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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第二章 八年の溝を埋めていこう
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モヤモヤ

 授業中、杏樹のことを考えた。

 杏樹は小六のときにいじめがバレて、先生と親から怒られたと話していた。


 当時。私はその話を、友達だった佐藤乃亜から聞いた。


「杏樹ちゃんは先生に、自分はいじめていない。美晴ちゃんが勝手にやったって、話したんだって。そのことに、美晴ちゃんがキレちゃって。親に、杏樹ちゃんから命令されてやったって話したらしいよ。今校長室に、美晴ちゃんと杏樹ちゃんの親が来ているみたい」


 私は六年一組で、杏樹は六年三組。クラスが離れていたので、それ以上の詳しいことを知らない。

 けれど過去に自分がいじめられた経験上、杏樹が率先していじめて、それに美晴が従ったのだろうと思った。

 友達のせいにして逃げる杏樹のことを、私はずるい人だと軽蔑した。


(先生と親から怒られて反省したって、本当?)


 杏樹は「いじめるのはやめた」「反省した」と口にした。信じてもいいのか、悩む。

 魅音に相談したいけれど、風邪のため欠席している。水都が頭によぎったけれど、杏樹のことは相談しにくい。



 休み時間、廊下で杏樹と出くわした。

 杏樹は「ゆらりちゃん!」と笑いかけ、私を手招きした。友達のような親しさで、ヒソヒソ話をしてきた。


「由良くんとゆらりちゃんって仲良いみたいだけど、もしかして付き合っている? って噂になっているよ。ゆらりちゃんを呼び出して、もし付き合っているなら懲らしめるって言っている子もいて……まずいんじゃない?」

「あ……」


 水都と学校で話すようになってからずっと、周囲の目が気になっていた。水都に好意を持っている女子は多いけれど、水都は誰に対しても無愛想で、話しかけられてもニコリともしない。

 けれど、私には笑顔で話しかけてくる。だから、嫉妬した女子に呼び出されたり、嫌がらせされるかも……と不安はあった。


「どうしよう……」

「悪いことをしているわけじゃないんだから、毅然とした態度を取ったらいいよ。なんて、私は思うけれど、優しいゆらりちゃんには無理だよね。だから、由良くんに言ってみたら? 少し距離を置こうって。学校では話さないほうがいいよ。高梨ひな、わかる? 前に、由良くんに振られた子。あの子、すごい可愛いじゃない。フラれたのが初めてだったみたいで、かなりショックだったらしい。ゆらりちゃんの噂がひなの耳に入ったら、私を振ったくせに、ダサ子と付き合うなんて許せないって、絶対に怒るって!」


 ダサ子……。

 少し傷つきながらも、私は「うん……」と、力なく頷いた。

 せっかく水都と仲直りできたのに、噂が広がることで、またギクシャクした関係に戻るのは嫌だ。


「魅音も水都と仲良いから、今はそっちのほうが目立っているみたいだけれど、でも、そうだよね。学校では距離を置いたほうがいいよね」

「水都って、呼び捨てなんだ? くんを付けないの?」

「あ、ごめんなさい。昔からの癖で……。水都も、そのほうが嬉しいっていうから」

「ふーん……」


 杏樹は気分を害したらしい。それまでニコニコとしていた笑顔が消え、冷めた目で私を見た。


「そういうところがダメなんだって。町田さんと由良くんが仲良くしてても、ミナトなんて呼び捨てにするのは、ゆらりちゃんだけじゃん。特別な関係だってバレバレ。気分悪い」

「ご、ごめんなさい……」


 やはり私は、杏樹が苦手だ。いじめられた過去が心に残っていて、怯えてしまう。謝罪が口をついて出てしまう。

 なんでも話せる魅音とは違って、杏樹には本音を話せない。警戒心を解くことができない。


 私が落ち込んでいることに気づいたのか、杏樹は冗談っぽく肘で私を小突いた。


「かっこいい彼氏がいると苦労するね。でも、由良くんに愛されているなんて羨ましいっ!」

「愛されているって、そんな……」

「だって、ゆらりちゃんを見る目が優しいもん。応援しているからね!」

「ありがとう」


 杏樹は私のことを心配し、応援してくれている。友達になろうと言ったのは、本当らしい。

 それなのに私は警戒心を解くことができずに、友達になりたくない……なんて、心の狭いことを考えている。


(いじめたことを謝ってくれたのに、なんでまだ許せないんだろう。私って、嫌な人間……)

 

 杏樹を許せない自分のことが、許せない。

 


 六時間目のロングホームルーム。席替えが行われて、私は窓側の一番後ろの席になった。

 隣にいるのは、水都。


「え? 隣の席なの?」

「うん。よろしく」


 学校では水都と距離を置こうとしたのに、うまくいかない。

 私は、水都の机に黄色い付箋紙を貼った。


『私たちのことが噂になっているみたい。学校で話すのはやめよう』

 

 水都の手が伸びてきて、私の机にペタリと、青色の付箋紙が貼られた。


『嫌です』


 嫌ですっ⁉︎

 私はすぐさまシャープペンを持つと、黄色い付箋紙に文字を綴る。


『女子の関係って難しいんです! これからはメールでやり取りしよう』

『嫌だ。物足りない』

『わがまま!』

『うん。自覚はある』 


 私と水都は先生の目を盗んで、付箋紙のやり取りを続ける。


『由良くんって、呼ぶことにする』

『ダメ』

『じゃあ、水都くん』

『ダメ』

『呼び捨てにすると怪しまれる。親しいのがバレちゃう!』

『むしろバレたい』


 黄色い付箋紙に『もぉ!』と書き、その後に続ける言葉に悩む。すると、水都が青い付箋紙を貼ってきた。


『僕と町田さんと岩橋で、ゆらりちゃんを守る。だから安心して。困ったことがあったら僕に相談して。力になるから』


 魅音と岩橋くんの名前が出てきたことに、ハッとする。

 

 その日の夜。魅音に電話した。


「魅音はみんなの前で、みなっちって呼んでいるよね。岩橋くんは私にしょっちゅう話しかけてくるし。もしかして、私と水都が仲良いのが目立たないようにしてくれている?」

「気づいちゃったかー。そうそう。うちら、カモフラージュ作戦をしているんだ。みなっちが「ゆらりちゃんを女子たちから守りたい」って言うから、うちが考えたんだ」


 鼻声の魅音。私は感激して涙ぐんだ。すると魅音は、豪快に笑った。


「いいって! うちにもメリットがあるしぃ。だって、あのクールなイケメンモテモテ男子を、堂々とみなっちって呼べるんだよ! しかもシカトされることなく、『なに?』って答えてくれるし。役得だ!! 女子たちの羨望の目が、うちに注がれる快感! だが、岩橋には気をつけろ。あいつはアホだ。『ゆらりさん、俺に興味があるっぽい』って勘違いしている。そのうち、みなっちにシメられると思うわ」


 水都と魅音と岩橋くんの優しさに、胸が温かくなる。

 小二のときとは違う。私はもう、一人で悩まなくていい。私には心から信頼できる友達がいる。


 


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