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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
Side②
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水都目線②

 メールがきた。岩橋かと思ったら、佐々木萌華からでがっかりする。

 佐々木萌華は、中学校の同級生。強引に腕を組まされたところをゆらりちゃんに見られてしまったという、過去がある。


『同じダンススールに、川瀬杏樹ちゃんがいるんだ。同じ高校なんだってね』


 だからなに? と思う。

 既読をつけてしまったが、このまま放置しようとした矢先。

 新たな通知が来た。


『杏樹ちゃん。ゆらりって子の悪口言っていたよ』


 佐々木萌華は、ゆらりちゃんのことを知らないはずだ。杏樹がなにを言ったのだろう? 

 心臓がどくどくと、嫌な音を立てる。


 数日前。

 杏樹がゆらりちゃんに話しかけているのを見て、驚いた。ゆらりちゃんに聞いてみたら、謝罪され、友達になったとのこと。

 僕はその日のうちに、学校の近くにある公園に杏樹を呼びだした。


「ゆらりちゃんをいじめたら、絶対に許さないから!」

「やだなぁー。そんな怖い顔しないでよ。私、友達のこといじめたりしないよ。二人の恋を応援しているんだから。もしかして、ゆらりちゃん。私のこと、悪く言っていた?」

「心を入れ替えたみたいだって。僕たちが仲直りしたことを喜んでいたって、話していた」


 杏樹は微妙な顔をした。

 僕はなぜか、杏樹が傷ついているように見えた。


「そっか。ゆらりちゃんって、性格いいよね。人の悪口を絶対に言わない……。そうだよ。私、変わったんだ。だから、昔と同じような目で見ないでよ」

「でも僕は、川瀬さんを信じられない。ゆらりちゃんが信じても、僕は信じないから」

「わかっている。絶交させたんだもん。怒るの、当然だよね」


 杏樹は寂しそうに笑った。


 僕はほんの少し、杏樹に同情している。

 僕は彼女のことを、心の弱い人間だと思っている。威張ったり、悪口を言ったり、気の弱い人をいじめることでしか自分に自信を持てない。他者との関係性の中でしか、自分を確立できない。

 そうやって確立したものだって、砂山の上に立っているようなもの。

 自分の心に向き合いなよ。と言いたいけれど、通じないだろう。


 僕はもう一度、


「ゆらりちゃんを傷つけたら、絶対に許さないから」


 と念押しした。



 そして、今。

 佐々木萌華から『杏樹ちゃん。ゆらりって子の悪口言っていたよ』とメールがきた。

 僕は『それいつの話? なにを言ったの?』と送信した。

 僕から返事がきたことが嬉しいのか、萌華からすぐにメールがきた。


『二人で会ってくれるなら、話してあげる!』


「めんどくさーい!!」


 僕はスマホを投げ出すと、ベッドに倒れ込んだ。

 佐々木さんの母親はイタリア人。だからというわけではないと思うのだが、積極的で困る。


「佐々木さんに会うのを、ゆらりちゃんに誤解されたら嫌だ。高梨さんのことも、めんどくさい」


 町田さんは、杏樹に仕返しをしようと企んでいる。

 杏樹が野球部の谷先輩を好きだと知り、ちょっといい感じにさせてから関係をぶち壊すと息巻いている。

 谷先輩は、高梨ひなが好きらしい。

 そういうわけで町田さんは僕に、高梨さんに協力してくれるように頼んでほしいと言ってきた。

 僕は以前、高梨さんに告白された。振ったのに、協力を頼むなんて気が進まない。

 やりたくない、というのが正直な感想。けれど、町田さんは我が強い。しかも暴走している。


「目には目を歯には歯を、作戦だよ!! 川瀬杏樹みたいな自己中人間は、説教したって無駄。自分が痛い目に合わないとわからないタイプだよ! ゆらりとみなっちの仲を引き裂いたじゃん。それと同じことをするだけだよ! 因果応報ってやつ!」


 僕はゆらりちゃんを正攻法で守りたい。けれど、町田さんは裏で画策したいタイプ。

 僕も町田さんもゆらりちゃんを守りたいという点では同じだけれど、考えが異なる。


「意地悪な相手と同じことをしたら、自分も嫌な人間になると思うんだけど……」


 町田さんは友達思いだけれど、過剰なところがある。どうやって暴走を止めよう?

 

「川瀬さん、町田さん、佐々木さん。どうしよう。悩むことが多すぎる! 人が苦手なのにーっ!!」


 ベッドの上でゴロゴロと転がりながら悩んでいると、【ゆり】さんから返信が届いた。


【ゆり@yurarinko・4時間前

 人生初カットモデル! 美容室初めて!! いつも家族が切ってくれていたから。どんなふうになるのかな。ドキドキ(*´︶`*)♡】

 ↓

【ん@supenosaurusu・3時間前

 短くするんですか?】

 ↓

【ゆり@yurarinko・1分前

 友達が勧めた髪型にしました】

 


「友達って書いちゃダメ! 同級生でいいから!!」


 ゆらりちゃんは最初、岩橋を警戒していた。けれど、岩橋がカモフラージュ作戦をしていると知って、警戒心を解いてしまった。


「岩橋、絶対にあわよくばって思っているから!! ゆらりちゃんが岩橋にぐらつくことはないと思うけれど、でも……」


 唸っていると、岩橋から写真が送られてきた。

 

 ピンク色の服を着た人が、子猫を抱いている写真。人の顔は映っていない。


 岩橋から文章が届いた。

『ゆらりちゃん。ピンクのワンピース着てきた。めっちゃ可愛かった』


 速攻、怒りのメールを送る。


『ムカつく。顔入りの写真欲しい。あと、ちゃんづけで呼ぶな!』


 岩橋がまた写真を送ってきた。今度は顔入り。だが……岩橋の顔のドアップ。


「最悪!! わざとだな!」


 気力が根こそぎ奪われた。癒しを求めて、【ゆり】さんの投稿にコメントを入れる。


【ゆり@yurarinko・5分前

 アメショー可愛い❤︎ また抱っこしたいな】

 ↓

【ん@supenosaurusu・3分前

 僕とアメショーと猫の飼い主。誰が一番好きですか?】

 ↓

【ゆり@yurarinko・1分前

 ふふっ(*^^*) 名前に『ゆ』がつく人が好きです】


 僕の名前は、由良ゆら水都みなと。ゆがつく。

 岩橋のフルネームは、岩橋いわはし結斗ゆいと。ゆがつく。


「ゆらりちゃんって天然すぎる! 『み』にすればいいのに!!」


 ゆらりちゃんはしっかりしているようで、ところどころ抜けている。

 でもそんなところも可愛いと思ってしまうので、恋は偉大だ。


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