13.ラース先輩と異学年交流授業①
「ネモ、いったん落ち着こうか。」
「はい、落ち着いてます。ですが、解除法がわかりません!」
今、教室内が阿鼻叫喚と化している。
どうしてこうなった。
◇
時は午後一の講義に遡る。
今日は待ちに待った異学年交流の実習授業の日。
昔聞いたとおり、第一学年のペアは第五学年の生徒だった。
前に課題を手伝って貰ってから、私の中でエンデ先輩は怖い人ではなくなっていた。
なので、長年の夢であるエンデ先輩と実習授業を受けるということが叶うと思うと、昨夜からワクワクが止まらず、すっかり寝不足になってしまった。
今日の私の目の下にはバッチリ隈ができていて、コンディションは最悪である。
「今日は異学年交流の初授業だ。見てわかるように、この場には第一学年と第五学年の生徒に集まって貰っている。第五学年の生徒は、ペアとなった後輩たちをしっかり導くことがこの授業の目標である。第一学年の生徒は、先輩の言う事をきちんと聞き、彼らの良いところを学びとることを目標とする。」
先生が生徒全員に向けて授業の主旨を説明する。
ペアと言っているが、魔法科は高学年になるほど人数が少ない。過酷な授業により年々脱落者が増えるからだ。
そのため、第五学年の生徒一人に対し、第一学年の生徒は二人が割り当てられていた。
私のグループはもちろんエンデ先輩…ではなく、ラース先輩だった。
彼と会うのはあの契約の儀以来である。
「やあ、ネモ。久しぶり。」
「その節はどうもです。ラース先輩。」
第一学年の人数が奇数だったため、私のグループはラース先輩と私の二人だけである。
エンデ先輩のほうをチラ見すると、うちのクラスでも割と真面目な男子二名が割り当てられていた。
「グループで挨拶が済んだなら、第五学年の生徒は課題内容について第一学年のペアに説明しろ。課題の提出は二時間後、ベルがなるまでとする。」
先生の合図とともに、各グループが課題の説明を始めた。
私のペアであるラース先輩も私に課題の内容を説明する。
「今回の課題は、地属性と時魔法の二つの魔法を使って、ここにある鉢植えの中の種子を成長させるのがゴールだよ。」
「ただ芽吹かせるだけでもいいということですか?」
「いい質問だね。それだと地属性の魔法だけでよくなる。時魔法の合成を考えるなら、どういった結果が考えられるかな?」
うーん、やはり一筋縄ではいかないお題だ。
成長させた上で、時魔法を加えてできるもの、、、
「例えばですが、時間固定魔法を付与して、枯れない花を作るとかでしょうか?」
「いいね、正解。」
なんか普通だな。いや、待てよ、こういったことも出来るのでは?
「あとは、時魔法で成長と交配を繰り返し、品種改良をしてしまうというのはどうでしょう?」
私の案にラース先輩が苦笑する。
「面白いね。でも、そのためには莫大な魔力が必要だ。それに、二時間でおさまるかな?」
「なるほど、魔力と時間の制約もありますね。ちなみに、地属性と時属性だけでしょうか?他の属性を混ぜるのは?」
「今回その制約は書かれてないけど、暗黙の了解でダメじゃないかな?」
「そうですか。」
はっきり言って、今回のお題は楽勝だった。
私は地属性と時属性とは相性がめちゃくちゃいい。だからこそ、普通の結果を出すのは面白くないと感じてしまっていた。
この考えが、あとからめちゃくちゃ後悔を引き起こすとは思ってもみなかった。