よし、謝ろう!
「好きっていうか……。何年も話していないし、いまさら友達になんて戻れないよ……」
「だよね。うちら高校生だもん。友達じゃなくて、彼氏彼女の関係を求めちゃうよね」
「うん……。って、はあっ⁉︎ な、なにを言っているの⁉︎ 私の言っている好きって、友達としての好きのほうだから。誤解しないで!!」
驚きすぎて、息が止まりそうになる。
魅音は、わかっているよ。といった顔で、ウンウンと頷いた。
「水都くんって淡白に見えるけれど、実は一途男子なんだね。恋愛に興味がなさそうなのに、実は初恋を貫いているだなんて最高かよ! ゆらりの後を追いかけて同じ高校に入ってくるなんて、健気だわー。さっさと仲直りして、付き合っちゃいな」
「なんでそうなるの⁉︎ 違うからっ!!」
予鈴が鳴った。あと十分で、午後の授業が始まる。
お弁当を片付け、トイレに行くために立ちあがった魅音。その隣を歩きながら、誤解を解こうと試みる。
「魅音、誤解しないで!! 入学式の日に、水都のお母さんに会ったの。向こうも私のことを覚えていてね、話したんだ。それで知ったんだけど、水都、中学校が合わなかったみたいで。不登校気味だったらしいんだ。だから、環境を変えるためにここに来ただけで、別に私に会うためじゃないんだからね」
「この先なにかあったら、親友よりも結婚相手を優先しておくれ。うちは二番目でいいから」
「結婚相手じゃないから!! 思い込みが激しすぎる! あのね、結婚の話は六歳のときの話だよ? 子供のときの話を間に受けないで。向こうは忘れていると思うし。もしも覚えていたとしても、黒歴史だと思うよ。水都だったら、可愛い子と付き合えるもん。それに私だって、結婚がなにかよくわかっていなかったのに、流れでいいよって言っただけだし……」
魅音の足が止まった。数歩遅れて、私も足を止めた。
女子トイレの洗面台に、川瀬杏樹がいる。水都と絶交するよう、強要した女子だ。
杏樹と私は、小中と、何度も同じクラスになった。けれど、全然仲良くなれなかった。
三つ子の魂百まで、ということわざは本当だと思う。杏樹の気の強さは変わらないまま。私はそれが苦手で、彼女とは距離を置いている。
杏樹が私を見た。彼女の鋭い視線が苦手で、つい、うつむいてしまう。
杏樹はツンとしたすました顔で、私を素通りした。長いサラサラ髪から、ふわりとした花の匂いがした。
(いい匂い。川瀬さんっておしゃれだよね)
我が家のリンスインシャンプーとは違う、いい匂い。女子力の違いに落ち込んでいると、魅音が毒づいた。
「ヘアコロンなんかつけちゃって。くせー」
「え? シャンプーの匂いじゃないの?」
「ヘアコロンを手に持っているじゃん。うち、甘ったるいにおいって嫌いなんだよね」
魅音は鼻をつまみながら、話を続けた。
「それよりもさ、川瀬に負けたままでいいわけ? やり返さないの? うち、協力するけど」
「負けるとか勝つとか、どうでもいい。仲直りできれば、それでいいよ」
ずっと、水都に謝りたかった。でも周囲の目が怖かったし、勇気もでなかった。
けれど高校生になり、水都と同じクラスになった。町田魅音という頼もしい友達もできた。神様が、仲直りするチャンスをくれた。
ウジウジと後悔するのには、もう飽きた。いじめっ子のせいで、過去を引きずったまま生きていたくない。
「よし、決めたっ!」
「さすがは親友。川瀬杏樹にどうやって仕返しする? 同じことをやり返したいよね。あの女の好きな男子を調べて、関係をぶち壊してやろうぜ!」
「ちがーう! あの人のことはどうでもいいから! 水都に謝ることを決めたのっ!!」
親友といっても、心は通じないものである。
トイレに行った後、教室に戻った。水都の席は、廊下側の前から二番目。
水都を見ると、頬杖をついてぼんやりとしている。
私は声を発していないのに、なぜか水都の目がこちらに向き──視線が交わった。
ドキンっ! と、心臓が跳ねる。
今まで、私たちは視線が合わなかった。気まずさのあまり、私が水都を見ていなかったというのが大きな原因だけど……。
水都の目が、少し、大きくなった。
驚いているのが伝わってきて、私はなんだか恥ずかしくなってしまい、慌てて自分の席に戻った。
そして、放課後。私は謝罪すべく、水都の後をつけた。
水都にバレないように尾行しつつ、タイミングを見計らって彼の前に飛びだして謝る。
そういう作戦だった。
しかし──。