前編
はい、確かに、この村には「裋」と呼ばれている日があります。
その日の夜には、裋と書いた紙を玄関に忘れずに貼って、家の外には豪華に飾り付けた人形をお供えています。まつりのそなえもののかざりなんだそうです。
他の地域でもありそうな話ですし、そこまで珍しい風習ではないかもしれませんね。
でも今でも時々、供えておいた人形の首が取れていることがあるんです。
いつごろから始まったのか、ですか? そうですね・・・
「裋」 の由来を話す前に、まず「しめすへん」と「ころもへん」の違いはわかりますか?
神様(神様)に由来するのが、「しめすへん」です。「祝い、祈り、禅」とか、神様に関係する漢字が多いですね。
一方、「ころもへん」はその名の通り「衣」、つまり衣服に関わる言葉として多く使われています。「袖、袴、裃」とか、そうですよね。覚えておいてくださいね。
その昔、この村では村のために便宜を図った神様を怒らせてしまったんです。
怒った神様は村を出ていきました。
どうやったのかわかりませんが、村の広場に、恩を仇で返した村の中心人物の生首と、真っ赤に染まった胴体部分だけが残されていていたそうです。
神様が村を出ていった後も、たびたび似たような殺され方が続くのを見て、村人たちは人間に似せた人形を供えて、あのときは悪かったと、神様の怒りを和らげようとしたそうです。
少しでも人形を人間らしく見せるために、まつりのそなえもののかざりをつけて、供えたのが始まりです。
もう一度、漢字を見てください。
「裋」 の漢字の右側に、「豆」という漢字があるのは、わかりますよね。
この「豆」は、食べ物の豆ではないんです。豆という漢字は食べ物を盛り付ける器の形が由来になっています。そして、人間の「頭から首」の部分が食器の「豆」の形とよく似ているでしょう。
この字は、「衣」と、「頭から首」を表しているんです。
神様が村を出ていった日になると、生首と、真っ赤に染まった服を表している「裋」の字を掲げて、反省の意を表してるんです。
もう、当時の人もいないから、許してくれてもいいんじゃないかとも思うんですがね・・・
そう思いつつも、自分が連れていかれたくないから、うちも外に人形を置いているんです。
その日は家から出ないようにして。首のない人形を見ると、神様にとっての祭りが、まだ続いてるのがわかりますよ。