08 ゴブリンを仲間に
これまでのあらすじ。
ゴブリンに不意打ちされた。
防いだ。
叩きのめした。
普通に襲い掛かられていたらヤバかったが、スライムがいち早く警告してくれたので素早く対応できた。
お陰で事なきを得たぜ。
それでも不意打ちしてきたゴブリンともみくちゃの乱戦になってしまい、結局他のゴブリンには逃げられてしまった。
不覚だ。
不意打ちしてきたゴブリンだけが力尽きて、俺の眼下にうずくまっていた。
「ゲゲッ!!」
まだ息はあったが、俺に叩きのめされ反撃どころか逃げる余力も残っていない。
それでも眼光鋭く俺のことを睨みつけてくるんだから、大した気力だった。
「殺すんならさっさと殺せ……とでも言わんばかりだな」
さっきまでいた他のゴブリンどもとは語気も違っていた。
ヤツらは、言葉が通じなくとも『命乞いしてるんだ』とわかるほど弱々しい、媚びた声色だったのに対し、今いるゴブリンは精魂尽きてなお闘志は尽きない感じだった。
「仲間は逃げたってのに……」
俺とコイツがもみくちゃっている間に。
これではコイツが一人身を挺して仲間を救いだしたようなものではないか。
「まあ、助けられた仲間は薄情だがな」
何しろ我が身可愛さに一目散に逃げてしまったのだから。
逆に仲間に加勢して、俺を袋叩きにしたら皆助かったかもしれないのに。
これでは最後に残ったこのゴブリンが捨て駒であるかのようだ……。
「……まさかな」
ゴブリンは邪悪な魔物。
群れはするものの、それは他者より優位に立つための徒党でしかなく、助け合いや協力の精神から来るものではない。
だから仲間がピンチに陥っても命を懸けて助けるわけがないし、自分の身が何より大事なので危なくなればスタコラ逃げ出す、仲間を見捨てて。
「コイツが見捨てられたように……?」
じゃあ、自分が窮地に陥ってまで仲間を救ったコイツは?
「ゲゲゲゲッ!!」
『オラどうした?』『さっさと殺せよビビってんのか?』とでも言ってそうなゴブリン。
そんなゴブリンに俺は手を伸ばし、絆召喚術の契約を発動させた。
パァーッと光が輝き……。
「オラどうした? さっさと殺せよビビってんのか?」
「本当にそんなこと言ってた!?」
って言うか、ゴブリンがシャベッタ!?
それまで『ゲゲゲ』としか言わなかったのに!?
まさかこれも絆召喚術で結ばれた契約の効果だとでも!?
「あれ? なんかニンゲンの言葉がわかるぞ? オレどうなってんだ?」
『キュピピピピピピピピッ!?』
予想外の事態にスライムもビックリ。
そもそもなんで唐突にゴブリンと契約したのか。
いや、わからん。
目の前のコイツが、『我が身を犠牲にしても仲間を助けようとしたのかなあ』と思ったら自然に差し伸べてしまった。
そしてすんなり契約できたことにも驚いた。
スライム以降、色々試してみたのに一つも上手くいかなかったのだが。
「……ケッ、どうやらニンゲンの術にかかったみてえだな。使役術の一種か? 何にしろ誇り高いゴブリンのオレ様が、ニンゲンの使い魔ごときに落ちぶれるとは……!?」
「ゴブリンにプライドあるの?」
「あるわ! 失敬な!?」
プライドがあったとしても、この個体限定のように思えるのは気のせいか。
とにかくやっと迎えられた二体目の絆召喚獣。
この絆を使ってどんなものが召喚できるか早速試してみよう。
【絆召喚術Lv7>絆:ゴブリン>召喚可能物:コンバットナイフ】
【召喚しますか? YES/NO】
コンバットナイフ?
何それ?
まあ、絆召喚術で呼び出せる物品はこの世界にない異界のシロモノなんだから耳慣れないのはいつものこと。
何なのかは実際召喚してみないとわからない。
だから呼んでみよう。
「絆召喚! コンバットナイフ!」
そして現れたのは、刃先がギラリと光るナイフだった。
「やっぱりナイフだった」
いやナイフの部分はわかったよ。俺の世界にだってナイフならたくさんあるし。
しかし『コンバット』とは何ぞや?
「うほおおおおおッ!? 何だこのナイフ!? メチャクチャいいヤツじゃねえかあああ!?」
ゴブリンの方が喜び喚き、召喚されたコンバットナイフを手に取った。
「刃が銀色にキラキラ光ってるううううううッ!? こんなキレイな刃物がこの世にあったのかああ!? 刃に顔が映るじゃねえかああ!? しかもコレ、滅茶苦茶切れ味いいぜ!? ほら、その辺の枝がスパッと! スパッと落ちた! 全然抵抗感がない!」
ちょっと引くぐらいのゴブリンのはしゃぎよう。
そう言えば聞いたことがある。ゴブリンは亜人モンスターだけに道具を使うことができ、人から奪ったり、捨てられていのを拾ったりして色々な道具を活用する。
とはいえ所詮モンスターだからあまり複雑な構造の道具は使いこなせないらしいけれど、中でももっとも好むのが刃物とか鈍器とかの凶器。
本当に邪悪な性情よ。
だからこそゴブリンはいつも手斧やら短剣を携えて行動していて、それもまた襲った冒険者から強奪したり盗みとったんだろう。
そんなゴブリンとの絆で召喚されたから、ナイフなんて出てきた?
「うおおおおおッ! テンション上がるぜ! 今すぐこれで試し斬りしたい! その鋭い刃に裂かれてプックリ血があふれ出る刀傷を見たいいいいいいッ!?」
『キュ、キュピピィ……!?』
あまりに異様な興奮の仕方にスライムもドン引きした。
ナントカに刃物という言葉もあるので、これ以上変なことにならないようにコンバットナイフは引っ込めることにした。
絆召喚術で呼び出したものは、意図すれば消し去ることができる。体内に取り込まれたものでもなければ。
ヒュッと手元から消え去ったナイフに、ゴブリンの絶望する表情。
「あぁああああぁ~ッ!? あああぁぁああぁぁぁあぁぁぁあああぁぁぁ~~~ッ!?」
「そこまで!?」
どんだけ刃物が好きなんだゴブリン!?
「まあまあ、戦いになって武器が必要になった時は出してあげるから……!」
「本当かよダンナ! だったら戦おう! すぐ戦おう! ニンゲンでも魔物でも片っ端から皆殺しにするぜ!!」
誰がダンナか。
あと人間は皆殺しにしません。いや、山賊とか盗賊の類ならアレかもしれんが。
とりあえずケースバイケースで。
◆
とにかく二体目の仲間ゴブリンを加えて、俺たちの進撃は続く。
頭数が増えたことで、大樹海での戦闘はかなり捗った。コンバットナイフを持たせたゴブリンは、さながら暗殺者のような挙動で敵モンスターの背後から忍び寄り、的確に速やかに喉笛を掻き切っていく。
「すげえよダンナ! このナイフ、メチャクチャ切れ味よくて、首の血管がスパって! スパって!?」
「そういう報告はいい!」
やっぱりナントカに刃物を持たせるのはいけない気がしてきた。
それでも俺とスライムの死角なし布陣で鉄壁を保っている間、ゴブリンが背後から攪乱して敵の隙をこじ開けるという戦法は思った以上にハマり、さらに術レベルを上げることができたのだった。
心なしか一緒に戦ったスライムやゴブリンも強くなってきている気がする。
こうなると……。
「そろそろ次の絆召喚獣を迎えたくなってくるな」
もう? という気もしてくるが、人の欲望には際限がないのです。
レベルもさらに上がったし、もう一体絆召喚獣を増やすキャパはできたはず。
問題は、どんなモンスターを迎えるかだが……?
などと思い耽っていたらゴブリンに考えを読まれたのか、
「おうダンナ! それならオレにいい考えがあるぜ!」
古来より『いい考えがある』と言ったヤツの『いい考え』が、『いい考え』であったためしがない。
「この先によー、小高くなって丘みたいになった場所があるんだ。そこをナワバリにしてる魔物が超強ぇ、デタラメに強ぇんだよ」
「それで?」
「ソイツをブッ倒してダンナの舎弟にしようぜ! ダンナとオレたちが力を合わせたらきっと楽勝だよ!!」
「いや、超強いんでしょう、その相手?」
力を合わせただけで簡単に勝てるとは思えないが。
しかし『イデオニール大樹海』にそんな魔物がいるというのは驚きだった。
ギルドの情報網からは聞いたことがないので、樹海のけっこう奥深くになるのかな?
好奇心も手伝って俺は、その超強い魔物とやらを見に行くことにした。
見にいくだけだよ。戦ったりしないよ。
戦うのは勝てると見込みがついた時だけ。
まあ、珍しい魔物を絆召喚獣にできれば俺も嬉しいが……。