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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第三章 キミを守りたい
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友情にヒビを入れたくない

 お昼休み。私は魅音を中庭に誘った。水都と岩橋くんもついてくる。

 先を歩く、魅音と岩橋くん。私は二人に聞こえないよう、隣を歩く水都にヒソヒソ話をする。


「大丈夫だよ。頑張って話すから。魅音なら、わかってくれると思う」

「いや、なんか心配。町田さんって我が強いから」



 杏樹と対決した後。私と水都は公園のベンチに座って、これからのことを相談した。

 自分の考えを変えない女王様気質の杏樹が、初めて涙を見せた。意地悪な心こそが、水都を遠ざける原因になったことに気がついたのだと思う。


「人って、そう簡単には変われない。でも、変われないわけでもない。川瀬さんを変に刺激せず、考える時間をあげたほうがいいと思う」

「そうだね。私もそう思う」


 水都は杏樹を敵視しているわけではない。フラットな目線で話す。

 そういうの、すごくいいと思う。

 私がニコニコしているのを変に思ったらしく、水都の眉根が寄る。


「なに?」

「水都って、大人だよね。器が大きいなって尊敬する」

「えっ⁉︎ い、いや、そういうわけでは……あー、えっと、頑張ります」


 水都の目元がうっすらと赤くなった。

 


 そういうわけで、私は魅音を説得することにした。

 気温は低いが、空は快晴で風は穏やか。気分転換にちょうどいい。

 私たち四人は、中庭のベンチに座った。


「うち、ほうれん草好きじゃないんだよね。食べる?」

「ありがとう! ほうれん草好きだよ」


 魅音はお弁当に入っているほうれん草の胡麻和えを、私にくれた。


「で、さっきの話なんだけど、川瀬杏樹が反省したって本当? 演技なんじゃないの?」

「演技には見えなかった。川瀬さんなりに反省したと思う。だからね、もう終わりにしよう」


 杏樹とのことを魅音にどう伝えるか悩んだ末に、全部は話さないことにした。谷先輩とのダブルデートが魅音の仕業だとバレていたこと。杏樹が私に謝罪を求めたこと。これらは話さないことに決めた。

 魅音の性格を考えると、ダブルデートの秘密をばらした人に文句を言いそうだし、正義感から杏樹と直接対決しようとするかもしれない。

 それは、絶対に避けたい。


 魅音は納得できない口振りで、以前、杏樹が嘘の謝罪をしたことを持ち出した。


「あの人、謝罪してきたことあったよね。謝ったから許してよ、友達になろうよって言って、ゆらりに近づいた。でもそれって、嫌がらせするのが目的の嘘の謝罪。ゆらり、忘れたわけじゃないよね?」

「そうだけど、でも、あのときとは違う。今回は本当に反省したと思う。泣いたし……」

「あの人ってしたたかじゃん。嘘泣きだよ、きっと。うちは、あの人のことを信じない」


 魅音が疑う気持ちもわかる。けれど、引き下がるわけにはいかない。

 魅音は、復讐劇の最後の仕上げをしたがっている。私はそれを止めなければいけない。

  

 私と水都の恋の邪魔をするから、自分の恋もうまくいかない。意地悪をすると、意地悪が返ってくる。

 そのことを杏樹にわからせるために、魅音はダブルデート計画を立てた。

 そして最後の仕上げとして、魅音は杏樹に、


「他人を不幸にさせて笑っているから、谷先輩にもみなっちにも好かれないんだよ! 誰にも相手にされなくて残念だったね。ざまあみろ!」


 と、嘲笑う気でいる。

 

 私は、食べかけの炒り卵混ぜおむすびを膝の上に置いた。


「ダブルデートで、川瀬さん傷ついたみたいだよ。それで十分だよ。これ以上はやめよう」

「甘い! 川瀬みたいな性悪女が反省するわけない。次はどんな嫌がらせするか考えているって! 先手を打とう!!」


 魅音の鼻の上に皺が寄っている。

 不快に思うのはわかる。私のためにしていることなのに、その私が杏樹を庇う発言をしているのだから。

 魅音との友情にヒビを入れたくない。だけど、言わないわけにはいかない。

 

「川瀬さんを責めたら、満足はすると思う。でも傷つけたり、泣かせたりするのは違う。人の不幸を喜ぶのって、好きじゃない……」

「ああ、そうですか。つまり、川瀬の不幸を喜んでいるうちは、性格がねじ曲がった女ってわけか」

「違うよ!」

「ふんっ! ゆらりは最初から、ダブルデート計画に乗り気じゃなかったもんね。うちと違って、優しい性格だもんね。余計なことをして、すみませんねぇ!!」

「余計なことなんて思っていない! そうじゃないよ。魅音が私のためにしてくれたこと全部、嬉しい。でも、これ以上はもういいっていうか……」


 お願い、伝わって──。

  

 けれど魅音は、プイッと顔を背けた。


「もういいよ。わかった」


 話を切られた。魅音は投げやりな態度を取って、私と向き合うのをやめてしまった。


「魅音、あのね……!!」

「さっさと食べたら? お昼休み終わっちゃうよ」


 不機嫌な魅音と、食欲が失せて、魅音からもらったほうれん草の胡麻和えも食べられずにいる私。

 岩橋くんが、おそるおそる会話に入ってくる。


「あー……えっとさぁ……うん! 二人とも悪くない!! ゆらりちゃんは性格が良いし、魅音ちゃんは魅音ちゃんで……うん。あ、そうそうっ! 魅音ちゃんのダブルデート計画、大成功だよ! 谷先輩の女遊びを止めさせたんだから。谷先輩さ、高梨ひなちゃんを本気で好きになったらしい。真面目に付き合いたいって、告白したんだって。でもひなちゃんは、好きなタイプじゃないって断ったらしい。でも谷先輩、絶対に諦めないって言ったんだって。遊び人の谷先輩を本気にさせるなんて、ひなちゃんってすごいよな! そのひなちゃんから告白されて振ったみなっちは、さらにすごいけど!!」


 水都の表情が曇った。岩橋くんの最後の一言が余計だったらしい。


「魅音ちゃんは、友情に熱いところが……」

「うるさい。岩橋の声聞くと頭が痛くなる」

「うわっ! 俺のミラクルボイスにいちゃもんつける人、魅音ちゃんが初めて!」


 岩橋くんなりに気を使っておどけてくれるのだろうけれど、魅音はさらにイライラが募るようで、厳しい表情になっていく。

 

(岩橋くん、逆効果だから!! 黙ったほうがいいよ!!)


 心の中で悲鳴をあげる。


 魅音は大切な友達。その友達の好意を否定するのはつらい。でも大好きな友達だからこそ、嫌なことをしてほしくない。人の不幸を笑う人になってほしくない。

 魅音との友情を壊したくないけれど、私の言いたいことは結局、魅音の考えを否定するものでしかない。

 

 どうしよう……と泣きたい気分になっていると、水都が静かに口を開いた。


「町田さんはなんのために、川瀬さんに復讐をしようとしているの? ゆらりちゃんのためだって言うなら、ゆらりちゃんを泣かせるのはおかしくない? 町田さんの友情とか正義感って、どうなっているわけ?」



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