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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第二章 八年の溝を埋めていこう
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キミを守りたい

 水都が待ち合わせに指定した護摩神社は、鬱蒼とした森の中に小さな社がぽつんとあるの、こじんまりとした神社。

 人々の興味をかき立てる壮大な歴史があるわけではなく、神社を抜けて近道ができるわけでもない。しかも、段差の大きい階段を三十三段上がらないといけない。

 そういうわけで、参拝に訪れる人はほとんどいない。

 泣くにはうってつけの場所である。


 私は、人目を気にすることなく泣いた。そのうち、擦りすぎたせいでまぶたが痛くなってきた。しかもお腹が空いた。

 スマホの時計を見ると、十一時。水都との待ち合わせは一時半なので、だいぶ時間がある。

 私はからっぽのお腹と心を満たすべく、近くにあるスーパーで贅沢をすることにした。

 普段だったら絶対に買わない、高級アイスと高級プリンを買って、スーパーの端に設けられているイートインコーナーで食べる。フレッシュジュースも買いたかったけれど、二百円近い値段に怖気付き、イートインコーナーにある無料の水を飲む。


「飲み物にお金を払えないところが、貧乏人って感じだよね」


 高級プリンは美味しいけれど、甘すぎた。水を飲んで、口の中の甘さを流す。

 暇なので【つぶラン】を眺め、それにも飽きて、投稿する。


【ゆり@yurarinko・1分前

 お母さんに貯金箱のお金をとられた。昔から子供のものは自分のものだって、お年玉もとられていた。落ち込む。だけど今度こそ、さよならって突き放せるからいいや】

【ゆり@yurarinko・30秒前

 家族と焼肉食べ放題に行きたかった】


 自分勝手でわがままで金銭感覚ゼロの母親だけれど、それでも、いい思い出もあった。

 お祭りで買ってもらったりんご飴を不注意で落としてしまったことがある。怒られると思ったら、母は笑顔で「大丈夫よ。また買ってあげる。今度は落とさないように気をつけるのよ」と、同じ屋台でりんご飴を買ってくれた。

 そういう、母の優しさを感じたささやかな思い出が心から消えていかず、憎みきれなかった。

 今日はバイトがあるからと話を切り上げたけれど、あのまま話していたら、お金を貸してほしいと頼まれただろう。きっと、拒めなかった。


「忘れよう。お金持ちにはなれない運命なんだ……」


 気持ちに区切りをつけると、トイレに向かった。顔を洗って、鏡に映る顔を点検する。

 目は若干充血しているけれど、まぶたは腫れていない。

 暗い雰囲気を払拭するために、笑顔を作る。すると、鏡の中の自分がぎこちなく笑った。


「水都に会いたくないな。でも、約束したから行かないと……」


 待ち合わせ時間には少し早いけれど、スーパーの外に出る。

 真っ青な秋の空を見上げているうちに、さきほどSNSに流した投稿への後悔が押し寄せてきた。

 警察に訴えたらどうですか? とコメントしてくる人がいるかもしれないし、悪意ある人たちが、ざまぁ笑えるwと中傷してくるかもしれない。

 母を訴える気はない。会わずにいたいというのが本音。

 そういうわけで、さきほどの投稿を二つ消した。


 護摩神社に着いたのは、一時十分。待ち合わせまで二十分も早いのに、社の前に水都が立っていた。


「あれ、水都? 早いね」

「うん、ちょっとね。お祈りしていた」


 水都は寂しそうに微笑むと、振り返って社を見上げた。その体勢のまま、言葉を足した。


「ゆらりちゃんが幸せになりますようにって、祈っていたんだ」

「私……?」


 顔を戻して再び私を見た水都。微笑んでいるものの、やはりどこか寂しそうで、尋ねずにはいられなかった。


「どうしたの? なにかあった?」

「僕は弱虫だった。ゆらりちゃんを守りたかったのに、守れなかった。そのせいで、ゆらりちゃんをつらい目にあわせたこと、ずっと謝りたかった。小学生のときのこと、ごめん。もう二度と、同じ失敗はしない。仲直りしたい。ゆらりちゃんを今度こそ、守るから」



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