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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第一章 絶交中の幼馴染
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私の家庭事情

 両親は、私が中学一年のときに離婚した。

 学校から帰ってくると、母がシクシクと泣いていた。母は情緒不安定な人なので、特に気に留めなかった。

 母は泣き腫らした顔で「驚かないでね」と、前置きした。


「うっく。ひっく。ママね、彼氏と結婚しようと思うの。でも彼氏がね、自分の子供じゃないと愛せないって。他の男と出来た子供と暮らすのは嫌だって。昌幸さんがね、ゆらりとひよりとくるりを引き取るって。向こうのおばあちゃんも面倒を見てくれるって。離れても、ママはゆらりたちのことを愛しているからね」


 昌幸さんというのは、私の妹であるひよりと、弟のくるりの父親。残念ながら、私とは血がつながっていない。

 けれど私は、昌幸さんが大好き。


 私の家庭は少し、複雑。母は一回離婚している。私は前の人の子供。私は産みの父親の顔も名前も知らない。物心着いたときには、昌幸さんというパパがいて、ひよりとくるりがいた。

 

 私は冷静に状況を理解した。


(彼氏? 最近楽しそうに仕事に行っているから怪しいと思っていたけれど、そこの会社の人?)


 正解。母はガス会社の事務員をしていて、そこの社員と恋に落ちたらしい。

 私も、ひよりも、くるりも、父の味方をした。父は大病をしていて、入院中だった。


「私たちが、パパを支えようね!」


 きょうだい三人で一致団結し、父を助けようと誓った。

 両親が離婚した後。父のおばあちゃんは家を売り払い、私たちの家に来てくれた。私たちの学校のことを考えて、住み慣れた町に別れを告げたのだ。

 優しい父とおばあちゃん。

 裕福な生活ではなかったけれど、楽しかった。幸せだった。けれど去年、おばあちゃんは病気で亡くなった。

 裕福とはほど遠い、慎ましい生活。けれど、倹約には自信がある。貧乏だって、楽しく生きていける。



 ひよりとくるりは夕飯を食べ終えていたけれど、食べたいというのでコンビニ弁当を温める。

 中学二年生の妹ひよりは、ふわとろオムライス。小学六年生の弟くるりは、焼肉弁当。私は二人から半分ずつもらう。


【つぶラン】に感想を流す。


【ゆり@yurarinko・1分前

 バイトを終えて腹ペコ。オムライスと焼肉弁当が美味しすぎる! 幸せだー❤︎】


 裕福な人には、私たちはかわいそうに見えるかもしれない。

 けれど、父は優しくてかっこいいし、お味噌汁を作るのが上手。今夜は介護仕事の夜勤でいないけれど、具だくさんのお味噌汁を作っていってくれた。

 私は大変に幸せだ。



 ◇◇◇



 翌朝。教室に入って早々、友達の町田まちだ魅音みおんが寄ってきた。


「ゆらり! 驚かないで。落ち着いて聞いて。いい? 落ち着いてよ。とり乱さないで。これから衝撃的なことを話す」

「ええっ⁉︎ なになに。宇宙人に学校が乗っ取られたとか?」

「ちょっと!! ハードルを高くしないで」


 魅音は拗ねたように唇を尖らせたが、すぐに好奇心を剥き出しの顔に戻った。


「水都くんが、高梨ひなに告白されたんだって! なのに、振ったらしい!!」

「あー……うん」

「なにその、冷めた反応。学校一の美少女に告られたのに、振ったんだよ!!」

「驚かないでって言ったのは誰よ?」

「うちですが。それがなにか?」


 私は自分の机に鞄を置くと、水都の席を見た。廊下側の前から二番目は、案の定、空席。水都は時間ギリギリに登校してくる。


「魅音。絶対に誰にも話さないって約束できる?」

「んー、難しいな。超絶おもしろいことだったら、話しちゃう」

「だったら大丈夫。そこまでおもしろくはないから」

「オッケー。だったら秘密にする」

「昨日の放課後。その告白現場を見てしまった」

「えぇっ! 超絶おもしろいじゃん!! ゆらり様、詳しく話して!」

「でも、誰かに話しちゃうんでしょう?」

「王様の耳はロバの耳みたいに、穴に向かって話すとするわ」

「あ、私も昨日、同じことを考えた」

「さすが類友!」


 名は体を表すというのは本当だと思う。魅力的な音と書いて、魅音みおん。魅音は合唱部に所属している。声が綺麗だし、滑舌も良い。

 私は特徴ある声ではないし、歌が下手。

 魅音は癖の強い性格をしているが、大好きな友達だ。


 私は昨日のことを話した。

 魅音はこぼれそうなほどに大きな目を、さらに大きくした。


「まさか、それで終わりじゃないよね?」

「終わりだよ」

「いやいやいや、謎が多すぎる!!」

「謎って?」

「まず、水都くんは好きな子がいるのかいないのか。高梨ひなのなにが嫌だったのか。そして、かっこいいと言われて不機嫌になったのはなぜか?」

「そこは私も気になったけど、本人に確かめるわけにはいかな……」


 慌てて口を噤む。水都が教室に入ってきた。

 水都は私を見ることなく、いつもどおりのポーカーフェイスで席に座った。


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