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19.迷う進路先



今日は朝から学園内がなんだか騒々しい。



「ねえ、今日ってなんかイベントあったけ?人多くない?」

基礎魔法学の授業が始まる前に、隣に座っていたクラスメートに声をかける。


「ああ、今日は第五学年の生徒のスカウトに、各地から来賓が来てるみたいだよ。」

「スカウト!早いね、もうそんな時期か。」


この学園の高等部は第五学年までであり、夏が始まる前にみんな一斉に就職活動を始める。採用側も、将来有望そうな学生に目星をつけるため、この時期になると来賓として学園にやって来るのだ。


「今日は軍部のエライさんも来てるみたい。魔法科と魔法騎士科の先輩たちが騒いでたぜ。みんな長期遠征でお世話になってたからな。」

「そうなんだ。だからなんか先輩方がソワソワしてたのね。」


魔法科と魔法騎士科の生徒は圧倒的にローズ王国軍への就職が多い。スカウトの場合、入団試験は免除されるため、就職希望者はスカウトに来た人たちへ自分をアピールするのに必死になる。


ちなみに魔法学科の他の就職先としては、王立魔法研究所や、どこかの家のおかかえの魔法使い、商会の護衛、その他民間の施設への就職などがある。

私はまだ将来何がしたいか自分で見当もついてないが、少なくとも軍隊ではないと思っている。


「ネモの彼氏はもちろん軍志望だよな?」

「彼氏じゃないし。知らない、聞いたことないや。」


エンデ先輩も王国軍の魔法部隊志望なんだろうか?先輩は炎の申し子なんて言われてるけど、どうなんだろ?私が今まで見たのは、炎を使った芸術作品のみである。戦っている姿が想像できない。


それにしても…


(来年には彼はいなくなるのか。やっと一緒の学科に通うことができたのに。)


無性に寂しさを感じ、思わず「やだなー…」とつぶやいた。





放課後の時間となったが、今日もエンデ先輩に声をかけられることはなかった。

しかし、校舎はずれいつもの森に急いで向かう。


森の中の小道を逸れて道なき道を進むと、木々が開けた場所が見えてくる。


「エンデ先輩」


なんとなく予感がしてた。今日はここに来てるんじゃないかって。

彼は木にもたれかかり、何やら難しそうな本を読んでいたが、私に気付くと本を閉じてこちらに手をあげる。


「よお、久しぶりだな。」

「ですね。なんとなく先輩がここに来てるかもって思ってきちゃいました。お邪魔でしたか?」

「いや、特になんもしてないから大丈夫。」


先輩が腕を上にあげて伸びをする。

なんだか、いつもより疲れている様子な気がする。


「今日は第五学年の人たちはスカウトの人に会ってたんですね。」

「ああ、一日中相手をして…疲れた。」


彼はごぞごそと制服のローブのポケットから大量の名刺を取り出す。


「わお、大量。」

さすがである、たくさんの人からオファーが来ていたようだ。しかし名刺をあげた人たちはこのぞんざいな扱いを見ると泣いてしまうにちがいない。いくつか折れ曲がっているではないか。


「扱いが雑過ぎやしませんか。ちゃんと保管してください。」

「…」


あれ、いつもならここで「うるせーな」くらい言ってくるのに、今日は何も言い返してこない。


「なにかあったんですか?」

「あー、まあちょっとな。」

「就職先のこと?」

「ん」

「こんなによりどりみどりなのに?」

「そういう問題じゃねえよ。」


調子を崩している先輩に少し突っ込んだことを聞いてみる。


「先輩は軍部への入団希望ではないんですか?」

「正直迷ってる。…前は迷うことなく志望してたんだけどな。」


迷ってるのか。意外だ。


「長期遠征で心が折れたとか?」

「そんなんじゃない。いや、少しはあるか。」


彼がつい最近までいた長期遠征先の戦地では、学生らはサポートといいつつも、魔法科のブラック先輩、シャノン先輩、エンデ先輩の三名は能力の高さから前線に駆り出されていたと噂で聞いた。


「先輩が王国軍に入ったら、きっとこの国の平和を守るためガツンと活躍されると思います。」

「…」

「そうなったら私を含め、国民はみんな安心ですね!」


おどけるように元気づけてみたが、反応が薄い。気を悪くしてしまったか?


「先輩、あの…」

「おまえは」


エンデ先輩は私のほうをまっすぐ見つめてその顔を少しゆがめた。


「おまえが、キレイだって何回も褒めてくれたその魔法で、俺が人を殺すことがあったら、どう思う?」


先輩の真剣なその様子に、言葉が詰まった。


正直、私は彼のキレイな魔法しか見たことが無い。

その美しい魔法を使う彼が、人を殺めるための魔法を行使する姿を想像できなかった。


「…わかりません。でも、答えになってないかもしれませんが、私の憧れはあなたの魔法とその魔法を使うあなたです。それだけは絶対に変わりません。」

「そうか。」

「この国はしょっちゅう戦争してますが、先輩が入団してから急に平和になるかもしれませんよ?」

「限りなく0に等しいが、無いことも無いな。」

「でしょ。平和になったときは、私の憧れの魔法でもって、別の道を探すのもありかもしれません。」

「例えば?」

「うーん…教師とか?先輩教えるの上手いし。あとは劇団の舞台演出家ですね。間違いない。」


私がそう真剣に答えると、先輩が吹き出した。


「舞台演出家か!最高じゃねぇか!候補に入れとく。」


はははと腹を抱えて笑っている。せっかく大真面目に答えたのに…


「教師もいいな。おまえみたいに純粋に魔法を慕ってくれる子たちに、魔法の面白さを教えてみるとか。」

「課題に苦戦している生徒に優しく教示してあげるとか。」

「それは面倒だからパスだな。」

「ひどい。」


良かった、いつものエンデ先輩の調子に戻った気がする。


「ちなみに、なんで軍隊を志望してたか聞いてもいいですか?」

「あぁ…なんつーか、自分の能力を活かせるのはそこかなと思ってただけだ。大した理由じゃない。」

「そう思えるのはすごいことだと思いますよ。」


それだけ自分の能力を把握しているということだ。私には無いその発想が羨ましい。


「おまえは何かやりたいことがあるのか?」

「ううんと、今のところ何も思いつかないのですが、最近は魔法の奥深さを知れてそれがとても楽しいので、王立魔法研究所か民間の研究施設の就職を目指すのもありかなーと。」


本当は先輩のようにキレイな魔法を使える魔法使いになりたい。けれど、その高みに届くには壁が高すぎること、そして彼とは絶対的な能力の違いがあることに自分でも気が付いていた。

だから、自分が扱えなくてもいい、だけどその仕組みを知りたい、そして誰かに私が感じたあの感動を届けたい、そう思うようになっていた。


「いいんじゃねえの。向いてると思うよ。」

「へへ、ありがとうございます。」


肯定されると素直に嬉しい。

そして私はあることに気付いた。


「先輩、私が先輩の魔法を何度も褒めたってさっき言ってましたが、それって、この前見せてくれた炎の合成魔法と、それと、私が中等部だった頃に見せてくれたあの魔法のことであってます?」


あの最低なセカンド・コンタクト「誰だてめえ」発言以来、「私のこと覚えてますか?」なんて恐ろしくて聞くことができなかった。


が、今はチャンスだ。遠回しではあるが、中等部のときに私あなたに会ったけど、覚えてますよね?とぶっこんでみた。


すると、

「やべ、この後第二学年の補講をみるよう頼まれてたんだった。校舎に戻るわ。」

じゃあな、と光の速さでその場から逃げていった。


先輩のその様子があからさま過ぎて、引き止める間もなく呆然と立ち尽くす。



「いや、ごまかし方が下手すぎるでしょ。」



そう呟きつつ、彼が私のことを覚えててくれたことがわかって、その場で一人しばらくの間その幸せに浸っていた。





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