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キミの隣が好き  作者: 遊井そわ香
第一章 絶交中の幼馴染
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ずっと、好きだった

 私に手紙を渡すために、水都が店に来てくれた。そのことに、頬が緩んでしまう。

 流しにある鏡を覗くと、顔がにやけている。バイトが終わるまであと一時間もあるのに、これはマズイ。

 私は頬をピシャッと叩くと、表情を引き締めた。

 それなのに、水都の私服姿が頭から離れていかない。ジーンズと薄手のニット。V字のニットから覗いていた鎖骨が綺麗だった。


「……って、私のバカー! キモすぎるっ!!」

「どうした?」


 挙動不審な言動を見かねたのだろう。伊藤美月さんが声をかけてきた。けれど、店内で話すわけにはいかない。

 なんでもないです、と誤魔化すことはできる。けれど、彼氏のいる伊藤さんに相談してみたい。

 私は悩みがあることを伝え、相談に乗ってほしいと頼んだ。


「わー、嬉しい! ゆらりちゃんに頼られた! 九時まで待っていられる?」

「はい」


 私のバイト上がりは八時。伊藤さんは九時。

 私は先にバイトを終えると、家に電話して遅くなることを伝えた。廃棄処分になったお弁当を事務所で食べる。

 九時になり、バイトを終えた伊藤さんとコンビニの裏に回った。縁石に座り、伊藤さんが買ってくれたホットココアを飲む。

 九月下旬。夏の熱気が遠ざかり、冷ややかさが増している。ホットココアを両手で包み込むと、指先が意外と冷えていることに気づく。


 私は伊藤さんに、水都と絶交したことを話した。

 自分の心の中に押し留めてきたのに、魅音に話したことで解放されたらしい。言葉がすんなりと出てきた。

 伊藤さんは聞き上手だった。いじめられたことや絶交したこと以外にも、自分に自信が持てなくて、可愛く思えないことも話した。


「水都がお店に来てくれて嬉しかったけれど、それって、土曜日に会う約束をするためで、告白とかじゃなくて……クラスメートとして普通に話そうとか、そういうことなんだと思います。だから、付き合うとか、ないと思う……」

「どうしてそう思うの?」

「だって……私、可愛くない。ブスだし、地味だし……水都に似合わない……」


 伊藤さんはコーヒーを一口飲むと、夜空を見上げた。細い月が昇っている。

 ひっきりなしに走っている車の音に、伊藤さんの穏やかな声が乗る。


「ゆらりちゃんの話を聞いていると、ミナトくんを好きにならないよう、一生懸命にセーブしているように聞こえる。本当は、好きになりたいんじゃない?」

「でも、私……」

「私はゆらりちゃんのこと、可愛いって思うよ。すっごく可愛い。ミナトくんの隣に並ぶの、最高に似合っている。クールな男の子と、ほんわかした女の子。最高の組み合わせじゃん! それにね、ブスって言った女のほうがブス! ミナトくんと付き合って、そのいじめっ子を見返してやって。っていうかね! 学校に乗り込んで、そのいじめっ子に説教してやりたいよ。私のゆらりちゃんをいじめるなって!!」

「ははっ、ありがとうございます」


 伊藤さんの優しさが心に染みて、笑っているのに、涙がふわっと浮いてきてしまった。

 グズグズと鼻を啜る私の頭を、伊藤さんが撫でてくれる。


「あー、可愛い。こんな妹が欲しかったー!!」

「私も、伊藤さんがお姉さんだったら良かったのにって、思います。相談に乗ってくれてありがとうございます。前向きになれました」

「良かった。でもまぁ、自分に自信がないのは私もだけどね。人と比べて、あんな顔になりたかったって、しょっちゅう思っているもん。でも世の中には、たーくさんの人がいるだもん。いろんな顔があっていいと思うんだよね。素材で勝負できる女になる! それが私の目標。ゆらりちゃんもさ、その顔で勝負しなよ。いいとこいける。お姉さんが保証しよう!」

「ありがとうございます」


 言葉って不思議。

 小学生のときに受けた、言葉の呪い──ブス。貧乏。嫌い。見ているだけでイラつく。由良くんにふさわしくない。消えろ!

 すごく、傷ついた。

 けれど今日。言葉によって救われた。力いっぱい励ましてくれた魅音。可愛さレベルが上昇する可能性があると、期待する言葉をくれた店長。その顔で勝負しなよって、背中を押してくれた伊藤さん。


 私は可愛いって胸を張って言うことはまだできないけれど、可愛くなりたいっていう欲がでてきた。

 どんな美人だって、綺麗になる努力をしている。それなのに私はブスだから、貧乏だからって諦めて、磨いてこなかった。

 可愛くなりたい。明るくなりたい。輝きたい。水都と出会った頃の、元気溌剌な私に戻りたい。

 そしてできれば……水都の、好きな相手になりたい。

 そうだ。私は、水都が好き。ずっとずっと、好きだった──……。



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