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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
Side②
36/56

水都目線①

 今日は母の誕生日。母のリクエストで寿司屋に来ている。

 政治家や金持ちや有名芸能人などが来る店だそうで、新鮮なネタに見合ったいいお値段がする。

 僕たちは個室でゆっくりと食事を楽しむ。


「水都は気難しくて、どんな子になるんだろうって、お母さん心配だったのよ。でも、最近楽しそうで良かった」


 母はマグロを箸で挟みながら、にっこりと笑った。

 中学時代。僕は部屋に引きこもっていて、外食に誘われても断っていた。

 父が「思春期の男子は、親と出かけたくないものだ」と母を慰めているのが聞こえてきて、(思春期という言葉で片付けるな!)とモヤモヤした。

 あの頃は自分でも感情を持て余していて、どうしたらいいかわからずにいた。

 そんな僕が母の誕生日祝いに寿司屋にいるのだから、人生って不思議なものだ。

 言おうかどうか迷った末に、僕は思いきって心情を吐露した。


「今まで苦労かけて、ごめん。これからは、大丈夫だと思う」


 母は資産家の一人娘で、労働とか苦労とか節約とかを知らずに育った人。

 そんな母にとって僕という子供が生まれたのが、初めての障害であり、苦労の始まり。

 子供の頃の僕は洋服が気に入らずに癇癪を起こしたり、食が細くて、母の作った料理を毎回残した。また、しょっちゅう体調を崩しては病院に通った。

 母にたくさんの苦労をかけてしまったこと、申し訳なく思っている。

 現在の僕は体力がつき、イヤなものとの折り合いもついて、うまくやっている。

 けれど、母の望む理想的な道を歩んでいるわけではない。母の望む私立の進学校ではなく、県立高校に通っている。

 そのことが心苦しいのだと付け加えたら、母は涙ぐんだ。


「気にしていたなんて知らなかった。お母さんのほうこそ、ごめんなさい。理想を押し付けてしまったけれど、水都が幸せでいてくれることが一番の望みなの。学校、楽しい?」

「うん」

「そう。合っているのね。楽しいと思う場所、見つけられて良かったね」


 父はビールをグイッと飲み干すと、赤ら顔に笑顔を乗せた。


「高校生になって、明るくなったな。成功者とは、生きていることを幸せだと思える人生を送った人だ。後悔しない人生を送るんだぞ」

「うん」


 僕は両親の幸せのハードルを低くしてしまった。けれど、二人とも嬉しそうに笑っているので、親孝行というものができているのではないかと思った。

 もちろん物理的にはまだまだだけれど、少なくても、僕たちは普通に話せるようになった。

 やっと、本物の家族になれたような気がする。



 お寿司はおいしいし、両親とは和やかな会話ができているし、店内も落ち着いていて良い雰囲気だ。

 楽しいはずなのに、心はそわそわしている。早く帰りたくてたまらない。

 原因はわかっている。岩橋がメールを送ってきたからだ。


『ゆらりさん、シャンプーしてもらっています』

『気持ちいいって、喜んでいる。超可愛い!!』

『髪型迷ってるから、俺が提案した。もち、俺好みの髪型!』


 食事中にスマホを見るのは厳禁なので、これらのメールは、トイレに行った際に見たもの。

 すっごい、ムカつく!!

 僕だって美容室に行きたかった。ゆらりちゃんがどんな髪型になるのか、一番に見たかった。


 食事を終え、父が支払いをしている間に、急いで岩橋にメールを送る。


『写真を送って!』


 既読はついたのに、返事がこない。

 僕は家に帰ると、モヤモヤを【つぶラン】にぶつけた。


【ん@supenosaurusu・3分前

 あいつムカつく。僕のほうが仲いいし!】

【ん@supenosaurusu・2分前

 絶対に可愛いに決まっている。今までだって可愛かったんだから】

【ん@supenosaurusu・1分前

 心配事ができた。ライバルが増えた】

【ん@supenosaurusu・40秒前

 彼女を幼稚園から知っている。つい最近知った男に負けるわけにはいかない】

【ん@supenosaurusu・30秒前

 僕と彼女は相合傘をした仲】


【ん@supenosaurusu

 いつかはキス】


 途中まで入力して、慌てて削除する。


「願望が漏れるところだった。危ない」


 町田さんは危険だ。心が読めるのでは……と怖くなる。

 告白のタイミングを狙っているし、キスする気満々っていうか……好きな子とキスしたいって思うのは普通だよね?


 

 

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