表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
Side②
38/56

川瀬杏樹目線①

 お姫様になりたかった。絵本を開いては、お姫様のドレスや髪型や、素敵な王子の登場に胸をときめかせた。

 シンデレラは舞踏会で王子様に見染められ、目覚めた白雪姫は王子様に求婚された。眠れる森の美女は王子様のキスで目が覚めた。

 お姫様と素敵な王子様はセットなのだ。

 それなのに──。


「なんでうちは焼き鳥屋さんなの! こんなの嫌だぁーー!!」


 わんわんと泣く私を、母が慰める。うちの焼き鳥を買いに遠方から来る人もいるのだと話す。

 そういうことじゃない。うちの焼き鳥を買いに、人気アイドルやハリウッドスターが来たとしても、私は恥ずかしさに泣くだろう。

 だって、考えてみて。お姫様の家が焼き鳥屋。ミスマッチすぎる。私は生まれる家を間違えたのだ。王子様が焼き鳥屋に来るわけがない。


 そういうわけで私は、幼稚園生の頃から人一倍身だしなみに気を使っていた。特ににおいには敏感。ヘアコロンは欠かせない。

 焼き鳥屋の娘だとバレないようにしよう。おしゃれな女の子を目指そうと、子供心に強い決意を持っていた。


 小学校に入り、素敵な王子様に出会った。名前は、由良水都くん。

 由良くんは、貧乏で地味でダサくてとろくて気が弱くて秀でたところのない鈴木ゆらりと仲が良かった。

 けれど──……。

 正直に、告白する。

 鈴木ゆらりは、魅力的な笑顔を持っていた。こんなにも人の心を惹きつける素敵な笑顔の人がいるのだと、衝撃を受けた。

 ゆらりの笑顔は、柔らかなサーモンピンク色の薔薇みたいだった。可憐で初々しくて、人の心に明るさと安らぎをもたらす。

 私はその薔薇をむしってやりたくなった。

 だから、いじめてやった。ゆらりから笑顔が消えた。お姫様の座から、引きずり下ろせた。勝ったって、思った。



 小六のとき。クラスの女子をいじめたのが、先生にバレた。私は咄嗟に嘘をついた。

 友達の渡辺美晴が勝手にやったのだと、口が動いてしまった。

 激怒した美晴は両親に相談し、私の親が校長室に呼ばれた。父は何度も深く頭を下げ、母は号泣した。

 私は反省した。


 ──いじめがバレると、こういうことになるんだ。だったら、絶対にバレないようにやらないとね。


 どうして私はこんなにも性格が悪いのだろう。もう二度といじめはしないって誓えばいいのに。

 だって、嫌いな人や腹の立つ人とどうやって付き合えばいいの? 優しい心なんて持てない。意地悪したくなる。

 嫌いな人と付き合わなければいいって無理だよ。だって、同じ教室にいて、毎日顔を見合わせるんだよ。目障りじゃない?



 ネットで見かけた、いじめられた子の書き込み。


『子供の通っている保育園で、いじめた同級生と再会してつらいです。昔のことを忘れたのか、ニコニコと寄って来る。こっちは話したくない。会いたくない。遠くに行ってほしい。消えてほしい。勇気を出して、昔のことを話したら、「ごめんね」って。それで終わり? 謝ったらそれでおしまい? 私は学校に行けずに、希望する高校にも進めなかったのに……。謝ってスッキリした顔をした相手が憎いです』


 また、こんな書き込みもあった。


『先生の立ち合いのもと、いじめっ子が謝ってきました。先生は「謝ったから許してあげて」って。謝っても許されないから、刑務所ってあるんじゃないの? いじめって犯罪じゃないの? いじめっ子を許さないとダメですか? 理不尽すぎる』


 感動で痺れた。

 謝罪することで、相手の心の傷を抉ることができるんだね。ニコニコと寄っていくことで、トラウマを再発させることもできるのね。

 こういういじめ方もあるのだと、学んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ