72 目には目を、歯には歯を、手には腕を
【絆召喚術Lv74>絆:コレーヌ(オートマタ)>召喚可能物:補助駆動付きガントレット】
【複合絆召喚術Lv74>絆1:ゴブリーナ(ゴブリン)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルウルフ)>召喚可能物:村雨丸】
絆召喚術によって現れた手甲が我が右手を覆い、さらにその右手の中に白い妖気を放った霊刀が握られる。
村雨丸。
絆召喚術によって呼び出された邪を祓う刃だ。
さらに左手に握られた長曽祢虎徹も消え去ることなく、両の手にそれぞれ霊刀と名刀が握られている。
「なんだそれは……、しかも右手が……!?」
現れた変化に、マシュハーダ王子にも戸惑いの色が浮かぶ。
「このガントレットは古代文明の遺物で、内蔵されている仕組みが握力を助ける。これを装着している間、俺は右手をかつてのように操ることができる」
「フハハハハハハハ! 面白いな!」
面白いって本当に笑う?
「お前は砕かれた右手までも復活させたのか! なんという素晴らしい成果だ! ここまで成し遂げられるお前を、オレは益々臣下に加えたい!」
ギラリと剣をかまえる。
「さあイディールよ! 再びオレに敗北するがいい! それがお前の人生に真の栄光を与えるだろう! お前の人生はまさにここから始まるのだ!!」
そして突進してくるマシュハーダ。
向こうから仕掛けているっていうのに、どこにも隙がまったくない。
嫌になるほど。
右手の霊刀を繰り出す。
この右腕には学生時代、騎士を目指して血のにじむ努力のままに収めた正統剣術が染みついている。
その剣をマシュハーダは簡単に打ち払い、懐に入ってきた。
そこまでは同じだ。
騎士学校に一学年から三学年まで、同じ対抗試合でコイツに負け続けた時と。
あれといささか違う点があるのは、左手だった。
左手には血に飢えた名刀、長曽祢虎徹がある。
利き手が再起不能になってから、荒事で活躍したのはもっぱら無事だった左手。
冒険者として積んできた経験の技術のすべてが詰め込まれた左手。
その左腕が自然のままに動き……。
懐に入らんとするマシュハーダの腕の下へ潜り込んだ。
そのまま斬り上げる!
「うぐわぁああああああーーーーーーッッ!?」
空中に飛ぶ、大きめの肉の塊。
それは腕だ。
長曽祢虎徹によって斬り落とされたマシュハーダの右腕と左腕。
それが剣の柄を握ったまま一塊となって飛び……バサリと地面に落ちた。
「ぐぅわぁあああああああーーッ!? おご! うぐぅううううううッッ!?」
そしてマシュハーダは斬り落とされた腕の痛みにのたうち回っている。
肘の先が綺麗に斬り落とされ、しかもそれが左右両腕だ。
肉どころか骨まで簡単に断つとは、やはり絆召喚で呼び出された名刀だな。
「まッ、マシュハーダ様ッ!?」
「試合中止だ! 誰か医師を、回復術者をぉーーッ!?」
周囲が慌てふためき、生徒教師に関わらず大勢が駆け寄ってきた。
「あッ、アナタ何ということをしたのです!?」
その中でまた公爵令嬢のアーレッサが食ってかかる。
「王族たるマシュハーダ様にこんな……!? 玉体を傷つけるなど気はたしかか!? この国の貴族にあるまじき行為だ!!」
「俺はもう貴族じゃないんでね。勘当された身だ」
今はただの冒険者だ。
「それに俺はコイツに恨みがある。大事な利き手を壊されたっていう恨みがな。その報復のために相手の腕を壊す。おあつらえ向きだろう?」
勢いあまって左手まで斬り落としてしまったがな。
これぞまさしく倍返しってヤツだろう。
「俺自身ここに帰ってくるまで忘れていた恨みだったがな。さすがにやりやがった本人が何の悪びれもせず、その件を持ち出したらムカついてしまった。バカな男だ、蒸し返しさえしなければ両腕はまだついたままだったろうにな」
「マシュハーダ様はアナタを評価し、アナタのために……!」
相手は涙ながらに王子の気持ちを代弁するが、もうたくさんだった。
これ以上聞く価値もない。
「だからなんだ? ヒトの右手を砕いておいてな……恨まれないとでも思ったのかこのバカ野郎が!!」
恨むさ。
少なくとも俺は恨む。
だからやり返してやった。
それだけのことだ。
「ぐおおおお……!? お、おおお……ッ!?」
痛みに動転する瞳は、それでもどこか呆然と自分の体に出来た断面を見詰めていた。
既に学校の治療師によって手厚い応急処置がなされて止血も済んでいるが、それだけで収まる怪我では当然ない。
「オレの腕が……、腕が……!? ダメだ、完璧な体を持つ者でなければ王にはなれない」
「元々なれないだろうお前は」
王族とはいえ、四番目の王子で継承順位が四番目。
上三人のお兄さんたちが都合よく頓死するなんて起こるわけねえだろうが。
「身の丈に合わない野望を持つから痛い目に合う。まさにお前にピッタリの教訓だったな」
「違う……! オレは王に相応しい男だ! オレが王になるべきだった! なのに、なのに……!」
マシュハーダの目に狂気が宿る。
「殺せ! この男を殺せ! 王族に傷を負わせたのだ! その罪は極刑に値する!!」
ついには王族の権力まで使って俺を潰そうとしに来たか。
周囲の騎士学校生徒、教師の目が俺に向かって集中した。
その目が殺気立っている。
「王族を傷つけた者をそのまま帰せば……騎士学校の責任問題に……!?」
「王子が失脚すればオレたちの出世が……!? よくも、よくも……!」
このまま帰してくれなさそうな雰囲気
降りかかる火の粉は払わねばなるまいよ、なあコレーヌ?
『マスターの仰る通りです』
臨戦態勢を受けたコレーヌが既にゴーレム強化外装をまとい、赤い目を光らせていた。
「ひぇ……ッ!?」
『試合ではなく、ただマスターを害そうとする闘争であれば、わたくしが大人しくしている理由はありません。わたくしの役目を行使し、マスターの敵を一人残らず駆逐しましょう』
コレーヌさえついていてくれれば何百人に袋叩きにされようが負ける気がしないな。
ここまで決定的な敵対関係になるとは思いもよらなかったがこうなったらなるようになれだ。
さあ騎士学校に血の雨を降らせたらぁー! と覚悟を決めようとしたところ。
「静まれぃッ!!」
その場全体を揺るがす大音声に、激発しかけていた群衆がピタリと止まる。
「なんだ? 今の雷鳴のような……!?」
聞いたら従わずにはいられない天の声のような……!?
その声の主は……!?
「国王陛下!?」
現れた老人に向けて誰かがそう言った。
あれが国王様!?
俺初めて見たよ!?
あんなんだったのか、この国の王様って!?
「は、ははぁー!!」
反応し、そこに集うほぼ全員が膝を折って平伏した。
王の前に傅くのは国民として当然であった。
俺はしないけどね冒険者だから。
「やれやれ……エクサーガから直訴を受けてまさかと思ったが、本当にこのようなザマになっておるとはの」
えッ? エクサーガ兄さん?
気づけばたしかに兄さんが、王様の御供のようにしてその後ろに控えているではないか。
さらにもう一人、お姫様みたいな綺麗な女性は?
「やはり心配した通りになっていたなイディール」
「エクサーガ兄さん……!?」
「お前ならばどんなやり口にも屈することはないと思っていたが、徹底的にやりあえば国の損害が計り知れんのでな。国王にお出ましいただくしかないと考えた」
それで実際に動いてくれてたわけか。
いつも物事をまとめるにはエクサーガ兄さんの助けを借りて……、助かります。
「国王! 国王陛下!」
そしてすり寄る騎士学校の校長!
「そちらのイディールが! 騎士学校を退学になった大たわけが、恐れ多くもマシュハーダ王子の玉体に傷を! けっして許されることではありません! 王宮騎士団を動員してでも、王子の仇討ちを……!」
「必要ない」
「え?」
その静かな言葉に、騎士学校に所属するものすべてが息を飲んだ。
「イディールにちょっかいを出そうとした時からこうなることはわかっていた。それを予測できず迂闊なことをしでかしたマシュハーダや、ぬしら騎士学校教師陣の落ち度じゃ。この一件、ぬしらの過失ということで幕を治める」




