一方的な絶交宣言
公園でいじめられた次の日から、私は杏樹たちに、ぶらりと呼ばれるようになった。
友達の佐藤乃亜は呼ばなかったけれど、私を避けるようになった。
筆入れに、乃亜からの手紙が入っていた。
『あんじゅから、友だちをやめるよう言われた。言うことをきかないなら、わたしもいじめるって。ごめんなさい』
こうして、私は一人になった。
水都は怪訝な顔で、ぶらりという、あだ名の理由を聞いてきた。ブスのブだなんて、話せるわけがない。
杏樹に、水都といつ絶交するのか、しつこく聞かれた。曖昧に言葉を濁していると、そのうち鉛筆や消しゴムを隠されるようになった。教科書にいたずら書きもされた。
『笑顔が気持ち悪い。笑うな!』
笑顔が気持ち悪い──その言葉は呪いになった。笑うのが怖くなった。笑おうとすると、(ブスのくせに)と咎める声が頭の中に響くようになった。
みなっちと呼ぶことをやめた。話しかけるのもやめた。一緒の登下校もやめた。
それなのに杏樹は、「絶交しないとダメ!」と許してくれなかった。
だから私は、水都にお願いをした。
「友達をやめよう」
水都は泣きそうな顔をして、言い募った。
「友達をやめるなんて言わないで」
「嫌なところがあったら直すから」
「ボクを嫌いにならないで」
けれど私は、これ以上いじめられるのに耐えられなかった。杏樹に歯向かう勇気も度胸もなく、クラスの女子たちにこれ以上嫌われないようにすることで頭がいっぱい。
水都も大切だけど、クラスの女子たちとうまくやっていくほうがもっと大切だった。
板挟み状態は、二週間ほど続いた。誰にも相談できなかった。
そんなある日。いつもの出来事が起こった。
鈴木ゆらりと、由良水都。
名前が似ているのを、男子によくからかわれていた。この日も、からかわれた。
「ゆらりがミナトと結婚したら、由良ゆらりになる! ゆらゆらり。おもしれぇーー!!」
「二人はいつ、結婚するんですかぁ?」
「もう結婚していたりしてぇ⁉︎」
腹を抱えて笑っている男子たち。私はいつもどおりに無視する。水都だって、無視していた。
それなのに、この日は違った。水都は、ふざけている男子たちの前に立った。
「こんなのでおもしろがっているなんて、レベルが低すぎる。これ以上ゆらりちゃんをからかうなら、先生に言うよ。なんなら、校長先生や教育委員会に訴えてもいい」
「なっ⁉︎」
「ただの冗談だし!!」
川瀬杏樹が、ツンとした表情で尋ねた。
「ねぇ、聞きたいんだけど。由良くんは、ゆらりちゃんのことをどう思っているの?」
「好きだよ」
「どのくらい?」
「……ボクが、鈴木水都になってもいいと思うぐらい」
男子は意味がわかっておらず、ポカーンとした顔をした。しかし、杏樹は苗字が変わる意味を理解したらしい。怒りで顔がみるみる赤くなった。
私を避けていた乃亜が飛んできて、耳打ちした。
「やばいよ! 杏樹ちゃん、怒っている。由良くんと友達やめるって言ったほうがいいよ!!」
乃亜が話しかけてきてくれた。そのことが嬉しくて、私は水都よりも女友達を選んだ。
「水都なんて、嫌い! 大っ嫌い!! 絶交する。一生、絶交だから!! もう二度と、私に話しかけないで!!」
こうして、一方的に絶交した。
その日水都は早退し、次の日からしばらく学校を休んだ。
私は杏樹から許してもらえて、また乃亜と遊べるようになった。クラスの女子たちとも普通に話せるようになった。
けれど、心に大きな破片が突き刺さったかのように、ズキズキと痛かった。
三年生になり、私と水都は別々のクラスになった。そのことに、ホッとした。
五年のクラス替えでも、別々のクラスになった。
その後。水都は、中学受験を受けて私立に行った。
私たちは離れ離れになった。
水都は私立中学で、私は市立中学。高校で再会する可能性は考えなかった。水都の通う私立中学は、エスカレーター式で高校に進める。
それなのに、なぜか水都は県立高校に入ってきた。高校の入学式で私たちは再会し、クラスメートになった。