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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第四章 これからもずっと一緒に
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クリスマス

 十二月二十五日。今日はクリスマス。また、終業式でもある。

 ホームルームが終わって、解放された生徒たちが席を立つ。

 私は水都の机の上にあるプリントをまとめると、自分の鞄に入れた。

 魅音がホクホク顔で寄ってくる。


「クリスマスなのにインフルエンザなんて、みなっちは日頃の行いが悪いようですねぇ」

「なんで嬉しそうなの?」

「当たり前だろ! クリスマスはイエス様の誕生を祝うものであって、恋人たちのムードを盛りあげるためにあるんじゃない! ゆらり、みなっちと付き合わないで!! うちとシングル同盟を続けようっ!!」

「そんなこと言われても……」

「魅音ちゃん!」


 岩橋くんもインフルエンザにかかって学校を休んでいたのだけれど、昨日から復活した。


「今夜、お世話になります!!」

「なに? どういうこと?」


 首を傾げる私に、魅音は苦々しい顔をした。


「岩橋は恐ろしいぞー。うちの母親の料理教室に参加したときに、美容室はクリスマス忙しいし、姉たちには彼氏がいるから、クリスマス一人なんだって、しょげた顔してさ。母親すっかり同情しちゃって、うちのクリスマスパーティーに招待したんだよっ!」

「あざーす! 魅音ちゃん、俺と付き合っちゃう?」

「ふざけるなっ!!」


 岩橋くんは相変わらずチャラい。でも、目は真剣だ。また魅音も、反発はしているものの、頬はほんのりと赤い。

 

「魅音がその気になれば、シングル同盟、すぐにでも解散しそうだね」

「ゆらり、やめて! 冗談でもきつい!!」

「ねぇ、魅音ちゃん。これからクリスマスケーキ作るじゃん? 俺、デコレーションのデザインを考えたんだ。この中のどれが好き?」


 岩橋くんのスマホの画面に、魅音は顔を近づけた。


「うーん……。あ、これがいい! かわいい!」

「やっぱりこれかぁ! 俺もこれが一番自信あったんだよね」

「でもこれ、絵だから。この通りにデコレーションするの難しいからね」

「二人で頑張ろうよ!」


 岩橋くんがデザインしたクリスマスケーキは、イチゴを半分に切ってその間に生クリームを入れ、チョコチップを二つ並べて目に見立てる。つまり、イチゴでサンタさんを作るというもの。

 そのイチゴのサンタさんたちがケーキの上でパーティーを開いているという、遊び心にあふれたものだった。

 ワイワイ言い合っている魅音と岩橋くんはとっても楽しそうで、(この二人が付き合ったらどんな感じになるんだろう? おもしろそう!)と、私はワクワクしたのだった。



 私は家に帰ると、夕飯の支度をした。それから再び、コートを羽織る。


「じゃ、バイトに行ってくるね。クリスマスは土曜日にやろうね」

「うん。行ってらっしゃい!」


 妹弟に見送られて、家から出る。外に一歩出た途端、北風の冷たさにブルっと震えた。

 今日は水曜日。父は夜勤なので、クリスマスパーティーは土曜日の夜に行うことにした。

 

「本当なら今頃、水都と公園デートをしていたのに」


 水都に、クリスマス空けておくように言われていた。だからバイトを入れなかったのだけれど、水都はインフルエンザでダウン。

 つい先ほどバイト仲間から、具合が悪いから代わってほしいと電話がきた。そいういうわけで急遽、バイトに入ることになった。

 コンビニのスタッフルームに入ると、パソコン画面を見ていた店長が「おう!」と片手を上げた。


「クリスマスなのに、突然悪いねぇ。予定あったんじゃないの?」

「大丈夫です。我が家は土曜日にクリスマスをするので」

「でもさ、シフトの予定表、二十五日にバツをつけていなかったっけ?」

「予定がなくなったので、大丈夫です」


 店長はまじまじと私を見ると、困った顔で、胡麻塩のような色合いの頭を掻いた。

 

「俺みたいなおじさんが、若い子の容姿を言うのはなんだけど……。前にゆらりさん。外見のレベルを一から十でいうと、自分はどれくらいか聞いてきたことがあったよね? あのときは七って言ったけれど、あれから良いことがあったんじゃない? レベルが九に上がっている」

「ええっ⁉︎」


 あのときの私は水都と絶交していて、自分に自信がもてなかった。

 店長にレベルを聞いた日に、水都がコンビニに来てくれた。あの日から、私の人生が好転した気がする。

 もじもじする私に、店長は親戚のおじさんみたいな温かな眼差しを向けた。


「いやー、良かったねぇ。おじさんは嬉しいよ。ま、どうしてレベルが上がったのか、ツッコんでは聞かないけどね。話したくなったら、惚気、悩み、休み希望、なんでも聞くよ!」

「あはは! ありがとうございます」


 話したいことはあるけれど、残念ながら時間がない。私は急いで店に出ると、レジを開けた。

 夕方の時間帯は忙しい。慌ただしく動いていると、出勤してきた伊藤美月さんが、悲鳴をあげた。


「うわっ! な、なんで、ゆらりちゃんがいるの? 告白デートじゃ……」

「しぃー! みんなには内緒にしているんで!」


 伊藤美月さんは大学生。悩みを相談できる、優しいお姉さんである。

 美月さんに私は、今日水都と会うことを話していた。さらには、家族と魅音、岩橋くんにも話していないことを美月さんには話していた。それは──。


 焼肉屋さんの帰り。水都に告白をしようとしたらストップをかけられて、「クリスマスまで待って。僕から言うから」と、告白の予約をされたこと。


 美月さんは興味津々といった感じで、小声で聞いてきた。


「なんでなんで? どういうこと? 告白デートはどうなったの?」

「水都がインフルエンザにかかって、会えなくなったんです」

「なぁんだ、残念! だったら、お見舞いに行かないとね!」

「え⁉︎ お見舞い? でも家族と暮らしているし、移るから来なくていいって言われそう」

「差し入れを持っていくだけでいいんだって! この近くなんでしょう? ゆらりちゃんからの差し入れ、ミナトくん喜ぶと思うな」

「うーん……」


 水都からのメールでは、熱が下がって暇をしていると聞いている。だったら、お見舞いに行ってもいいのかな?

 


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