「ん」さんからの返信
私は勤労少女。木曜日はバイトの日である。平日の勤務時間は、夕方五時から八時まで。
そういうわけで、四時五十分頃にコンビニに着き、店内にいるスタッフに軽く頭を下げてから事務所に入る。
ロッカーに鞄を入れ、制服に着替える。それからしゃがみ込んで、鞄からスマホを取りだした。
「あれ?」
画面を確認すると、【ん】さんから返信がきている!!
スマホの画面に触れる指が震える。
【ん@supenosaurusu・9月18日
どうしよう。知ってしまった】
↓
【ゆり@yurarinko・10時間前
どんなすごいことを知ってしまったの? 気になります】
↓
【ん@supenosaurusu・1時間前
コメントありがとうございます。好きな人の情報です】
後頭部を鈍器で殴られたかのように、目の前が真っ暗になった。
左手を床につき、ふらつきに耐える。
「やっぱり、好きな人いるんだ。あのハーフの女の子だったりして……」
もしかしたら私かもしれないって、期待する気持ちはある。けれど、絶交して八年。想い続けてくれているわけない。
それに高校生になった私は、水都が結婚したいと思ってくれたあの当時の、天真爛漫な元気少女じゃない。
杏樹の嫌がらせや、両親の離婚や、祖母の闘病と病死で、影を背負った気がする。
水都の世界に、私がいるわけない──。
視界がふわっと滲んだ。慌てて目元を擦る。スマホを鞄に入れると、えいやっと立ち上がった。
「大丈夫! わかっているもん。水都とは幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない」
私と水都は、ただの幼馴染。恋愛感情でつながっているわけじゃない。絶交した過去は取り戻せない。
それなのに……仲直りできたら、私はまた水都の世界に入ることができるんじゃないかって夢見てしまう。
ロッカーについている鏡でおさげを結び直していると、店長が事務所に入ってきた。
「店長、正直に答えてほしいことがあります! お世辞とかいらないです。外見のレベルを一から十で表すと、私ってどれくらいですか?」
「うーむ、難しい質問だ」
店長はお腹が突き出ている。棚にお腹を当てながら、事務所の奥へと進んだ。パソコンの前に座ると、キャスター付きの椅子がギシッと鳴った。それから、私をまじまじと見た。
「……七ってとこかな?」
「中の上ですか! すごい!!」
「自分は熟女好きだから、高校生はちょっと……ってだけで、ゆらりさんを可愛いと思う男子は結構いると思うよ。優しい性格が顔に出ている。付き合うなら、性格の良い子が一番。どんな美人でも見飽きるときがくる。美人は観賞用、実際に付き合うのは性格の良い子。これ、バツイチの俺からのアドバイス」
「店長ってバツイチなんですか?」
「あれは遠い昔。俺がまだスリムな体型だったとき……って、聞きたい?」
「聞きたいけれど、時間が……」
時計の針が五時に迫っている。
店長は、「そりゃ、残念だ」と感情のこもっていない声で惜しんだ。本気で話す気はなかったらしい。
「おじさんから有益なアドバイスをあげよう。ゆらりさんは十六歳。成長期にある。今はレベル七だが、上昇する可能性が大いにある」
「本当ですか⁉︎」
「うむ。一年後に、もう一回同じ質問をして。九って言っている未来が見える」
「わー、嬉しい!」
店長は私の父より年上。けれど、ユニークな人柄で話しやすい。
店長のおかげで、私は笑顔で店内に出ることができた。
夕方のコンビニは忙しい。レジを気にしながら、手が空いたときには、品物を補充したり前出しをする。
メインのレジは、大学生のお姉さんが入っている。
私は陳列棚に並んだお弁当を整えながら、キャンペーンになっているブリトーを推奨する。
「ブリトー全品が三十円引きとなっていますー。いかがでしょうかぁー」
レジが混んでいないか確認するために、顔を横に向ける。
すると、よく知った顔がそこにあった。
「うわっ!!」
思わず、叫んでしまった。
そこにいたのは──水都だった。