2.初めての出会い
◇
私がエンデ先輩と会ったのは今から約二年前のこと。
そのときの私は中等部の第二学年で、その日は内部進学組の進路希望の面談日だった。先生の都合で放課後の遅い時間を設定されてしまい、私は面談まで暇を持て余していた。
いったん寮に帰っても良かったのだが、せっかくだから、少し気は早い気もするが、再来年には通うことになるであろう高等部の学び舎を一目見ておこうと思い立ちそちらへ足を向けた。
高等部は中等部と森を隔てたところに位置しており、それなりに距離が離れている。これまで足を運んだことはなかったので、まるで冒険に来たような気分になっていた。
そうして一人でずんずんと森の中の小道を行く途中、視界の端にわずかな光が目に入った。
何だろうと不思議に思って光が見える場所まで近づいていくと、私の目の前に、これまでに見たことがないような幻想的な光景が広がった。
夕方の空のきれいに混じりながら、その人が操る色とりどりの魔法が宙を舞う。
……なんて鮮やかで、それでいてどこかノスタルジックな美しさを併せ持った景色なんだろう。
あまりにも綺麗なその光景に、思わず放心した状態で観ていると、突然、炎が止んだ。
それと同時に高等部の制服のローブから隠れていた顔がこちらを向いてこちらに向かって口を開く。
「…ごめん!気付かなかった!大丈夫?」
慌てて駆け寄ってきたその人は、少し長めの黒い髪に炎のような真っ赤な瞳をした男性だった。
袖のラインを見ると3本の線がのぞいたので、高等部の第三学年の人なのだろう。
「はい、あ、いえ、ただ見とれていただけなので…」
「なら良かった、結界を張ってなかったから…火傷させたかと思った。」
ほっと、その人は安心そうに息を吐き、緊張した顔を軽く緩める。
「中等部の子?」
「はい!中等部第ニ学年のネモ・フィリウスといいます。あの、今のは幻術でしょうか?」
「いいや、ただの炎だ。今度の課題の練習をしてたんだ。」
ただの炎。
ただの炎に、私はとてつもなく興奮していた。
ぼうっとしている私に、彼が私の手に持っているものに気付く。
「手に持ってる紙、それって進路希望表?」
「え、あ、はいそうです。」
面談の際に提出する紙を持ったままだったのをすっかり忘れていた。
「どこの希望なの?」
「ううんと、実はまだ決めてなくて…この後の面談で先生に相談しようと思ってたんです。」
「そうなんだ。」
彼はなんとなく聞いただけで、さして内容に興味は無いみたいだった。
「先輩はどこの所属ですか?」
「魔法学科だよ。」
その瞬間、魔術科か魔法薬科のどちらかを候補にしようかな〜なんて思っていたことが頭からすんと消え失せた。
気付いたら、私は彼に宣言していた。
「私、魔法学科を専攻することにします!先輩みたいにキレイな魔法を使えるようになりたいから!」
前のめりに言った私に対し、彼は一瞬目を丸くさせたあと、
「そう、魔法学科で待ってるよ、ネモ。」
そう言って優しく笑った。
その顔はあのキレイな魔法と同じくらい、キレイに見えた。