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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第三章 キミを守りたい
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マラソン大会で勝負

 ロングホームルームの時間。担任の先生は、来月行われるマラソン大会の話を始めた。

 マラソン大会は、一年生が参加する、我が校の伝統行事。コースは、学校の裏にある山。

 整備されたコンクリート道なので走りやすくはあるのだけれど、傾斜がきつい。

 女子は中腹までの往路三キロ。男子は山頂までの往路五キロ。

 マラソンが苦手な生徒は、当日大雨になることを祈っているらしい。走るのが苦手な魅音も、その一人。

 私は走るのが得意なので、マラソン大会を心待ちにしている。


 先生の話を聞いていると、隣の席から腕が伸びてきて、私の机に青い付箋紙が貼られた。

 

『ゆりさんの好きな人。《ゆ》と《み》の他になにがつくの?』


 そんなの答えられない。聞いてこないでよ! って、むくれてしまう。

 だから私は黄色い付箋紙いっぱいに、『内緒!!』と書いて、水都の机にサッと貼った。

 水都の肩が揺れた。笑いを押し殺しているらしい。

 水都の手がまた伸びてきて、私の机に青い付箋紙をペタリと貼った。


『んさんの好きな人。《す》と《ず》と《き》と、《ゆ》と《ら》と《り》がつくらしいよ』


 これって、告白⁉︎

 心臓がドクドクと波打って、顔が熱くなる。

 どう返事をしたらいいのかわからずに戸惑っていると、また青い付箋紙が貼られた。


『ゆりさんの好きな人、教えて』


 もぉ!!

 黄色い付箋紙をペタッと、水都の左腕に貼ってやる。


『知らない! 先生の話を聞きなさーい!! ٩( •̀ з•́)و』


 水都がククッと笑った。

 怒り顔のイラストをつけたのに、効果なし。

 頬を膨らませてむくれていると、また青い付箋紙が机に貼られた。


『マラソン大会で勝負しよう。負けた人が、勝った人に焼き肉を奢る』

『いいの? 私、本気で走るよ』

『いいよ』


 私は走るのが得意。小学校の六年間、運動会でリレーの選手に選ばれた。対して水都は、普通。遅いわけではないけれど、走りで一位を取ったのを見たことがない。

 アクシデントがない限り、私が勝つと思うのだけれど……。


 ロングホームルームが終わり、私は直接、水都に勝負のことを聞いてみた。すると、もし水都が負けたら、私の家族全員に焼肉を奢るとのこと。

 私は全力で、首を横に振った。

 

「そんなの悪いよ! くるりはお肉が大好きだから、たくさん食べると思うし、ひよりは甘いものが好きだから、デザートを頼むかも。お会計がすごいことになっちゃう!」

「十万円いく感じ?」

「まさか!!」

「だったら問題ない。みんなで焼き肉を食べよう。僕から賭けを持ち出したんだから、気にしないで」


 水都は焼き肉を賭けて勝負すると言って、一歩も引いてくれない。私は納得できないものの、渋々了承した。



 放課後。魅音が女子トイレの掃除を終えるのを廊下で待っていると、魅音はトボトボと歩いてきた。魂が抜けたような力ない足取りだ。顔色も悪い。


「大丈夫? 具合が悪いの?」

「最高潮に具合が悪い。マラソン、嫌い。走りたくない。死ぬ。絶対に休む」

「えーっ! 休まないでよー!」

「当日、熱出す予定を入れてある」


 魅音は、運動全般が嫌い。具合が悪いと言って、体育を休むことが多い。

 魅音の性格からして、マラソン大会を休む可能性が高いだろう。

 それはさておき、焼き肉勝負のことを相談する。すると、澱んでいた魅音の目が輝きを取り戻した。


「焼き肉⁉︎ うちも行く! 人のお金で焼き肉食べられるって最高じゃん! うちも仲間に入れて!!」

「えーっと……水都に聞いてみないと……」

「よっしゃあー! ありがとう。絶対に行く!!」

「いいって言ってないってば!」

「あー、でもなぁ、恋のチャンスを邪魔するのは悪いよねぇ」

「恋のチャンス?」


 首を傾げた私に、魅音はニヤリと不敵な笑みをこぼした。


「これは餌付けだ。高級焼き肉を奢って、ゆらりの胃袋を掴む。そしてもって、告白に持っていく作戦だ!」

「高級焼き肉だなんて、水都は言っていないよ」

「じゃあ、催促してよ。叙々苑に行きたいですって」

「言えないよ!」

「じゃあ、みなっちの机の中に叙々苑のチラシを入れておく?」


 魅音の食欲の前には、どんな言葉も無力だと、ため息しかでない。


「高級焼き肉じゃないと思うよ。高校生でそんな贅沢……」


 いや、でも……と、考える。

 水都の家は金持ち。星の好きな水都が「南十字星を見たい」と願望を口にしただけで、家族旅行でオーストラリアに行くぐらいなのだ。

 小一の二学期の始業式。オーストラリアのお土産だといって、カンガルーのぬいぐるみをもらったときの衝撃は忘れられない。


 


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