親友に打ち明けました
昼休み。お弁当を持って、魅音と一緒に中庭に来た。空いているベンチに座り、お弁当を広げる。
私のお弁当は実にシンプル。具入りのおむすびが二つ。朝は妹弟にご飯を食べさせ、父のお弁当を作り、皿を洗い、洗濯物を干して……と忙しいため、おむすびが一番手っ取り早い。
中に入っている具は、唐揚げだったりウインナーだったり炒り卵だったり焼き鮭だったりと、その日の朝食に出たものが入っている。
今日のおむすびの具は、一つが目玉焼きの黄身の部分、もう一つはきのこのバター炒め。
塩気の薄いおむすびを食べながら、魅音のお弁当に羨望の眼差しを送る。
魅音の母親は、料理教室を開いている。そのため、魅音のお弁当は栄養バランスがいいし、彩りも美しい。
(アスパラの肉巻き、いいなぁ。手作りっぽいコロッケもある。しかも別な容器には、キウイフルーツ。贅沢すぎるっ!!)
チラ見していることに、魅音は気づいたらしい。
「羨ましいって顔してる。お弁当を交換してもいいよ」
「交換⁉︎ 本当に⁉︎」
「ゆらり特製おにぎりを食べてみたいって、前から思っていたんだ。具が変わっているよね。交換する?」
「わーっ、嬉しい!!」
「ただし、条件がある」
「なに?」
「ゆらりと水都くんってさ、微妙な空気をだしているよね。わざと目を合わせていないって、うちにはバレている。小学校、同じじゃなかったっけ? 喧嘩でもした?」
水都と絶交したことは、当時の先生にも言っていないし、父にも妹弟にも話していない。
いじめられたことが言いにくいのもあるし、水都にひどいことをしてしまった負い目もある。
「暗い話だから、話したくないんだけど……」
「そっか。話したくないのを、無理に聞く気はない。じゃ、お弁当交換はなし。いただきまーす。肉巻きから食べよう」
「わーっ!! 待って待って! アスパラの肉巻き食べたーい!!」
アスパラは、節約家族の味方ではない。スーパーで売っているアスパラは、ひと束が大体、三本か四本。我が家は四人家族。一人一本では、寂しいものがある。それにアスパラは、欠かすことのできない食材ではない。アスパラを買うんだったら、じゃがいもやにんじん、玉ねぎを買ったほうがいい。
そういうわけで、アスパラに飢えていた私は、禁断の箱を開けることにした。
「わかった、話す! お弁当を交換しよう!」
「よしよし」
こうして私は、アスパラの肉巻きを食べた。美味しすぎて、頬がじーんと震える。
「美味しすぎるっ! ほっぺが落ちそう。ひよりとくるりにも食べさせてあげたい!」
「大袈裟すぎ」
私は魅音の母親が作ったお弁当を食べながら、水都のことを話した。
幼稚園での出会い。それから、小学校で起こったいじめと絶交。
魅音は黙って聞いていたが、話が終わると、開口一番に文句を言った。
「米に塩がついていないし、具は薄味。まずくはないけど、美味しくもない」
「米に塩をつけるなんて、贅沢だよ! お米そのものを味わえば良し!」
「貧乏、いと哀れなり。いたはしく涙いづ」
「それよりも、その……私、ひどいよね?」
「なんで? ひどいのは、川瀬杏樹でしょ? 三組のあの女だよね? 髪はサラサラで綺麗だけどさ、心は腐っている。絶交するよう強要するなんて、クズな女」
「さすがにそれは言い過ぎじゃ……」
「なんで? 本当のことじゃん。ゆらりも水都くんも被害者だよ」
魅音の胃は、おむすび二つでは満たされなかったらしい。宇宙人のお弁当ピックが刺さっているキウイフルーツに、手を伸ばしてきた。
「二人の仲を引き裂くなんて許せない。うち、姑息な女って嫌いなんだよね。川瀬杏樹に嫌がらせして、ぎゃふんと言わせてやる!」
「ぎゃふんって、なに? どういう意味?」
「ぎゃふんの発祥は江戸時代。由来は諸説ありますが、ぎゃーという驚きの言葉と、ふむふむという納得の言葉を組み合わせた……」
「由来を聞きたいわけじゃないから!」
魅音は雑学好きなので、話がずれることが多い。けれど、話をもとに戻す役目をするのも魅音。
「で、ゆらりは水都くんのこと、今でも好きなわけ?」