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07 ゴブリンとの遭遇

 実家や学校の人たちは今頃何をしているかなー? と思いつつ、俺はスライムと遊んでいた。


「大回転!」

『キュピピピピッ!!』


 俺の頭の上に乗せたスライムが独楽のように高速回転する。

 練習の甲斐あって回転速度も回転持続時間も上がっているぞ。

 何してるんだか。


 まあそれもスライムとの友好度を上げるためのレクリエーションと思えば意味もあろう。


「さらに大回転からの絆召喚!」

『キュピピピピッ!!』


【絆召喚術Lv6>絆:スライム>召喚可能物:水】


 回転するスライムから水が噴き出し、四方八方へとばら撒かれる。

 畑の水やりに便利。


 あれから絆召喚術のレベルも上がり、変則的な召喚もできるようになった。


 ペットボトルなしで水を直に召喚できるようにもなったのだ。


 こうやって回転の勢いで水を全方位噴射できれば、火事に遭った時便利かも。活用する状況が限られる。

 これからは状況に応じてペットボトル入りかそうでないかを使い分けていけばよかろう。


『イデオニール大樹海』での経験値稼ぎの甲斐あって、俺の絆召喚術もけっこう強化された。


 現在の術レベルは<6>だ。

 案外サクサク上がった。


 あれから結局街に戻らず籠りっぱなしだからな。

 好きな時に好きなだけ水が手に入る……というのは、想像以上の好条件だった。

 こんな人里離れたい秘境でも、無尽蔵に水が使えるだけで自宅にいるように快適だからな。


 食料は森の中だから、探そうと思えばけっこうたくさん見つかるし、その気になれば何日でも籠り続けられた。


 それで術レベルも上達しっぱなしだった。


 スライムとの絆で召喚できるものも種類が増した。


 契約できるモンスターの数も増えたので、いよいよ新たな絆づくりに取り掛かろうと思う。


「……とはいえ、どう始めたらいいか」


 簡単にできるものならレベルが上がった瞬間とっくに新しい相手と契約を結んでいた。

 何しろ経験値稼ぎのために戦った相手はモンスターだからな。


 契約相手は身近にいたのに、何故契約しなかったのか?


 どうやら絆召喚術で契約を結べる相手には、一定の条件があるようだった。

 かつてスライムにしたように、一旦戦って倒したところで契約を結ぼうとしたが、どうにもうまくいかぬ。


 絆召喚術で絆を結ぶためには、ちゃんとモンスターの方から俺を慕い、受け入れる心境が必要なのではないか?

 それがない限り、いくらこっちから望んでも絆を結べることはない。


 俺が最初、スライムと戦って、勝って、その上で契約を結ぼうとしたのは魔物使いがそうやってモンスターを手懐けているからだ。


 ギルドに出入りする冒険者の中にはそうやってモンスターを使役するクラスもいる。

 俺もかつて魔物使いの適性が自分にあるかと試したことがあるが、その際にノウハウを学んだ。


 しかし絆召喚術がモンスターとの間に絆を作るのは、魔物使いがモンスターを手懐けるのとはまったく別の手順であるようだった。


「最初にお前と仲良くなれたのは、途轍もない幸運だったのかもな?」

『キュピィ?』


 頭の上に乗っかるスライムと考えを通わせ合う。


 ま、次なる契約相手についてはクヨクヨ考えるよりも行動した方が早かろう。


 絆召喚術をさらに極めるには、このスライムだけを契約相手にすることはあり得ない。

 もっとたくさんのモンスターと契約し、さらに様々なものを召喚できるようにしたい。


 だが必要以上に悩むこともあるまい。今はできなくても色々試していくうちに、なんかできるようになるかもしれないし。


 というわけで引き続きレベル上げに精を出していこうじゃないか!



 ……と、樹海内を進んでいたら早速モンスターに遭遇。


「ゴブリンか……!?」


 毎度お馴染み、亜人型モンスター。


 生来邪悪な気質の持ち主で、ナワバリも守らず人里に侵入しては畑を荒らしたり家畜を襲ったりする厄介者。

 存在するだけで迷惑と言っていいが、時には人間の子どもまで襲って連れ去り、遊び半分に嬲り殺しにするというので、見付け次第駆除するのが適切という連中だ。


 コイツらも大樹海で生息していたとは。


「ホントどこにでもいる連中だな」


『イデオニール大樹海』にすら生息するゴブリンが生命力が凄いのか。

 ゴブリンの生息も許容する大樹海の懐が深いのか。


「どっちにしろやることは変わらんがな」


 ゴブリンは見える範囲にいるだけでも十体。

 ヤベェなと思った瞬間、向こうにも気づかれた。


 ゴブリンどもは、こちらがたった一人(スライムは数に入れていない模様)とわかると嬉々としながら取り囲んできた。


 徒党を組んだゴブリンほど厄介極まりない、というのは冒険者業界の常識だ。

 一体一体はそれほど強くもないゴブリンだが、人型であるせいか集団を組んだら驚くべき連携を見せて、俄仕込みの冒険者パーティなどアッという間に押し込められる。


 そして、弱者相手には必要以上に高圧的なのもゴブリンの特徴だ。

 相手が自分より弱いとわかったら執拗に追いたて絶命するまで嬲って遊ぶ、それがゴブリンの生態。


 集団戦の強弱はそのまま頭数に直結するので、要するにゴブリンの群れと遭遇して向こうより人数が少なかった場合、命の危険を考えるべきだ。


 ちなみこちらはスライムを入れて二名。

 絶体絶命の大ピンチ!


「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ……!」


 これがゴブリンの笑い声かよ。

 こっちが単独だというので、もう完全に舐めきっている。

『いい獲物がいた。このまま袋叩きにして遊ぼうぜ!』とでも思っているんだろう。


 そうは問屋が卸さぬ。


「スライム頼む」

『キュピピィ!!』


【絆召喚術Lv6>絆:スライム>召喚可能物:ローション】


 俺の指示に応じてスライムが頭上で回転し始める。

 回転運動に従って四方八方へまき散らされる液体。その液体は、取り囲むゴブリンの体にかかってヤツらを怯ませた。


 しかもそれだけに留まらない。

 ゴブリンにかかった液体はヌルヌルと滑り、ヤツらの持っている武器を滑って取り落とさせ、また足を滑らせゴトンと転ばせた。


 そう、今スライムがまき散らせたのはただの水ではない。

 術レベルがアップしたことで新たに召喚できるようになった異界の物質【ローション】だ!

 ヌルヌルと粘って飲料にはできないようだが、代わりに滑りやすくて体に付着したら、ちょっとやそっとじゃ拭えない。


 敵にぶっかけて動きを止めるのにいいかなと思ったが、効果覿面だ。

 ゴブリンどもは滑って踏ん張ることもできず、武器も放してスッテンコロリンと転げまわる。

 まるで水たまりに落ちた虫だった。逃れるどころかまともに動くこともできずにもがき足掻く。


「群れる知能は持っていても、罠を警戒するほどの賢くはなかったか」


 中途半端な知力しか持たないのは哀れだな。


 さて、おもっくそ思惑通りに罠がハマったので次なる段階へ。


 あらかじめ用意しておいた槍で、充分距離をとってからゴブリンどもを串刺しに。的確に急所を刺して息の根を止める。


「下手に近づいたら俺までローション塗れになるしな」


 ということでここは距離をとって攻撃できる槍が一番いい。

 その辺の木を削ってとがらせただけのものだが、ゴブリンを刺し殺す程度なら充分な凶器だった。


 ザックザック。

 肉を抉る手応えとゴブリンの断末魔だけが樹海に響き渡る。

 ローションに滑って身動きの取れない獲物にとどめを刺すだけ。それはもはや戦闘とは呼べず作業だった。


「これで半分は片付いたな」

『キュピ!』


 俺を取り囲んだ挙句ローション塗れになったゴブリンは半分ほどが泣きわめきつつもがき、もう半分は物言わず、呼吸もしない。


『ゲゲ! ゲゲゲゲゲゲゲゲ!』


 生き残りのゴブリンたちは何やら哀願めいた素振りで俺に何かを訴える。『ゲゲゲ』となくだけじゃ何言ってるかわからないけれど。


「命乞いか? ダメだ」


 態度から何となくそう感じたけど、断る。

 お前たちのような邪悪な種族を取り逃したら、また別の冒険者か、または一般人が襲われるかもしれない。


「見つけたら必ず駆除、それがゴブリン対応の鉄則です」


 おれが木槍を振り上げると、その瞬間スライムが鋭く鳴き出した。


『キュピピピピピピピッ!』

「なにッ!?」


 これは警告音?


 スライムの声に反応して見上げると、頭上からとびかかってくるもう一匹のゴブリンが!?


「まだいたのか!?」


 ローションも被っていない。

 上手く逃れたのか? それとも新手か?


 ともかくも完全に不意を打たれたので、このままではやられてしまうが……。

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