫までたどり着いた。


「ロック解除しますね。」


倉庫は毎回解除法が変更される魔法鍵によって鍵がかけられている。

先生から預かった鍵をかざすと、扉が自動で開く。中は細い通路が続いており、その両側に備品を格納した棚が所狭しと並んでいた。


「確か、奥から二番目の棚に置いてると聞いたのですが…」

そう言いながらずんずんと奥へ向かう。


「あった?暗くてよく見えないな。」

先輩が詠唱して明かりを灯す。

明かりのおかげで、各箱にラベルされていた文字が見えた。


「ありがとうございます。ええと、これだと思います。」


上の段から三つあった箱を下ろし、開いて中を確認する。

三つ全部の箱に、大小さまざまな大きさのビーカーが入っていた。


「当たりだね。じゃあ運ぼうか。」

そう言うとシャノン先輩はひょいと三つ全部持ち上げる。


「先輩、私が持ちます。」

「それじゃ手伝いに来た意味ないでしょ。」


なんてスマートに格好いいことをするんだ。

ここは素直に先輩のお言葉に甘えることにしよう。


「すいません、甘えちゃいます!ありがとうございます。」

「気にしないで。」


シャノン先輩に箱を持ってもらい、二人で連れ立って出口の扉に向かう。


「ネモ、扉開けてもらえる?」

「はい、ちょっと待ってください…、ん?」


えい、と押してみるが、びくともしない。もう一度強く押すも、結果変わらず。

鍵がかかってるのかと思い扉に魔法鍵をかざすも、何も起きない。他に鍵穴となるようなものも、なんなら取っ手も存在しない。

先程中に入ったときに自動で扉が開いたように、自動で閉じてしまったようだった。


「先輩、閉じ込められてしまったかもしれません。」

「みたいだね。」

「先輩って今までここに閉じ込められたことあります?」

「ないよ…」


シャノン先輩は箱を床に置いて、扉の周りを調べ始める。


「面倒な結界が貼られているっぽいな。壊すと怒られそう…」

「窓から出ますか?」

「窓、ある?」

「ないですね。」


詰んでる。

ううん、どうしよう、どうしたものか、どうしよう…


「誰か―!開けてー!」


とりあえず外の人に向かって大声で叫んでみる。しかし何の反応もない。この倉庫は教室棟からは少し離れているため、用事が無い限りこの近くに人は滅多に通らない。

なんてこった。


「ビーカーを使うのは次の授業なんだよね?」

「はい、そうです。」

「たぶん授業が始まったころに、ネモが来ないことに気付いて教師がやって来るよ。それまで待とうか。」


本当にこの人は冷静だ。


「はい、本当にすいません…巻き込んでしまって。」

「ネモ一人で来て閉じ込められていたら余計に不安だったと思う。一緒についてきてよかったよ。」

「シャノン先輩が良い人過ぎる…今度何かお礼させてください。」

もし自分が逆の立場なら文句の一つでも吐いていたと思う。

今度お菓子でも差し入れしよう、そう思ってると、彼がある提案をしてきた。


「じゃあ、お礼の代わりにひとつ質問に答えて貰うってのはどう?」

「そんなんでいいんですか?もちろんどうぞ。一つと言わず、私で答えれることであればいくらでも。」


巻き込んだお礼が質問に答えるだけとか、なんだか申し訳ない。


「ありがとう。それじゃ遠慮なく。一つめ、ネモってダリオのことどう思ってるの?」


「は?え?」


「ほらほら、答えて。」


とても面白そうな顔でこちらを見ているシャノン先輩。なんて答えにくい質問をこんなタイミングでぶっこんでくるんだろうか。


「えーと、憧れている先輩です。」

「つまんない回答だな。」

私の答えに対してはんっと吐き捨てるように言う。ひどい。


「じゃあ二つめね。ダリオのことを異性として意識したことはある?はいかいいえで答えてね。」

さっき思ったような答えが得られなかったからか、今度はクローズドな質問に切り替えてきた。


「ええと、うーん、はい?でしょうか。」

「あいまいだね。」

「正直よくわかりません。向こうは私のことクロの飼い主くらいにしか思ってないし、私はエンデ先輩のこと魔法に関しては憧れているけど、それを除けばクロに会いに来る人って感じ、です。」


ってことは異性として見てないになるのかな?意外と奥が深い質問だ。

ふとシャノン先輩のほうを見ると、口を押えて何かつぶやいている。


「うわ、かわいそ、報われねー…」

「?よく聞こえませんでしたが、何か言いましたか?」

「ううん、なんでもない。」


聞き取れなかった呟きを聞き返すも、いい笑顔でかわされてしまった。

なんなんだ。


「それじゃ最後の質問にしようかな。ダリオ並みに魔法が上手で、ネモの期待に応えるようなすごい魔法を使う人が現れて、ネモに恋人になってくださいって言われたら、付き合う?」

「それはその人との関係性にもよりますね。全く見ず知らずの他人ならお友達からって言うでしょうし、ある程度関係性ができていて、その上で私に好意を持っていた場合は考えなくもないかも。」

「なるほど、ありがとう、最後ので大体わかったよ。」

「ご満足いただけたなら良かったです。」


なぜこんな質問をしてきたのかよくわからなかったが、彼が私とダリオ先輩の仲を探ったのだけは理解できた。もしかしたら、シャノン先輩はエンデ先輩と仲がいいから、私とエンデ先輩の仲を周りから聞かれているのかもしれない。


「たぶん、私とエンデ先輩の仲を誰かから聞かれて、今こうして探りを入れていたのかもしれませんが、誓って先輩とはそういった関係ではありません。ただの先輩と後輩です。」

「うん、わかった、ありがとう、理解した。ダリオがかわいそうなことは。」

「?なんでかわいそうなんですか?」

「大丈夫こっちの話。」


そこで会話がいったん途切れる。お礼と言いつつ、こちらばかり質問に答えたので、私も先輩に質問してみる。


「私も先輩に聞いてみてもいいですか。」

「いいよ、なに?」

「シャノン先輩は、クロの契約者になろうとは思わなかったんですか?」


ブラック先輩から引き継ぐのは彼と仲が良かったシャノン先輩でもいいはずだった。でも当時、エンデ先輩がクロと仮契約を結んでいた。


「ああ、俺アイツ…クロにめちゃくちゃ嫌われてるからな。たぶん俺じゃ契約結べなかったと思うよ。」

「ええ!?うそ!」

「ほんとほんと。俺は大好きなんだけどねぇ、俺なりの可愛がり方をしてたつもりだったんだけど、今じゃ会えば唸る、吠える、たまに噛みつかれるっていうね。触らしてもくれなくなっちゃった。一方通行なの。残念だけどね。」


そうだったんだ…シャノン先輩はブラック先輩の忘れ形見であるクロにこれまで会いに来たことがなかったから、不思議に思ってたけど、理解した。

クロは基本的に誰にでも懐いて尻尾を振ってるのに、この人はいったいどんな可愛がり方をしたというんだろうか…


「だから、クロはここで呼び出さない方がいいよ。狭い室内で暴れられても困るし。」

「はい、恐ろしくて呼び出せません。」


先に聞いといてよかった、あやうく呼び出して大惨事になるところだった。


と、

カチりという音が聞こえた。


「おーい、フィリアス君、いるかー?」

魔法基礎学の先生の声だ。


「はい!います!いま出ます!」

慌てて返事をして扉のほうに駆け寄っていく。


「すまないねえ、内鍵となる魔法鍵を預けるのをすっかり忘れていたよ。一人で大丈夫だった?」

「いえ、第五学年のシャノン・ラース先輩がついていてくれたので。」

「?ラースくんが?どこにいるんだい?」


なにを言ってるんだと振り返るが、倉庫の通路には誰もいない。ビーカーの箱も消えている。


「あれ、なんでいないんだろ。さっきまで一緒にいたんですが、え、おかしいな。せんぱーい!どこかに隠れてるんですかー?返事してくださいー!」

呼びかけるも返事はない。


「あの子はチートだからね。おおかた空間転移でも使ってどこかへ行ってしまったんだろう。」


「空間転移」


そんなおとぎ話に出てくるような魔法、本当にこの世に存在したんだ。


ふと、最後のシャノン先輩の質問を思い出す。


『ダリオ並みに魔法が上手で、ネモの期待に応えるようなすごい魔法を使う人が現れて、ネモに恋人になってくださいって言われたら、付き合う?』

『それはその人との関係性にもよりますね。全く見ず知らずの他人ならお友達からって言うでしょうし、ある程度関係性ができていて、その上で私に好意を持っていた場合は考えなくもないかも。』


仮に私とある程度関係性ができているすごい魔法を使うシャノン先輩が私に好意を持ってくれたとして、恋人になってと言われた場合、おそらくだが、付き合わない。

考えなくもない、なんて言ったが、自分がそんな中途半端で器用なこと、できそうもない。どうやら私は回答に嘘をついてしまったようだ。


「じゃあ授業に戻ろうか。今回は私の落ち度だから、遅刻はつけないようにしておくよ。」

「ありがとうございます!」


教室に戻ると、ビーカー三箱が机の上にちゃっかり置かれていた。キアラに聞いたところ、シャノン先輩がふらっと現れて、ビーカーの箱を置いていったそうな。

ちゃんと仕事をして去るシャノン先輩、本当にスマートで格好いい人である。


ただ。


(…転移できるなら、最初から外に出て、外鍵で扉を開けてくれたらよかったのに)


そう思ったのはヒミツだ。





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