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17.アージュン先輩と幻獣



「あれ、君、アンドリューのフェンリルと契約した子だよねー?」


図書室を出たところで、後ろから声をかけられた。

後ろにいたのは浅黒い肌に彫りの深い顔立ちをしたアージュン先輩だった。彼とは契約更新の儀式以来、姿を見てなかった。


「はい、そうです。魔法科第一学年のネモといいます。その節はどうもです。」

「こちらこそ。ネモ、クロノスは元気にしてる?」


そう言ってこちらの様子を伺うアージュン先輩。

クロノスというのはクロの前の名前だったか。


「はい、元気ですよ。ほぼ毎日エンデ先輩に愛でられてます。」

「ええー、そうなの?ダリオから俺聞いてない。いいなぁ。」

「あの、じゃあ今から呼び出しましょうか?」

「いいの?ぜひお願いします。場所、移動しようか。」


そういってアージュン先輩とすぐそこの中庭まで連れ立って歩く。


今日はたまたま三限の授業が自習となったため、図書館で時間を潰していた。アージュン先輩も今日は三限が無いらしく、この後も時間があるということだった。


中庭の端のベンチに腰掛け、クロを呼び出す。


「クロー」

「ああ、今の名前はクロっていうんだね。クロノスに似てる。」


ふふっと笑うアージュン先輩。そしてブラック先輩のことを思い出すかのように、目を細める。


「やあ、クロ。久しぶりだね。子犬姿もかわいいよ。」


〈久しぶりだな、アージュン。〉


おお、クロが返事をした。珍しい。


「アージュン先輩はクロと仲良しだったんですね。」

「うん、そうだね。アンドリューにもよくクロを呼び出して貰ってたよ。」


アージュン先輩はクロを膝に乗せてモフモフしている。クロも嬉しそうだ。


「アージュン先輩は、ブラック先輩からクロを引き継ごうとは思わなかったんですか?」


私の言葉にキョトンとするアージュン先輩。


「ああ、僕は召喚科だからね。残念ながら契約獣は持てないんだ。」


その表情はひどく残念そうに見える。


召喚士は幻獣を都度召喚し、力を借りるため、もし一体の幻獣と契約を結んでしまった場合、契約獣となった幻獣と召喚する幻獣の相性によっては呼び出すことが出来なくなってしまう。

そういったリスクがあることから、通常召喚科に所属する学生は契約獣を持つことは禁じられていた。


「いいよねー、自分だけの幻獣。僕も早く卒業して、契約したい。」


「禁止されてるのは学園にいる間だけでしたっけ。」


「そうだよ。だから、僕は召喚術を行使しては毎日癒やされてるんだー。いつでも召喚なしに呼び出せるのが羨ましいよ。」


あ、この人、動物好きだ。

幻獣に癒しを求めるのは動物好きならではの発想だ。


「私あまり幻獣に詳しくないのですが、すでに誰かによって従属契約されてる幻獣以外なら、どんなものでも召喚できるのですか?」


「んー、他の人に呼び出さているときは召喚できないし、その人のレベルにもよるかな。あと相性もやっぱりある。人間でもそうでしょ。嫌いな人のところに行くのって躊躇っちゃうよね。」


「なるほど。」


相性かー、私と炎の属性の魔法に似てるな。私が苦手と思ってるから、炎も私に操られてくれないのかと思ってたが、炎の方だって私を苦手に感じてるかもしれない。

いや、炎がそんな意思を持ってる訳ないのだが。


「僕が一番相性がいい子呼び出してみようか?」


「え、いいんですか?ここ中庭だけど、それも含めていいんでしょうか。」


第一学年の魔法科と第五学年の召喚科の授業が無いだけで、他はみんな授業中である。


「大丈夫大丈夫、召喚術の自習ってことにしておこう。」


そう言ってアージュン先輩は地面にガリガリと陣を描いていく。


うわー複雑。進路希望に召喚科は全く頭に無かったが、こちらの道に進まなくて良かった。絵心が無いと召喚科は無理だ。


「じゃあ呼びだすね。たぶんこの時間なら応えてくれるんじゃないかな。」


詠唱が始まり、陣が赤い光を放ち始める。クロのときと違って、かなり強烈な光だ。

目の前がカッと光ったあと、中から幻獣が姿を現した。


「なんて大物、、、この幻獣は私でも知ってます。」


三頭の首の真っ黒な犬がそこにいた。

地獄の番犬と呼ばれているケロベロスである。成体でないから普通の大型犬くらいの大きさなのだが、三首とも顔がめっちゃ怖い。


「そうそう、ケロベロスのケロリン。一番のお気に入りなんだー。」


アージュン先輩が手を差し出すと、その手を三頭はペロペロと舐め出す。

見た目に反して大人しいなかな?なんて思ったのもつかの間、クロを見て激しく咆哮した。クロも負けじと唸り声を上げ始める。


「ぎゃ、なんかおっ始まりそうな感じですけど!?」

「あはは、この二頭めっちゃ仲悪いんだよねー。混ぜるな危険、みたいな。」


おい、なぜ呼び出した。

ケロベロスが火を吐き、クロがそれを掻き消して首元に飛びかかる。二頭は激しくぶつかり合い、中庭内を戦場にしていく。


だめだ、これは何かしらの被害が出る前にクロを還すしかない。


クロー!今直ぐ還りなー!


念話でクロに還るように命じる。

クロが姿を消すと、ケロベロスのほうも臨戦態勢を解いて大人しくなった。


「危なかった…」

「まあ子供の喧嘩みたいなもんだよ。」


絶対に違う。


「狼と犬だから、仲悪いんですかね?」

「ううん、そんなわけじゃなくて」


〈〈〈オレタチノホウガカワイイ。アージュンハオレタチノモノ〉〉〉


三重に重なりあった声がした。


「彼ら自分が一番カワイイと思ってて、僕の取り合いが始まるんだよねー。」


幻獣にめちゃくちゃ好かれてるアージュン先輩にもびっくりだが、自分たちをカワイイと思ってる彼らにもびっくりである。いや、その考え方がカワイイのか。カワイイの定義って一体なんだ。


「ケロリン、クロは私が主だから、アージュン先輩は取られないよ。」


そう言ってみたものの、


〈ヌシカンケイナイ〉〈アイツハアージュンスキ〉〈アイツニハワタサナイ〉


三首から否定された。アンドリュー先輩がクロの契約主だったときも、この二頭の戦いはあったんだろう。


「でも、クロのことちゃんと扱えてるし、上手くやれてるようだねー。」


「今のところペットみたいにしか扱えてませんが、仲良くやってますよ。」


「幻獣とは仲良くしてるのが一番だよ。」


アンドリュー先輩が安心したように言って笑った。

その後、お互い四限の準備があるため、彼とはその場で別れた。





「そんなこんなで、今日はクロは出せません。魔力がほぼ残ってません。」


エンデ先輩からの呼び出しにそう答えたものの、彼に連れられていつもの森にやってきてしまった。


クロもいないのに、彼は暇つぶしが欲しかったのだろうか。いや、暇ではないだろうに、帰らなくていいのかな。


モフモフすることもできず、手持ち無沙汰であったため、なんとなく話をふってみることにする。


「幻獣にも相性があるって知ってました?」

「それは人間も同じだろ。」

「ですよね。」


「炎属性が苦手な人は炎からも苦手に思われてると思います?」

「炎に意思があればその可能性もあるだろうが、無いんじゃないか?」

「ですよね。」


ダメだ、いつにも増して私の話題フリが残念すぎる。

クロを出してたことと、四限と五限が実技だったから、魔力不足で頭がぼーっとする。


「炎属性が苦手な人と、炎属性が得意な人って相性良いと思います?」

「さあな、人によるんじゃねえの。」

「ですよね。」


さり気なくエンデ先輩と私の相性について聞いてみたが、遠回し過ぎたか。


「今日三限の時間に、アージュン先輩に会いました。先輩、仲良しですよね?」

「ああ、ここに来る前にアージュンから聞いた。アイツ、なんか余計なこと言ってなかったか?」

「余計なこと?」

「あ、いや、いい。なんでもない。」


そう言ってエンデ先輩は座ってた身体を地面に倒す。

なんだかよくわからないけど、私も眠い。会話をやめ、先輩の横にゴロンと転がった。


が、近づき過ぎて、身体が当たってしまった。

「すいません」と言って少し横にずれようとしたら、手をつかまれた。

思わず横を振り向くが、先輩は仰向けの状態で目に腕を当てていて表情が見えない。

どうしたらいいかわからずしばらく固まっていたが、触れ合った身体の部分が暖かく、まあいいかと思った。つかまれた手をこちらから繋ぎ返し、私も一緒に目を閉じた。





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