14.ラース先輩と異学年交流授業②
「わかりました。では、私の考えはこうです。まず時魔法で時間を遡らせつつ、地属性で鉢植えの種子を成長させてみます。直列ではなく、合成魔法でなら、時間もかからないですよね?」
「んん?」
「卵が先か、ニワトリが先か、先輩も知りたくないですか?」
時間を遡らせた種は消滅するのか、それともその種子を産み出したものが出現するのか。
「…興味あるね。」
ラース先輩がニヤリとしながら食いつく。
彼は以外とノリが良いのではないかという読みが当たった。
「では、早速とりかからせて頂きたいと思います。先輩はどこまでサポートして下さるんですか?」
「俺はあくまで見てるだけ。うまくいかないときにアドバイスするくらいかな。魔法のサポートをしたら減点らしいから、そこは期待しないで。」
「了解です。」
そういったあと、呪文を詠唱する。
まずは地属性の魔法。鉢植えの土から種子まで、たっぷりと栄養を注ぐように、成長促進の魔法をかける。
芽が出て、茎が伸び、ピンクの可愛い花が咲き、その花が枯れ、種子をつける。
ここまでで一度魔法を解除。複数の種子を手に取り、その後直ぐ様、時魔法で時間を固定する。
「まずは普通バージョンを作っておきました。」
私は慎重派なので、うまくいかなかったときの保険はかけておきたい。
「はっや。ネモは地属性と時属性の魔法が得意なんだね。このまま提出したら、各自に優は取れるし、後は自由時間になるけどどうする?」
「こっちは保険です。今収穫できた種子を使って、実験させてください。」
「わかった、やってみよう。」
さあ集中だ。時を戻す呪文は時間固定や促進と違って難易度が高い。ちょっとした創造力がいるのだ。
地属性と時属性の魔法を同時に種子にかける。このときの詠唱は念話のみ。
呪文が無いからこそ、合成魔法は難しいとされていた。
さあ、時間よ戻るがいい、あなたたちが生まれる前はなんだった?思い出して、そして姿を見せて。
淡い緑の光が宿る。
魔法を受けた種子は、果たしてどんな状態になるのか…
と、思う間もなく、とんでもない速度で巨大な蔦となって教室中を這い回った。
「なんだこりゃ!?」
「蔦か?!」
教室のみんなが騒ぎだす。
「ネモ、これ種子じゃなくて土にあった別の何かに作用したんじゃ」
「そんな気がしますね。あはは〜…」
やってしまった。
「おい、バカ!さっさと魔法を解除しろっ!!」
エンデ先輩が私に向かって怒鳴った。
いけない、忘れてた、解除せねば。
あれ、そういえば合成魔法の解除ってどうするんだっけか。
合成魔法はかけ方は習ったが、解除法は習ってなかった気がする。違うな、今日眠すぎて、実習前の講義で居眠りをしてしまったんだった。あのときに説明してたのか。
やばい、やばいぞ…
「ネモ、いったん落ち着こうか。」
ラース先輩はこんな状況でも冷静である。
「はい、落ち着いてます。ですが、解除法がわかりません!」
そういってる間にも、蔦はグングン伸び、生徒たちに絡みつく。
先輩方はペアの生徒を結果を張って守っているが、何人かは絡み取られてしまった。
肝心の先生は授業終わりまで戻ってこない。
ピンチ。
退化が止まらない蔦が、窓を突き破って教室外に出ていこうとしたそのとき、
ラース先輩がパチンと指を鳴らした。
その瞬間、全ての蔦が枯れ落ちた。
蔦に絡み取られた生徒も落ちた。なんかごめん。
それよりも他者の合成魔法の解除ができるなんて、第五学年ってすごい。
「ネモー!実験やるなら結界張ってからやりな!てかこの課題に結界の必要なんてないってのに!」
蔦の被害を受けたのであろうキアラが叫ぶ。
「そうだぞー!危ないぞ!」
他の男子らもワーワー抗議しにきた。
「みんなごめーん!先輩方もすいませんでした!」
とにかく謝る。100%こちらが加害者だ。
「それにしても、見たか?ラースはやっぱりすごいな、一瞬で後輩の暴走を解除したぞ。」
「おまえらはアレが第五学年の標準と思うなよー。」
第五学年の先輩方がペアの後輩たちに向けてラース先輩のすごさを語る。
あ、やっぱりラース先輩がすごい人なだけだったんだ。
なんとなくレベルが高い人なんだろうとは思ってた。課題で多々やらかすことのある私のペアになるくらいの人だから。
ラース先輩はというと、私を見て呆れるでもなく、関心した風にこちらを眺めている。
「中々興味深かったな。」
「本当にすいませんでした…」
「いや、面白いよ。先に課題は普通に完成してるわけだし、実験を続けようか。次は結界を張って、それからさっきと同じことをしてみよう。同じ結果が得られるか知りたい。」
え、またやるの?
私が躊躇っていると、エンデ先輩がイライラした様子でやってきた。
「おい、シャノン。」
「さっきすぐにでも止めれたのに見てただろう。次やるときは暴走したら必ず直ぐ止めろ。被害が出てからじゃ遅いだろうが!」
エンデ先輩がとてつもなくマトモなことを言って、ラース先輩につっかかる。が、
「うっせーな、これが俺のやり方なんだよ。失敗させて自分で学ばせるの。ほら、おまえの後輩暇してんぞ、さっさと戻れよ。」
反抗したー!
前も思ったけど、ラース先輩はエンデ先輩と喋るときはかなり口が悪い。
チッと舌打ちしたエンデ先輩は私に向かって
「おまえも、解除の方法はその魔法を覚えるときに必ずセットで覚えとけ!実験すんなら先に合成解除のやり方をシャノンから学んでからやれ!」
これまた真っ当なご意見を述べ、ペアの子たちの元へ戻っていった。
「あの、ラース先輩。合成解除のやり方教えてください…」
「うん、そうだな。先にそっちか。解除方法をネモが習得したら、さっきの続きね。」
結局、この後合成魔法の解除が中々上手く行かず、課題提出の締め切り時間となったので、実験は続行せずに済んだ。
ちなみに私とラース先輩が今回の件の反省文を書かされたのは言うまでもない。
ストック無くなりました、、、