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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
Side②
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川瀬杏樹目線②

「ゆらりちゃん、おはよ!」

「おはよう」


 廊下でぶらりを見つけて、明るく声をかける。

 初めて、私から挨拶をしたとき。動揺したぶらりは、気弱な声で「えっ? あ……お、おはよう、ございます……」と、どもった。

 けれど今では、スムーズに挨拶を返してくる。

 私は笑顔を浮かべながらも、内心では、ほくそ笑む。


(本当に友達になったと思っているわけ? バッカみたい!)


 私はわざと、「謝ったから許してくれるよね」「今日から友達ね」と押しつけた。ぶらりの気持ちを聞くことなく。

 予想通りぶらりは、表情を強張らせた。けれどぶらりは、嫌だと言わなかった。これも予想通り。気の弱い女だ。


「二人の恋を応援するね」


 心にもないことを言うと、ぶらりは「ありがとう」とお礼を言った。


「私を気にすることなく、由良くんと付き合っていいよ」


 やはりぶらりは「ありがとう」と言い、はにかんだ。


 調子に乗んなっ!! ありがとうじゃねーよ!! そこは「私なんて……」って謙遜しろよ!!

 

 腹が立ってしょうがない。ぶらりは私をイラつかせる天才だ。

 私は昔から、ぶらりが大嫌いだった。


 小学校時代。母親たちが立ち話をしているのを、何食わぬ顔で、でも耳を澄ませて聞いた。

 ぶらりは、妹弟とは父親が違うんだってね。母親は自由奔放な人で、勤め先で人間関係のトラブルをしょっちゅう起こしているんだってね。借金を抱えているのに、母親は金銭感覚ゼロなんだってね。

 ぶらりの靴下に穴が開いているのを知っているよ。新しい靴下を買ってもらえないなんてかわいそう。みじめだね。


 それなのにどうして、そんなに綺麗に笑えるの? 毒親に育てられているのに、優しい心を持ち続けているなんて、童話のお姫様のようじゃない。

 泥水をぶっかけてやりたくなる。

 

 私は醜い。幸せな人間も美しい人間も心が綺麗な人間も、祝福できない。

 でもそれって、私だけじゃないでしょう? 

 才能が突出していたり、環境に恵まれている人間を妬んで、中傷することに快感を覚える人々がいる。直接的にまたはSNSを使って、幸せそうな人の足を引っ張る。

 そんな人たちに、顔をしかめる人がいる。でも心の中では、人生がうまくいっている人を苦々しく思っているんじゃない? あなたが行動に移せない妬みを、他人が行動に移しているだけだよ。


 

 由良くんの視線の先に変わらずにぶらりがいることに、嫉妬が燃えあがる。

 いじめてやったのに、それでも真っ直ぐな心を失わないぶらりに、はらわたが煮え繰り返る。

 だから私は親切な友達のふりをして、ぶらりを不安に落としてやることにした。


「由良くんとゆらりちゃんって仲良いみたいだけど、もしかして付き合っている? って噂になっているよ。ゆらりちゃんを呼び出して、もし付き合っているなら懲らしめるって言っている子もいて……まずいんじゃない?」

「高梨ひな、わかる? 前に、由良くんに振られた子。あの子、すごい可愛いじゃない。フラれたのが初めてだったみたいで、かなりショックだったらしい。ゆらりちゃんの噂がひなの耳に入ったら、私を振ったくせに、ダサ子と付き合うなんて許せないって、絶対に怒るって!」


 嘘だよ。

 噂になっているのは、町田魅音が由良くんを「みなっち」と呼んで、仲良くしているということ。

 由良くんにフラれた高梨ひなは、「男を追いかけるなんてミジメなことしたくない」と、自分に好意を寄せる男子にシフトしている。


 でもぶらりはアホだから、私の嘘を信じた。距離を置くと約束した。それなのに、その日の放課後。


「ごめんね。距離を置くのは無理だった。噂になっても大丈夫なように、頑張ってみる」

「なにを頑張るの?」

「おしゃれとか、勉強とか。ちょっとでも水都と釣り合いがとれるように、頑張る」


 ねぇ、バカすぎて呆れるよ。私、嘘をついたんだよ? 私のこと、少しは疑いなよ。

 純粋に生きるのもいい加減にしなよ。世の中、汚い人間がたくさんいるって知ったほうがいいよ。


 シンデレラストーリーに憧れはあるが、シンデレラよりも白雪姫のほうが好き。

 白雪姫は結婚式に継母を呼び、焼いた鉄の靴を継母に履かせて死ぬまで踊らせた。復讐心があっていいよね。

 ぶらりも白雪姫みたいに、私に復讐してもいいのに。

 ぶらりが「ざまあみろ!」って嘲笑ったその瞬間、私は心の中で喝采を送ってあげる。やっと、綺麗な心を失ってくれたねって。

 白雪姫の継母は熱い鉄の靴を履いて踊りながら、笑って見ている白雪姫に満足したんじゃないかな。汚れた女になったね。おまえはもう、一番美しい女ではなくなった。ざまあみろってね。


 

 ある日。一組の岩橋結斗が、私に話しかけてきた。


「川瀬さん! 突然だけど、彼氏いる?」

「いないけど。なに?」


 岩橋くんは、屈託のない明るい性格をしている。友達が多いらしく、三組にしょっちゅう顔を出している。でも、話しかけられたのは初めて。


「谷先輩と友達なんだ。で、谷先輩さ、川瀬さんに興味があるらしくて! 彼氏がいるかどうか聞けって、頼まれたんだ!」

「谷先輩が⁉︎」


 谷先輩はプロ野球入りするかもしれないと噂されているほどに、野球がうまい。

 私は野球に興味はないけれど、有名人の彼女になるのは興味がある。


「どういうことか詳しく聞かせて!」


 岩橋くんの話によると、私と高梨ひなと谷先輩と、谷先輩の友達である成瀬先輩。この四人でのダブルデートはどうかというお誘いらしい。


「えーっ。ひなとぉ?」


 高梨ひなとは同じクラスなので、ほどほどに仲は良い。だけど、ダブルデートの相手としては最悪だ。

 ひなは、アイドル顔負けの容姿をしている。谷先輩と付き合ったら最悪だ。

 けれど仕方なく、ダブルデートを了承した。

 

 本音としては、谷先輩より由良くんのほうが好き。でも、由良くんは私を好きになることはないだろう。

 でも別にかまわない。一人の女性を思い続ける由良くんの一途さ、嫌いじゃない。



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