武流の愛されすぎる日常
こんなお話を作ってみました系。
まあちょっと長いのは勘弁…
世の中というのは不公平だ。人間は生まれたときからそれを味わう。例えば家柄の問題とか。そして例えば俺とか。
俺の名前は南一文字武流といい、よく人に名字を間違えられる男だ。東一文字、十文字、南文字…とまあとにかく間違いのヴァリエーションだけは豊富である。別に自慢できることではないので、結構複雑だ。まあ名前のことなどどうでもいい。問題なのは俺の周りの環境だ。今日はそれをちょっと見てもらいたい。
俺は南一文字武流。平凡な高校二年生…だと自分は思っている。家族環境は父、母、姉、そして俺という核家族である。ただ、両親は共に研究者なので、あまり家には帰ってこない。そのせいか、昔は俺はお姉ちゃんっ子であった。勘違いしないで欲しい。昔は、だ。今の、風呂に強引に入ってこようとしたり、寝ると必ず俺を襲ったり、俺の飯に変な薬を入れようとしたりする姉のことなど俺は慕っていない。むしろ迷惑だ。幼なじみの女子と包丁持って戦ったり、俺の携帯のメールを常にチェックしたり、俺の抜け毛を収集する姉はとても迷惑だ。
そうなってしまう原因はまあ俺にあるらしいのだが…詳しくは知らない。
とにかく、俺は今の姉がすごく苦手だ。
「武流〜起きてる〜?起きてないね〜」
「起きとるわ〜〜〜!!」
そんなとき、いきなり俺の部屋に姉貴、南一文字静流が侵入した。ちなみに、五重に鍵を掛け、さらにドアの前に物を置いて精一杯のブロックはした。
だが、効かなかったらしい。この姉貴は俺に対してだけ積極的だ。
「起きてないなら何してもいいよね〜」
「よくねえよ!!つうか起きてる!!」
姉貴が俺に奇妙な手つきで近寄って来る。
視線は常に俺の下半身。
この姉貴は主に性的なスキンシップを俺に求めてくる困った人だ。
「ああ…武流ったら本当に格好いい…ハァハァ」
「くっ…」
どうすればいいんだ?
「武流!!無事?!」
「おお!!」
そんなとき、玄関の鍵をこじ開けて家に入ってきた幼なじみの座興麻衣の声がした。
「チッ」
姉貴が舌打ちをする。おお怖…
「私の武流には指一本触れさせない!!」
そして俺の部屋に包丁を持って入ってくる麻衣。そしてそれを見て姉貴もポケットから包丁を取り出す。
こいつら、危険だ。だが、今は麻衣に感謝だ。
「と、いうわけで俺は逃げる」
俺はその隙に自室の窓を開けて逃げることにする。
ちなみにここはマンションで、俺達の部屋は6階だ。
普通の人間なら無事で済まないが、俺は一般人より「少しだけ」頑丈なのだ。
「あああああ!!」
姉貴の絶叫が聞こえるが、そんなのもは全て無視しなければいけない。今は急いで学校に行くのが先決だ。
俺は着地に成功し、100m10秒7の足を使って通学路を走った。
「やあ武流。毎朝羨ましいかぎりだね」
「何だお前。マゾヒストか」
走ってる俺に並走してきたのは俺のもう一人の幼馴染の東海林空。女のような外見をしているが、男である。ちなみに陸上部所属で、短距離専攻。
「そうじゃな…くもないけどさ…」
「否定しろ」
「でもさ、やっぱり女の子に追いかけられるのは、世間一般から見て羨ましいことだと僕は思うよ」
「そうかいそうかい…」
俺は脱力しながらも足だけは懸命に動かした。
「でもさ、武流はやっぱりすごいよ」
「はぁ?」
「成績は学年トップ、運動神経抜群、容姿端麗、才色兼備…ハッキリいってこの世の全ての才能を持ってるといっても過言じゃないよ」
そう、何故か俺はこいつの言う通りの男らしいのだ。
正直な話、勉強も運動も昔からの努力の結果だし、容姿については偶然としか思えない。しかし容姿はそこまででもないと俺は思うのだが…
「あー。武流、今自分の容姿は大したことない~とか思ったでしょ?」
「俺の考えが何故分かる」
「ええ?!だって…武流のことだから…」
顔を赤らめながら空が俯く。つうか頬を染めるなよ、同性相手に。
「キャー!南一文字先輩よ~~~!!」
「本当だわ!十文字先輩よ!!」
校門前で俺に黄色い歓声が上がった。
というか名前間違えるな、一部の女子よ。
「いつ見ても素敵だわぁ…」
「ああ…武流×空…ハァハァ…」
一部キモチワルイ想像をしているのもいるが、そんなものは全て無視せねばなるまい。
とりあえず、走って校門を通過する。そして俺は学校唯一の安全地帯に駆け込むことにする。
ちなみに、男子トイレではない。一度…どころか分からないが、盗撮されたことがあったので、結構危険だ。なので生徒会室に駆け込むことにする。
「じゃあな空。また」
「う、うん!武流も気をつけてね」
俺は空と分かれて生徒会室にノックもせずに入った。
「ノックもなしに何事ですか! …あ、あなたでしたのね…」
「すいません!会長!いつもの…」
「ああ…」
生徒会室に駆け込み、扉を急いで閉めて鍵を掛ける俺。
これでしばらくは安心。この生徒会長、生御門凛といい、俺の味方をしてくれる数少ない女子生徒の一人だ、
「毎回ありがとうございます…」
俺は彼女に頭を下げた。
この人には本当にお世話になっている。
「いえ。生徒が困っているのですから当然です」
凛という名前の通り彼女は凛としていた。
「そうですわ。まだ授業まで時間があります。お茶でも飲みませんか?」
「いいですね。本当に生徒会長は優しいです。こんな俺のために…」
「べ、別にあなたのためでもないですし、優しくもないですわ!」
「あ、怒らせちゃいましたか?」
「別に怒ってませんわ」
と言いながら生徒会長は俺に紅茶を出してくれた。
「ありがとうございます」
俺が微笑むと生徒会長は顔を真っ赤にしながら目を逸らしてしまった。
どうやらまだ怒っているらしい。
仕方ないので俺は紅茶を飲むことにする。
「あ、この紅茶は…俺がこの前美味しいとか言ったやつ…」
俺が飲んだ紅茶はいつか俺が会長に美味しいといった紅茶だった。
「べ、別にあなたのために買ったわけではありませんのよ! 私もそれが一番好きなのです」
「そうなんですか。気が合いますね」
俺より一つ上の先輩であるが、俺とは結構接点があるため、仲がいい。
「そ、そうですわね! き、気が合うなら私と…」
「凛。抜け駆け」
そんなとき、机の下から少女が俺の服を掴んで出てきた。
「な、なんでそんなところに潜んでいましたの?!」
「机の下で寝てた」
俺の服をずっと掴んでいる少女の名前は真向由梨といい、俺の後輩。
ちなみに、生徒会所属でもある。
「武流は凛に騙されてる。一番危険なのは凛」
「え?」
「な、何を言ってるんですの?!」
会長が慌てて俺と由梨のところにやって来た。
「凛は単に武流を傍に置きたいだけ」
「そうなんですか?」
「ち、違うに決まってますわ!!」
会長の声に怒気が含まれる。結構怖いです。
「そう? じゃあ私が武流を安全な場所に連れて行っても文句はないよね?」
「な、なんでそうなるんですの?! あなたと一緒なんて危険に決まってますわ!!」
「でも凛は武流の紅茶に睡眠薬を…」
「そ、そそそそそそそれは言いがかりですわ!!」
「他にも寝ていた武流の口にキスを…」
「え?」
俺は会長を見る。
「そんなことをするはずないですわ!! わ、私はあなたのことを好きだと思ったことありませんわ!!」
「言ったね」
由梨の眼がキランと光る。
反対に会長はハッとなって口を押さえる。
「良かった…会長まで俺を追っかけ回さなくて…もし会長が俺に好意を持っていたらここにはこれませんからね…」
俺はそんな二人を気にせずに本心を口に出す。
会長は安心だ。俺に好意を持っていない会長なら俺に何もしてこないだろう。
「う…どうすればいいんですの…」
だが会長は何故か落ち込んでいた。
「武流」
そういえば由梨は俺や会長のことを年上なのに呼び捨てにする。
まあ別にいいけど…
「私が守ってあげるからね」
「ありがとう」
由梨に笑顔で言われたので、俺も笑顔で返した。
すると由梨の顔にほんの少しだけ赤みが増した気がした。
「う、うん…」
「ふん。もうすぐ授業が始まりますわ! 早く行った方が良いんじゃないかしら?」
「うわっ! もうこんな時間かよ!」
会長の不機嫌な声に俺は急いで教室に向かった。
ギリギリの時間に教室に入った俺はやはりクラスメート達から注目された。
「え、えーと…おはよう…」
そんなとき、女子からは大歓声が上がり、男子たちは一部恨めしそうな視線を俺に向けた。
はぁ…代われるなら代わってやりたいよ…。疲れるぞ。
「武流っ! いっつもどこに行ってるのよ!!」
「お、おお…」
麻衣が俺に話しかけてきた。
訳:私のことを置いておくなんてひどい
↑の意味も含まれている気がする。
「悪かった、でも言うことはできない。姉貴や変な奴らから逃げ回るためには」
「う…」
それを言われたら麻衣は何も言えなくなる。俺の苦労が分かっているからこそだ。
「じゃあ今日の帰りはアンタを守ってあげるわ!」
「た、頼もしいな…」
「うん。任せて。邪魔な奴らはみんな私がやっつけるから。アンタと私の世界を守るから」
「あ、ああ…」
こいつ、笑顔で結構過激なことを言うな…まあいいけど。
そんな俺たちに二人の男が近づいてきた。
「やあさっきぶりだね、武流」
「おう空」
一人は空だ。俺の幼馴染の。
「麻衣もおはよう。朝から大変だね」
「ま、私がやらなきゃ誰がやるって感じだしね」
麻衣が控えめな胸を張って威張ったような格好をする。
「…いつ見ても貧乳だ…」
「それ以上言ったら殺すわよ。大悟」
「す、すいません!!」
この情けないヘタレは橋桁大悟と言って、俺たちの腐れ縁である。
だが、KYでヘタレで女に弱い男である。その割にスケベなのがさらにマイナスポイント。
「ほらぁそこ! 席着きなさい!」
「あ、すいません」
いつの間にか教室に入ってきた先生が俺たちを注意した。
彼女は担任の神楽坂纏という女教師である。
「じゃあ罰を与えるわ。そこのグループのリーダーらしき存在…」
「ちょっと待ってください! それだけで?! しかも今日も?!」
「そうね。罰は武流くんに与えましょう」
「やっぱり俺?!」
この先生は毎回のように俺に罰を与えてはパシリをさせるのだ。
俺って恨まれているのかな…?
「じゃあHR終わった後、理科実験室まで来なさい」
「う…はい…」
俺は返事をするしかなかった。
「じゃあHR始めるわよ~!」
こうして満面の笑みでHRを始める女教師。
はぁ…俺って不幸だ…
「まだ持てるわよね?」
「ええ?!」
理科実験室で俺は荷物を持たされていた。しかもかなりの量。
「う~ん…武流くんっていい体してるわよねぇ…」
「わわっ!」
俺は突然先生に体を触られビックリしてしまった。
「ほら! 落としちゃうわよ! う~ん…ちょっとワイシャツ脱いでもらうわね」
「はいぃぃぃぃぃ?!」
「何か文句でも?」
「い、いえ…」
俺は先生に鋭い眼光で睨まれてしまい、何も言えなくなってしまった。
何で毎回こんなセクハラまがいのことを…
「武流ぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
そんなとき、麻衣の声が理科実験室の外から聞こえた。
「チッ!」
「ええ?!」
それを聞いて思いっきり舌打ちをし始めた我が担任。
何このチンピラ教師。
「今開けるからね! 私たちの世界を守ろうね!」
そう言って鋸で扉を真っ二つにした麻衣。
怖いけど、助かった。
「武流!僕も手伝うからさ!」
空も来ていた。うう…幼馴染っていいものだねぇ…
「ちょうど良かったわ。貴方たち3人でこれを運んでもらえる? 私はもう授業があるから」
そう言って担任は何事も無かったかのように出て行った。
「武流! 大丈夫?! 貞操は守った?!」
「い、いや普通に大丈夫だけど…」
「問題はこの荷物だね…」
麻衣は俺に深刻そうな顔をしてきたが、空は苦笑した。
まあかなりの量だ。全部で60キログラム以上あるんじゃないですか?
俺たち3人は仲良く荷物を運ぶことにした。そして授業に遅刻したのだった。
簡単な内容の授業が終わり、昼休みが俺に到来した。
「武流、僕たちと一緒に食べるよね…?」
「何で頬を染めながら訊くんだ空?」
「だ、だって…恥ずかしいじゃない…」
「男が男を誘うときに恥ずかしがるな」
こんなだから俺と空がどうとかこうとかというあらぬ噂を立てられるんだ。
ピンポンパンポン♪
そんなとき、スピーカーから呼び出し音が聞こえた。
「2年の南一文字武流君。南一文字武流君、至急生徒会室に出頭しなさい」
「ええ?!」
どうやら生徒会長からのお呼び出しを食らったらしい。
一体どういうことだ?
「わ、私も行くわ!」
麻衣が俺と腕を組み始めた。
「お前は何してる」
「ぼ、僕も行くよ!」
空も俺と腕を組み始めた。
「お前も何してる!!」
俺たち3人が生徒会室に向かっているとき、誰かが生徒会室の廊下にいた。
「武流が何をしたというんですか?!」
声の主は俺の姉貴らしい。
何を揉めているんだ何を。
「武流は優しい子なんですよ?! 知ってますか?! 風呂のシャンプーは無駄遣いしないし、寝相はいいし、いい匂いするし!!」
「アンタは何話してんだぁぁぁぁぁ!!」
俺は姉貴にとび蹴りを入れた。
「あん!!」
何故か艶かしい声を出して吹っ飛ぶ姉貴。
「今の蹴りは中々良かったわ。愛があふれ出ていたわ…」
俺に蹴られて恍惚そうな表情を浮かべる俺の姉貴。
何で俺の姉貴はこんなのになってしまったのだろう…
「えーと…ウチの姉貴がお騒がせをして…ん?!」
よく見ると俺が話している相手は生徒会長であった。
と、いうことは姉貴と揉めていたのは生徒会長?!
「武流!騙されちゃダメよ! その女は私から武流を取ろうとしてる泥棒ネコなんだから!!」
「ああはいはい。本当にお騒がせしてすいません」
俺は姉貴の発言を流して生徒会長に謝る。
「別にいいですわ。それより、早く生徒会室に入りましょう?」
「あ、はい!」
「「ちょっと待った!!」」
今まさに生徒会室に入ろうとしている俺たちの後ろから二人の声が聞こえた。
言わなくても分かると思うが、麻衣と空だ。
「私たちも同席させていただきます!」
「僕もです!!」
「す、すいません…こいつらこう言って聞かないもので…」
俺は生徒会長に頭を下げた。
「…ダメですわ」
「「「え?」」」
俺たち幼馴染'sの声が揃った。
意外な一言であったのだ。会長の一言が。
「これは個人情報に関わる問題ですわ。だからダメですわ」
「え? そんな大変な話題なの?」
俺は不安になってきた。
一体何で呼び出されたんだろう…
「凛。露骨過ぎ」
そんなとき、生徒会室から由梨が出てきた。
「え?! いたんですの?!」
「ずっと。だから二人っきりにはどちらにしろなれなかった」
「く…」
何を話してるんだこの二人って…
二人っきりとか言ってたけど…ああ!! そういうことか!!
「会長!凛!」
俺は二人の肩を叩いた。
「気が利かなくてすいません。俺たちは帰るから、二人で話し合ってください!」
「「は?」」
二人は眼が点になっている。
突然俺からこんなことを言ったので、ビックリしたのだろう。
「じゃあ俺たちは帰るか。麻衣、空」
「うん!」
「そうだね」
俺はポカンとする2名と慌てて俺を追いかけてくる1名を背後にして教室に戻った。
体育の授業が終わり、あとは帰るだけになった。
「今日も武流すごかったな」
大悟が俺に話しかけてきた。
ちなみに、今日の体育はバスケットボールだ。
「うん。格好良かったよ」
「空、お前はそういう発言を少しは自重しなさい」
「ええ?! だって本当のことだよ?!」
「はぁ…」
空は天然なのか何なのか…
「女子の声援もすごかったしな」
「そうか?」
俺は体育に集中して気がつかなかったけど…
それに、声援だったら空もすごいはず。
足も速いし…華奢な体の癖に。
「席に着け~!」
そう会話しているうちに教師が入ってきた。
俺をパシリにするのが好きな教師だ。
「武流くん、号令」
「俺かよ?!」
この担任は毎回俺に号令をやらせる。
「いいからやれ!」
「きりーつ!きをつけ!れい!」
俺は結構適当に号令を掛けた。
「ダメだダメだ!お前だけ号令の居残り授業だ! 他のやつは帰っていいぞ!」
「俺だけ?!」
「ダ、ダメですよ!!」
麻衣が担任教師に食って掛かる。
「何がだ? 私はこいつに号令の指導をするだけだぞ?」
「じゃあ私も受けます!」
麻衣がメチャクチャなことを言い始めた。
「仕方ないな…」
「え?」
どうやら神楽坂先生が許可をしたようだ。
どういう風の吹き回しだ?
「飯田橋先生、彼女の指導をお願いします」
「おお!そうかそうか…」
「は?」
麻衣に指導することにしたのは飯田橋先生というおじいちゃん先生だった。
「それではお願いします、飯田橋先生」
「そうじゃの…」
「え、いや…私は…」
麻衣は戸惑っていた。当たり前だけどな。俺も戸惑う。
「じゃあお前はこっちだ」
「ええ?!」
「あ! 武流!!」
「よそ見するな!!」
「うう…(このおじいちゃんさっさと死なないかな…)」
飯田橋先生の一喝を背中で聞いた俺は神楽坂先生に従って個別相談室に入った。
「えーと…ここで指導するんですか?」
「そうよ。まずは気をつけをして」
「え?」
俺は気をつけの姿勢を取った。
何を思ったか、先生は俺に近づいて体をペタペタ触り始めた。
「なってないな!全然なってない!」
俺は先生に体を撫で回されながらも先生の言うとおりにした。
「こ、これでいいですか?!」
「ああ。これを1分続ければいい」
「1分ですか?」
長い…なんでそんなに長く…
「ほら気をつけ!」
「はい!」
俺は言われるままに気をつけを開始した。
ちょっとだけ緊張するけど、大丈夫だろう。
「ふむ…」
神楽坂先生は突然俺に近づいた。
「ふぅ~っ!!」
「?!」
俺は突然耳に息を吹きかけられたので、ビックリして姿勢を解いてしまった。
「ほら! 姿勢が崩れたぞ! もう一回!」
「ええ?! だってそれは先生が!」
「何を言っている?!お前の耳元に風が吹くことがあるかもしれないだろ?!」
「えええええ?!」
「早くしろ」
「は、はい…」
俺はもう一度気をつけの姿勢をとった。
とりあえず我慢すればいいんだ…!!
「何があるか分からないからな」
俺のズボンのチャックが下ろされた。
しかし、たかが1分我慢すればいいんだ…すぐさ。1分なんてすぐさ!
俺はベルトを外されるのも我慢をして気をつけをする。
「ほう…」
何を思ったか神楽坂先生は突如立ち上がって俺の顔を見つめる。
何をする気なんだ?
「キスでもするか」
「?!」
俺は何とか体制が崩れるのを防いで、平常心に戻した。
冗談だ。冗談に決まっている…!
しかし、何故か俺と先生の距離の縮まりが止まることは無かった。
「我慢の限界。外敵は排除」
「「え?」」
すると、突然現れた由梨が先生を手刀で気絶させた。
た、助かった…
「危ないところでしたね」
「あ、ああ…」
俺はベルトとチャックを元に戻した。
「ありがとな」
「当然。私は武流を守ると言った」
「そ、そうか…」
俺は先生を放置して二人で廊下に出た。
結構遅い時間なのか、あまり校内に人がいない。
「えーと…帰るか?」
「はい」
俺は由梨と帰ることにした。
帰り道、俺は由梨に訊いてみた。
「そういえば俺って由梨と二人で帰ったことないよな?」
「うん。武流は酷い」
「ご、ごめん!」
「別に気にしてない。これから毎日一緒に帰ればいいこと」
「そ、そうか…」
由梨も結構安全だよな。俺を守ってくれるし。
「じゃあそう…」
ブオオオオオオオ!
そんなとき、俺と由梨に一台の車が近づいてきた。
結構高級車だ。
そして俺たちの前に止まった。
「何だこれは?」
「武流。逃げないと。この車は悪の組織の車で、武流を売ろうとしてるわ」
「ええ?! 由梨も逃げないと!!」
俺は由梨の手を引っ張って逃げようとした。
「悪の組織とは心外ですわね」
しかし、車から出てきたのは会長であった。
「ちっ…」
由梨の舌打ちっぽいのが聞こえたのだが、多分空耳だろう。
由梨はそんなことしそうにないし。
「奇遇ですわね、武流。今日はお疲れでしょう? だから車で家まで送りましょうということですわ」
「おう! 今日は俺疲れてんだよな…助かる!」
「あ」
由梨が俺の服の袖を弱弱しく掴む。
由梨が少し寂しそうな顔をした。
「大丈夫。由梨も一緒だ。いいですよね? 会長?」
「う…と、当然ですわ!」
そう言って会長は奥に入っていった。
そしてその後すぐに由梨が車に乗った。
「な、なんで次にあなたが乗り込みますの?!」
「どうでもいい」
「よくありませんわ!!」
何か席のことで会長と由梨が喧嘩している。一体どういうことだ?
「あ、あなたは武流を危険な窓側に座らせる気ですの?!」
「この車ってそんなに危険なんだ?」
「ち、違いますわ!! でももしもということが…」
危険? ああなるほど!
俺は会長の言うことが分かった。
「俺が真ん中に乗ります」
「や」
「ゆ、由梨…」
由梨が首を横に振った。
「で、でもさ…このままじゃバランスが…」
「バ、バランス?」
会長が眼を丸くした。
「だから俺は真ん中じゃなかったら助手席に乗るよ?」
「バランスってどういうことですの?」
「え? 俺と会長じゃ体重が違いすぎてバランスが悪いだろ? 俺が真ん中の方がバランスが良いだろ? そうすれば車もひっくり返らなく…」
「そんなに弱い車じゃありませんわよ!!」
しかし、会長が突然怒鳴り始めた。
俺、何かまずいことでも言ったのだろうか…
「あ、武流が落ち込んだ。いけないんだー」
「う…す、すいません…そんなに怒鳴るつもりじゃ…」
「い、いえ…俺が悪いんです…でもそれじゃどうして俺が真ん中の方が…」
「うっ!」
何故か会長が困った顔をした。
「凛は武流のことが…」
「バ、バランスですわ! この車はバランスが悪くて困っていましたの!! だから是非真ん中に乗ってください!」
「やっぱりそうなんですか!」
俺は結局由梨と会長の間の席に座った。
これで万事解決…由梨がちょっとムスッとしてるけど。
車で乗ること数分。
どこかの家の前で車は止まった。
「由梨、あなたの家に着きましたわよ。降りないと」
会長がやや笑顔でそんなことを言った。
「違う。ここじゃない。だから降りない」
「あら? 引っ越したんですの?」
「いいから降りない。さっさと車出せ」
由梨は最後に運転手に命令して車を出させた。
運転手はすごく困った顔をしていた。
「ふうん…」
会長は由梨を見て呟いた。
「大丈夫。武流は私が守る」
「あ、ありがとう…」
そんなこんなで車は俺のマンションの前に停車した。
「あ、降ります」
「私も降りる」
「由梨?!」
どうやら奇遇にも由梨もこのマンションに用があるようだ。
「わ、私も降りますわ! ちょうど用があるんですの!!」
「そ、そうでしたか? お嬢様?」
「あなたは黙ってなさい!!」
運転手に一喝して俺たち3人は俺のマンション前で降車した。
「用が終わったら呼びますので、先に帰っててください」
「し、しかし…」
「帰りなさい!」
「は、はい!!」
運転手は最後まで報われなかった。
「じゃあ俺はこのマンションだから…」
「私も」
「き、奇遇ですわね。私もそうなのですわ」
俺と由梨と会長は一緒にマンションの中に入り、一緒のエレベーターに乗って一緒の階に降りた。
本当に奇遇なこともあるものだ。
「じゃあ俺はこの部屋なんで」
「私も」
「き、奇遇ですわね。私もですわ」
「んなわけあるかぁぁぁぁ!!」
俺は叫んだ。いくらなんでもこれはおかしすぎるだろ。
「え? 武流の家ってそんなに見せたくないものでも?」
「そ、そうなのですか?!」
「ち、違う!!」
見せたくないのは姉さんだ、とは言えない。
だが、このままだとあらぬ誤解を生んでしまう。
「だ、大丈夫ですけど!」
「じゃあいいということで」
「そうですわね」
「うう…」
結局俺と由梨と会長は家の中まで着いてきてしまった。
その際に俺は咄嗟に身構えたが、何も起きなかった。
おかしいな…いつもは姉貴によるセクハラな出迎えがあるのに。
「何か奥で音がしませんこと?」
「本当。金属音みたい」
「え?」
耳を澄ますとリビングからそんな音が聞こえてきたのが分かった。
「な、何やってるんだ?!」
俺たち3人はリビングに飛び込んだ。
「あ!お帰り武流!いつものキスとエッチはちょっと待ってね!!」
姉さんが包丁で誰かと戦っていた。
「あ!武流!この女殺したら次はそっちの二人を殺るから!押さえつけといて!」
相手は麻衣で、武器は鋸らしい。
「お、お前たちは何やってるんだ~~~~!!」
「だ、大丈夫だよ武流!僕がいるよ!さあ僕の胸の中に!」
「あ、ああ! …ってお前は空じゃねえか!!」
空が両手を広げていた。
お前も何やってるんだ。男だろ?! 気持ち悪いな!!
「ただいま~」
「は?!」
何かピッキングして家に誰かが入ってきた。
親か? 久しぶり帰ってきたのか?!
俺は玄関に向かった。
「おう武流くん。ただいま」
「何で我が物顔で家に入ってきてるんですか!! 神楽坂先生!!」
どうやら家に入ってきたのは担任の先生のようだ。
「あ、あなたの家っていつもこんな感じなんですの?」
「違います!!」
「武流。ウチに来る?」
「行きませんわ!」
由梨の質問に何故か会長が答えた。
俺は…俺はこの状況をどうすればいいんだぁぁぁぁぁ!!!!!
「武流〜起きてる〜?起きてないね〜」
「起きとるわ〜〜〜!!」
そんなとき、いきなり俺の部屋に姉貴が侵入した。ちなみに、五重に鍵を掛け、さらにドアの前に物を置いて精一杯のブロックはした。
だが、効かなかったらしい。この姉貴は相変わらず俺に対してだけ積極的だ。
「起きてないなら何してもいいよね〜」
「よくねえよ!!つうか起きてる!!」
姉貴が俺に奇妙な手つきで近寄って来る。
視線は常に俺の下半身。
この姉貴は主に性的なスキンシップを俺に求めてくる困った人だ。
「ああ…武流ったら本当に格好いい…ハァハァ」
「くっ…」
どうすればいいんだ?
「武流!!無事?!」
「おお!!」
そんなとき、玄関の鍵をこじ開けて家に入ってきた幼なじみの麻衣の声がした。
「チッ」
姉貴が舌打ちをする。おお怖…
「私の武流には指一本触れさせない!!」
そして俺の部屋に包丁を持って入ってくる麻衣。そしてそれを見て姉貴もポケットから包丁を取り出す。
うむ。いつもの光景だ。
以上が俺の愚痴です。
どうでしょう? 中々不幸でしょう? え? 羨ましい?
ちょっと待って!
そのナイフはしまおうね?
話せば分かるから、さ!
うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!
よければ感想や評価を下さい。
結構無いと寂しいもので…