71 マシュハーダとの決勝戦
俺の快進撃はまだまだ続く。
第三回戦。
【複合絆召喚術Lv74>絆1:ニャンフー(モットメディタイガー)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルヘイムウルフ)>召喚可能物:トラバサミ】
踏むと鋼鉄製のキザギザが強力なバネで挟んでくる罠。
対戦相手はフツーに気づかずに踏んで、足を思いっきり挟まれて痛みでのたうち回っていた。
◆
第四回戦
【絆召喚術Lv74>絆:ピクシー(妖精)>召喚可能物:白い粉】
会場中に充満させた小麦粉に着火して、粉塵爆発ですべて吹き飛ばした。
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準々決勝。
【絆召喚術Lv74>絆:ブラックロア(魔王)>召喚可能物:摩天楼】
唐突に巨大建築物、摩天楼を出現させたために、弾き飛ばされ彼方へと消えた対戦相手。
◆
さらに準決勝。
……の対戦相手は公爵令嬢アーレッサ。
先ほどからたびたび噛みついてきた女生徒だった。
「この卑劣漢! 騎士の面汚しめ!」
試合開始するなり何という罵詈雑言。
「一回戦からここまでのすべて、卑劣な手段による反則勝ちではないか! いかに騎士として大成できなかったとはいえ言語道断! この私が騎士として、正々堂々の勝利というものを見せてやる!!」
「お前まだ一人前の騎士じゃねーだろ」
学生だろ。
しかし俺に正々堂々の戦いができないと決めてかかっているのか?
だったら思い違いを見せつけてやろう。
【複合絆召喚術Lv74>絆1:ゴブリーナ(ゴブリン)>絆2:ニャンフー(モットメディタイガー)>召喚可能物:長曽祢虎徹】
左手に握られた異界の刃。
片刃でわずかに反り返り、俺たちの世界にある剣と比べてあまりに異様だ。
その切断力もまた、こちらの世界の剣とは比べ物にならない。
ただ今回は純粋に剣術の勝負に徹したので、その斬れ味を示すことなく喉元に突きつけて勝負あったがな。
「な……ッ!?」
「反応もできないんじゃ鍛えた剣術も意味がないな」
利き手ではない方の左手だが、これまでの訓練で使えるようにはなってきている。
少なくとも半人前の学生に引けを取るレベルではないよな。
「実戦なら首が飛んでいるぞ、わかるよな?」
「私の……負けだ……!」
首元で寸止めしたものの、髪の一房ほどが切断されて空中に散った。
やっぱ女の子は髪が長いから。これくらいの不足は勘弁してほしい。
「……何故だ?」
決着ついて、敗北したアーレッサ公爵令嬢は悔しげにうめいた。
敗北に納得がいかないのかと思いきや……。
「お前は……脱落した劣等生ではないのか? 去年や一昨年の試合にも出場せず最下位で、誰もがお前をダメだと思っていた。それだけの実力があるなら何故、学校で示さなかったのだ」
「目標に向かってするのが努力ってことでね……」
ここは俺の奮い立つべき場所じゃなかった。
そう思ったから何もしなかっただけだ。
「キミらを貶める気は毛頭ないが、それでもキミらにとって大事なものを他人も大事にするなんて無条件に思うのはやめてくれ。キミらが目指すものは俺にとって、そんなに価値のあるものじゃないのさ」
「お前の目指すべきものは……」
なんだ?
せっかく人がいいこと言って締めようとしたところへ?
「オレが与えてやろう。お前が才能と努力を出し尽くして挑戦するに相応しい仕事、それを与えてやるのが王の務めだ」
マシュハーダ糞王子殿。
何唐突に現れてんの? ああ、そっちも準決勝に勝った?
「予想通り勝ち上がってきたなイディール。それでこそ我が腹心と見込んだ男だ」
「勝手に見込むのもどうかと思うんですがね」
「決勝戦でお前はオレに敗れる。しかしそれは恥ではない。敗北こそがお前の栄光の始まりとなるのだ。このマシュハーダ賢王伝説を足元で支える能臣としての」
え? もうこのまま決勝戦始まるんです?
まだ準決勝が終わって退場すらしていないんですが?
「王子……! 王子お待ちください!」
そこへ準決勝で敗れたアーレッサ公爵令嬢が唸る。
「やはりイディールは、アナタ様の部下に似つかわしくありません! この男はあまりに異様です、力も、考え方も……! ヤツを配下に加えてもマシュハーダ王子のお役に立つとは……!」
「黙れ」
必死に縋りつく公爵令嬢に対して、王子のかけた言葉はあまりに冷たい。
「敗者に囀る権利などない。お前たちは偉そうなことを散々に述べておきながら誰一人としてイディールに勝てなかった。傲慢な役立たずめ。貴様らごときこのマシュハーダに使われる資格などない!」
「王子……!?」
叱責に近い言葉の厳しさに、公爵令嬢は蒼白になってよろめく。
「失せろ、役立たずの顔など見たくもない」
「何様のつもりだ?」
我慢できずに口出ししてしまった俺。
「試合では負けたが、彼女も他のヤツもお前のために役立とうと一生懸命に頑張ってきただろう。そんな人たちにかけてやる言葉がそんな罵倒なのか?」
「いかに努力しようと、求められた水準に達していなければただのゴミだ。人はいかなる状況に立とうと最大限の努力をしなければならん。そうは思わんか?」
マシュハーダの試すような視線が俺に向く。
その瞬間生理的なおぞましさが起こった。
「その点お前は、常に最良の努力をする理想の人材だ。だからここまで目をかけてやっている。そろそろその恩返しをしていい頃合いではないか? 我が配下となり、お前の努力の成果を、我が采配の下で振るえ」
「どれだけお前を慕っているかより、どれだけ役に立つかが重要ってか?」
愚かしい。
どこまで傲慢で愚かしいんだこの男は。
「俺を評価するのはお前の勝手だ。だがな、俺はどうあろうとお前が嫌いだし忠誠心の欠片も湧かん。そんな他人を持ち上げて彼女たちを疎かにするのか? お前を信じて慕い、盛り立てようとする人たちを蔑ろにするのか?」
「お前も我が下に加われば忠誠心も湧き起ってくるさ。それが王器というものだ。お前は王となる俺に役立つために生まれてきた男なのだ!!」
言うと同時に剣をかまえ、飛びかかってくるマシュハーダ。
もう決勝戦開始か!?
召喚されたままの長曽祢虎徹で斬撃を受ける。
「左手でよくそこまで剣を扱うものだ。利き手を壊されたことはもはや何のハンデにもならぬようだな……!」
「コイツ……ッ!?」
俺の右手をぶっ壊したのはテメエだろうが!!
【絆召喚術Lv74>絆:スラッピィ(スライム)>召喚可能物:ローション】
本日二度目のローション攻撃にマシュハーダを飲み込もうとするも、即座に飛びのいて一滴も浴びない。
「面妖な術だが一度見せたからにはオレには通じない。備えはできている」
鼻持ちならないヤツだが、やはり天才だ。
たったの一目で対処できるようになるのか。
「オレは正統剣術イグゼスター流を極めながら、同時に我が国におけるもう一方の主流、ケレンソ流の剣技も極めている。亜流奇剣と蔑まれることの多い流派だが、正統イグゼスター流と組み合わせることで正と奇が重なり合い、一切隙のない剣運びが生まれる。打ち崩せる者は誰一人としていない」
「ああ、知っている」
何しろ俺は、この騎士学校で学んでいた頃の一学年から三学年まで、ずっとコイツに挑み続けて敗れてきたんだからな。
何度挑もうと、ヤツの完璧なかまえを崩すことはできなかった。
その挙句に利き腕に再起不能の大怪我だ。
「……お前は何度打ちのめされようと、諦めることなく向かってきたな。他の連中はすぐに諦めて、オレの機嫌を取ることばかりに腐心した中で、お前だけが挑戦を諦めなかった」
「そういえばそうだったな」
しかしそれは思い出したくもない黒歴史だ。
あの当時の俺は、ただ父親から認められたい一心で……長兄や次兄と同じように認められたくてただひたすら頑張ってきた。
今では、あんなクズ親にどうして認められたかったのだろうと当時の自分がまったくわからぬ。
「利き腕を砕かれる重傷を負ってなお、心挫けずみずからを鍛え直し、ここまでの復活を遂げた。お前の不屈の心……まさに称賛に値するものだ! ゆえにこそお前はオレの腹心に相応しい! さあ来るがいい! お前の努力を俺が讃えてやる!!」
「ふざけるなよ」
俺が俺のために行ってきた努力を、何故お前に讃えられなくちゃならない。
無駄な努力もあった。
何のためにあんなに頑張ったのかわからず、今振り返れば愚行としか言い表せないような努力もあった。
思い出すのも煩わしい過去も、楽しい思い出も。
俺の者であり俺と一緒に頑張ってくれた仲間たちのものだ。
お前が勝手に値踏みしていいものじゃねえ。
「さすが王族だ、思い上がりは天下一品だな」
やはり里帰りなんてするもんじゃなかった。
忘れていたはずの苦い記憶がここに来て一気に甦ってきやがった。
「そう言えば俺はお前に恨みがあったよ」
よくもまあ俺の右手、情け容赦なく砕いてくれたな。
「努力して強くなったついでだ、復讐を果たそうじゃないか」




