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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第三章 キミを守りたい
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傷つけて喜ぶのは違う

 肌寒い秋風を真正面から浴びながら、杏樹と並んで歩く。

 杏樹はなにかを考えているようで、黙っている。笑顔はない。

 

 魅音が杏樹に仕返しをしたいと言い出したときから、こうなる気はしていた。

 杏樹の気の強さ、自分の考えを曲げない頑固さ、女王様的な優越感を、私は知っている。

 杏樹に復讐をしたら、倍返しされるかもしれない怖さを感じていた。でも、魅音が私のためにしてくれていることを否定できなくて、友情にヒビを入れたくなくて、傍観してしまった。


(谷先輩とのダブルデート、終わったんだよね? 魅音が仕組んだことに気がついている? だから怒って、貧乏な地味女子が水都の隣にいるなんて気持ち悪いって、人前で悪口を言ったのかも……)


 松下さんと早田さんは、ポカーンとした顔をしていた。

 彼女たちは私が貧乏であることを知らない。杏樹はなにを言っているのだろう? と不思議だったに違いない。


 魅音は私のために、仕返しをしてくれた。そのことを杏樹が知っているかは、実際のところはわからない。

 けれどそういうことは、どこかから漏れて、本人に伝わってしまうものだ。


 杏樹は怒っていると思っていたが、その予想に反して、彼女は優しい声をだした。


「ゆらりちゃん。萌華のことで、不安にならなくて大丈夫だからね。モデルの悩みを相談していただけだと思うよ」


 杏樹の目は笑っていないけれど、唇はうっすらと笑っている。


「うん。不安になってはいない」

「え?」


 杏樹の足が止まった。驚いたように目が見開かれる。


「なんで不安にならないの? だって相手は、人気モデルだよ? ……って知らないんだったね。でも、綺麗な子と二人で会っていたら、普通、不安になるでしょ。それとも、二人が会っていたことを知っていたわけ?」

「ううん、知らなかった。水都はそういうことを話さないし、私も聞かないから」

「へぇー、浅い関係なんだね。浮気してもバレなさそう。都合のいい女って感じ」


 杏樹はせせら笑った。


 浅い関係だから……じゃない。その逆。

 水都は自分のことを話したがらない性格なのを知っている。子供の頃からそうだった。

 読んでいる本を聞いたり、休みの日になにをしているか聞くと、水都は微妙に眉をしかめた。詮索されるのが好きではないと、表情が語っていた。

 だから私は、水都が自分から話すのを待つことにしている。

 ファミレスで佐々木萌華と会っていた件は、話してくれるかもしれないし、話してくれないかもしれない。どっちでもいい。水都への信頼度は変わらない。

 それが、『好き』ということなんだと思う。


「私、強くなるって決めたんだ。水都の彼女になりたい。水都はモテるから、女性といろいろとあると思う。でも私は動揺したり、騒いだり、泣いたりしない。なにがあっても、水都を信じるって決めたから」

「はぁ? ゆらりちゃんって、頭の中、お花畑なの?」


 杏樹は、友達のふりをするのをやめたらしい。いきなり高圧的な態度になった。


「なんの根拠があって信じるわけ? 好きだって言われて、それを間に受けたわけじゃないよね? ゆらりちゃんの家にある鏡、歪んでんじゃないの? 自分がブスだって自覚しなよ」

「杏樹ちゃんが私をブスだって思うなら、それでいいよ。ブスで貧乏でダサくて笑顔が気持ち悪いって思うなら、それでいい。杏樹ちゃんがなにを言っても、もう動揺しないし、泣かない。私は、信じたい人の言葉を信じる」

「バカみたいっ! それって、詐欺にあう人の典型的思考じゃん。私はゆらりちゃんのためを思って、言ってあげているんだけど! あんたみたいなブスが由良くんの彼女だなんて、身の程知らずだね。嫉妬されて、いじめられればいいよ!」

「私のためを思って言ってくれているだなんて、知らなかった。ありがとう」

「は?」


 杏樹は興奮を冷ますためなのか、ゆっくりと深呼吸をした。それでも、怒りは抑えられないらしい。顔を卑屈に歪ませた。


「バカすぎて、笑える! いい加減、いい人ぶるのやめたら? ムカつくから」

「私のこと、いい人だと思っていたんだ。意外。普通に話しているだけだよ」

「だからその、普通にしていてもいい人だってアピールがうぜーんだよ! あんたって昔っからそう。人の悪口を言わない。責めない。気持ち悪いんだよ!! 何様のつもり? 悲劇のヒロインごっこしているなら、マジ無理。あんたみたいなブス、ヒロインって柄じゃないから!!」

「ヒロインじゃなくていい。モブで十分に幸せだもん」


 杏樹の顔がみるみるうちに真っ赤になり、片足をイライラと踏み鳴らした。


「私のこと、嫌いでしょ。大嫌いだって言っていいよ」

「言わない」

「はぁ⁉︎」


 杏樹は喧嘩腰だ。私が不用意な発言をしたら、一気に攻めてくるだろう。同じ土俵で戦うつもりはない。

 私は私のやり方で、前に進みたい。


「小学生のとき。私に意地悪なこと、たくさん言ったよね? すごく傷ついた。親にも先生にも言えなくて、友達は離れていって。毎日泣いていた。だから私は誰にも、ひどいことを言いたくない。あなたにも嫌いだって言いたくない。心に負った傷は簡単には消えてくれないって、知っているから」


 少しでも気を抜いたら、泣いてしまいそうだった。でも、杏樹に涙を見せたくない。これは、私の意地。

 杏樹を真正面から見据える。


「あなたのしたこと、許せない。友達になりたくない。だけど、あなたを傷つけて喜ぶのは違うと思っている。自分を好きでいたいし、家族と友達と仲間を大切にしたい。あなたのことで悩む時間なんてない。だから杏樹ちゃんも、私のことを視野に入れなくていいよ。私のことを考えなくていい。……ねぇ、どうして私に話しかけてくるの? 無視したままで良かったのに。もしかして、寂しいの?」


 杏樹は一瞬、白目を剥いた。眉間に青筋が浮く。


「バカじゃないの!! 調子に乗んな!!」


 杏樹が右手を振り上げた。


 ──叩かれる!!


 反射的に目を閉じた。けれど、体のどこにも痛みが走らない。


「由良くん……」


 杏樹の、呆然としたつぶやき。

 目を開けると、振り上げた手を水都が掴んでいた。

 


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