告白現場
「水都くん、好きです。私と付き合ってください!」
「無理」
「なんでっ⁉︎ その理由は?」
「ごめん。無理」
「なっ⁉︎ 無理なんてそんな……付き合ってもみないで、決めつけないで! 私と付き合ったら、絶対に楽しいから!」
「ごめん」
「……もしかして、好きな人いる?」
「…………」
私は今、告白現場に遭遇している。
目の前が真っ暗になり、足から力が抜ける。倒れそうになるのを、壁に背中をつけることで耐える。
放課後。バイトに行くまでの暇つぶしとして、図書室で雑誌を読んでいた。そろそろ時間だと腰を上げ……喉が乾いたぞ。ということで、購買部の前にある自販機コーナーに向かった。
私の家は貧乏。けれど昨日、バイト代が入った。
「今日は豪華に、ぶどうジュースを飲んじゃうぞ!」
なんて、ウキウキ気分で自販機のところに来てみれば、知り合いの告白現場に遭遇。
自販機の横に隠れながら、スマホを打つ。
床屋の男が穴に向かって「王様はロバの耳ー!」と叫んだみたいに、心の声を表にだしたい。けれど、校庭に穴を掘るわけにはいかない。だったら、SNSで叫ぶしかない。もちろん、ぼかして。
【ゆり@yurarinko・10秒前
告白現場に遭遇してしまった!!】
告白をしているのは、一年三組の女子。名前は、高梨ひな。
彼女は、アイドルグループに入れそうなほどに可愛い。他クラスの生徒に疎い私でも、高梨ひなのことは知っている。
告白されているのは、私と同じ、一年一組の男子。名前は由良水都。
隠れている自販機からこっそりと顔を出すと、二人の様子を窺った。
アイドル並に可愛い女子と、無愛想だけれどイケメンな男子。
二人の背景となっている窓の向こうにあるのは、西日に照らされている自転車置き場。
私はまた、スマホを打つ。
私が利用しているSNSの名前は、【つぶやきランド】。略して【つぶラン】
気軽につぶやくことができるサイトで、一年以上利用している。
【ゆり@yurarinko・10秒前
告白できる勇気があるってすごい。私には無理】
高梨ひなは、感情豊かな声で押しまくる。
「三ヶ月。ねっ、とりあえず、お試しで三ヶ月付き合おうよ! 絶対に楽しいから!!」
「やだ」
「即答すぎない⁉︎ ちゃんと考えて!」
「考えている。でも、ごめん」
「なんで? 私のどこが気に入らないの?」
「気に入らないとかそういうことじゃなくて……他の人と付き合えば?」
「私は水都くんが好きなの! 水都くんよりも、かっこいい男子なんていない!!」
それまでの水都は、渋々答えているといった口調だった。それが、不機嫌に変わった。
「かっこいいって、どこらへんが?」
水都が怒っていることに気づいたらしく、高梨ひなは慌てて付け加えた。
「かっこいいっていうのは、外見も内面も両方! なにを考えているのかわからないミステリアスなところが素敵だし、男子とつるまないで一人でいるのもいいなって思う。私もね、顔がいいから、水都くんの気持ちわかるよ。可愛いって言われると、この人上部だけしか見ていないんだって、がっかりするもん」
黙り込んでいる、水都。高梨ひなは、早口で言った。
「でもね、私! 顔だけで好きになったんじゃない。そこは誤解しないで。水都くんの全部が好きなの。それよりも、好きな人がいるなら教えてよ。名前を言いたくないなら、いるかいないかだけでもいいし!」
盗み聞きはよくない。けれど、足が一ミリも動かない。だって、私も聞きたい。
——水都の好きな人って、誰?
スマホを握りしめる。
いないって言って──……。
SNSでそうつぶやこうとして、止めた。私にそんなことを言う権利なんて、ない。