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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
Side③
52/56

水都目線

 朝から喉が痛かった。乾燥のせいで喉が痛いのかと思っていたら、次第に体がだるくなり、寒気までしてきた。


「やばい、風邪かも……」

「大丈夫?」


 心配するゆらりちゃんに、僕は「一晩寝れば大丈夫だから」と笑ってみせた。

 午前中で早退して、家に帰る。

 僕は風邪を引くことにも体調を崩すことにも慣れているので、友達と出かけている母に、「一人で病院に行くから大丈夫。急いで戻ってこなくていいから」と、電話で伝えた。

 午後の診療が始まるまで家で休み、時間になったら一人で家を出て、近所にある病院に向かう。

 待合室にはすでに十人ほどの患者が待っていて、僕は悪寒に震えながら順番を待つ。


「情けない……」


 クリスマスは四日後。ゆらりちゃんに告白すると決めている。

 学校終わりに制服のまま、近場にあるイルミネーションの綺麗な公園に行って、プレゼントを渡して、告白をする。

 告白のセリフも、もう決めてある。


「今までもこれからもずっと好きです。僕の彼女になってください」


 公園の下見に行ったし、シミュレーションもバッチリなのに、肝心の体調は最悪。

 だけど、まだ時間はある。早く治して、ゆらりちゃんに告白しなくては!!

 しかし、検査した結果。インフルエンザであることが判明。


「岩橋めっ!!」


 インフルエンザで休んでいる岩橋。彼から移った可能性が高い。

 岩橋への八つ当たりと、感染症に罹りやすい自分に対する情けなさと、クリスマス前に体調を崩した絶望。

 体を引きずるようにふらふらと歩いていると、家の前に佐々木萌華が立っていた。

 僕を見た瞬間、彼女はパッと華やかな笑顔を見せた。けれど、それどころじゃない。体がだるい。休みたい。


「水都くん! 会いたくなって来ちゃった。デートしよう」

「無理」

「私のこと、好きなんでしょう? 遠慮しなくていいんだよ。人気モデルだけど、心は普通の女の子だもん!」

「遠慮していない。川瀬さんのは嘘だから」


 川瀬さんは、佐々木萌華をゆらりちゃんのライバルにするために、嘘を吹き込んだ。僕は本当は佐々木さんを好きだけれど、モデルの仕事を邪魔してはいけないと思って遠慮している。そのような嘘をついた。そしてそれを、佐々木さんは信じた。

 川瀬さんのことは落ち着いたのに、佐々木さんがこうやって会いにくるから困る。彼女はしつこい。


「クリスマス、今ならフリーだよ。私のこと、独占していいんだよ」

「結構です」

「もぉ! 意地悪なことばかり言うなら、私、他の人と遊んじゃうよ!」

 

 佐々木さんはウルウルとした瞳で、僕を見上げた。

 きっとこの人は、可愛いのだと思う。他の男子ならグラっとくるだろう、吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳。

 だけど僕は、早く帰ってくれないかな、とうんざりする。


「ねぇ、水都くん。これが最後のチャンスだよ。良い返事をくれないなら、他の人と付き合っちゃうよ? 私モテるんだから。私を彼女にしたら、みんなに自慢できるよ」

「何度も言っているけれど、好きじゃない。無理」


 佐々木さんは拗ねて、プクゥっと頬を膨らませた。


「水都くんって、女の子を見る目がない!」

「僕はダメ人間なんで。記憶から消してください」

「ダメだなんて、そんなことない!! 私、水都くんのことが本気で好きなの! 諦めきれない。だって、大好きな顔なんだもん。私と付き合えないっていうなら、整形して顔を変えてよ!!」


 そんな無茶な……と思うけれど、佐々木さんは自分を中心に世界が回っていると思っている人。僕は佐々木さんと出会ったことで、世の中には自分の想像が及ばない考えの人がいる。というのを知った。


「そんなに僕と付き合いたいのなら、いいよ」

「え? 本当⁉︎」

「うん。その代わり、一秒後に別れてもいい?」

「最低ーーーっ!!」


 バチンっ!!


 左の頬に痛みが走り、燃えるようにカッと熱くなった。ビンタされたのだ。


「水都くんなんて嫌いっ! 最後のチャンスをあげたのに!! 後悔しても遅いんだから!!」


 僕は最初から佐々木さんが嫌いだったし、チャンスが欲しいと思ったことはないし、後悔することも一生ない。

 ぷんぷん怒りながら、佐々木さんは去った。最後までよくわからない人だった、という感想しかない。


「めまいがする……」


 体調が悪化している。よろめくようにして家に入り、洗面所で手と顔を洗う。

 僕は神経質だし、潔癖症なところがある。どんなに体調が悪くても、手を洗わない、外出着を脱がないという選択肢はない。

 洗い立てのパジャマに着替え、ようやくベッドに入って落ち着くことができた。


 体がひどくだるいし、熱い。体も痛みだした。なにもかもが最悪。

 

「ゆらりちゃんを吸いたい」


 なにを言っているんだ、自分。でも、ゆらりちゃんを後ろから抱きしめて、首元に顔を埋めて、ゆらりちゃんの匂いを思いっきり吸いたい。そしたら、元気になれる気がする。

 そんなことを考えながら、うつらうつらと眠りに就いた。



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