後編
この村では昔から、神様のご加護を受け、怪力を持った子どもが数百年に一度、生まれるそうだ。
カミサマとしておこうか。
その昔、このあたり一帯は、この地方を治めていた領主の直轄地だったが、ひどい差別、迫害を受けた地域だったんだ。
村人たちは冷血非道な領主への恨みをはらすべく、このカミサマを育て上げて、復讐の道具にした。ろくに言葉も教育も教えず、ただ復讐の道具として育て上げた。
神のご加護を受けた子だ。それはそれはいい仕事をした。祭りのときを利用して、領主への恨みを晴らし、結果として村への干渉が一切止んだそうだ。 そのへんの話はどうでもいい。
ただ、めでたしめでたしとはいかなかった。
復讐が終わった後、何もできないカミサマが残った。言葉も常識もろくな教育を受けていない。
人を殺すためだけに育ったカミサマを誰も制御できなかったらしい。
唯一世話役をしていた巫女さんも、段々と鼻つまみ者として扱うようになった。
ある日、決定的な一言があった。
生まれてこなければよかった。
そう言われた瞬間、頭が真っ白になったカミサマは素手で親の首を引きちぎった。
すべてがどうでもよくなって、首を持ったまま、祭りのときのようにニコニコしていたらしい。
首を持ったまま、はしゃぎながら村をさまよっていたが、そのうち森に消えた。
その後も、時々、村に降りては、気にくわない村人の首を引っこ抜いて遊ぶこともあった。
そのうち、村では被害が出ないようにしたのか、人間に似せて、まつりのそなえもののかざりをつけた人形を置くことにしたようだ。今でも続いている。
怒りが納まるように、あのときは悪かった、あのときの無礼は忘れてないよ、ってことで「裋」の文字も掲げているんだそうだ。
笑っちゃうよな。
裋の由来?
一応、カミサマの行動を表す漢字なのに、なんで、「ころもへん」なんだと思う?
あれは「ころもへん」ではないんだよ。あくまでも「神様」を表す「しめすへん」なんだ。
カミサマが、人間の首を手で持って歩いている様子を表しているんだ。
よくできてるだろう。
村人たちが苦労して仕立てあげた、まつりのそなえもののかざりを引きちぎるのもなかなか楽しいから、この祭りは今でも飽きないよ。
もう、いいかい?
まだだよ。
裋は、「まつりのそなえもののかざり」と読みます。
ここだけ本当です。