70 快進撃
そういうわけで、各々の進退をかけた対抗試合を行うことになりました。
マシュハーダ王子が勝てば俺はヤツの軍門に下り……。
俺が勝てば以後永劫にマシュハーダ王子からの関与から解放される。
「俺にとってのメリット何一つねえ」
マイナスがゼロになるだけのことじゃねえか。
しかし何の益もなかったとしても、避けられない戦いはある。
とっとと勝つに勝って勝ちまくり、アホなこと言うヤツのぐうの音も出ないようにしてやらねばな!
「で、その対抗試合なんだけども……!」
概要を説明しよう。
騎士学校の年次対抗試合は年に一度、各学年内で行われる競技だ。
一対一で戦い合って勝った方が進む。勝ち残った者同士でまた戦い、最後の一人になるまで繰り返す。
トーナメント戦だな。
「何回戦えばいいのでしょう……七回戦?」
「一学年総出で行われるからなあ」
トーナメント表もそら壮大なピラミッドと化すわ。
そのピラミッドを一段一段登って頂点を目指さなくてはならないんだが……!?
「肝心のマシュハーダ王子はどこにいるのか……おッ、向こうのブロックか」
つまりヤツと当たるとすれば決勝戦しかないようだ。
何たる偶然かと思ったが、作為的なものを感じないでもない。
なんせ相手は一国の王子だものな。
「どうせ優勝するのはマスターなのですから関係ありません。思うままに勝ち進みください」
「プレッシャーかけるねえコレーヌ」
そんな俺が優勝して当たり前みたいな……!?
「当然です、アナタ様はわたくしのマスターでもあるわけですから。我が『ルベド・ブラスト』の前にあんな半人前たちは残らず消し炭です!」
え? コレーヌもしや……!?
「コレーヌも参加するつもり!?」
「当然です、絆召喚術の使い手たるマスターなれば、契約を結んだ魔物とて戦闘手段。こたびはわたくしもマスターの剣となり、マスターの敵を薙ぎ倒しましょう」
『薙ぎ倒しましょう』は比喩にも何にも聞こえない。
しかしそんなことをしたら騎士学校は間違いなく灰燼と帰すであろうから、頑張って手綱を絞っておかないと……。
「待って待って待って……! 話を聞いてコレーヌさん……!?」
えーと、ほら、アレよ。
「この学校の連中は、基本俺のこと見下しているのよ。退学になってるからさ、皆が自分より俺のが下と思っているの」
「度し難い思い上がりです。その間違いを正すためにもわたくしが強化外装タイプ:ギガントで……!」
「わーわーわー」
やめて。
「だからこそ俺自身の手でとっちめてやらないと。コレーヌが出てくると『ヤバいのはアイツで本人は凄くない』とかいかにもいいそうだろう」
「弱者ほど現実逃避の言いわけが上手い、ということですか。そんな連中にぐうの音も出ないほどの決定的敗北を叩きつけるにもこちらの工夫が必要だと?」
「そうです! そうです!」
「たしかにそれならばマスターの直接その手で下されるのが効果的やもしれません。わたくしはマスターのもっとも理解ある従者として、ここは控えましょう」
「ありがとう! ありがとう!」
なんとか説得に成功した!
「しかし待ってください。余計な物言いをつけられないようにするには、後腐れなく殺してしまうのも……!?」
「ダメダメダメダメ!」
それがもっともいけない!
これ以上コレーヌが物騒な思想を展開させる前にさっさと終わらせてしまおう!!
一回戦開始だ!
◆
そうして登場に上がった先に、対戦相手がいた。
彼もかつての同級生。その顔には見覚えがある。
「キミの名は……ヨシタロウくん!」
「違う! 騎士学校六学年生ギルズだ!!」
一文字も合っていなかった。
おかしいな? 記憶力はいいつもりだったのに。
「所詮は劣等生か、『黄金の一三九期生』においても『漆黒の迅稲妻』の異名をとる、このギルズを見覚えもしていないとはー」
「あーあー、思い出した! 恥ずかしいあだ名のヤツ!」
「恥ずかしい言うな!?」
あだ名の方が衝撃的すぎて本名が頭に入ってこなかったパターン。
だから思い出せなかったのか!
「ねえ、なんで『迅稲妻』なの? ただの『稲妻』じゃダメだったの?」
「我が剣速は稲妻をも超える! 稲妻より速いという意味を込めての『迅稲妻』だ!」
「でも実際は違うんでしょう? 腕力で雷より速くなんて無理だし。過剰すぎる装飾はかえってダサいよ?」
「煩い!」
舌戦しているうちに試合開始の合図は鳴っていた。
ギャラリーの注目が集まる中でギルズさんとやらが自慢の剣をかまえる。
「貴様ごとき鈍物を、マシュハーダ王子が何故求めるか理解できん。しかし主君たる御方の望みをかなえるのも臣下の務め、お前はここで叩き潰す」
「なして?」
「ここでお前が敗退すれば優勝も不可能だからだ。当然だろう? むしろ最初の一回戦で敗退し、自分の未熟さを思い知るがいい! S級冒険者か何だか知らぬが、そんなもの騎士学校においては何の意味もない!!」
ギルスさんとやらが取るかまえは、この国の騎士正統剣法イグゼスター流『疾風迅雷』の型。
たしかにあの体勢から振り下ろされる上段斬りは当流における最速の剣とされている。
『稲妻』の異名は伊達じゃないわけか。いや『迅稲妻』か。
ではこちらも対策を施そう。
【絆召喚術Lv74>絆:スラッピィ(スライム)>召喚可能物:ローション】
「ぐわっぷーッ!? べべべべべ……ッ!?」
スラッピィとの絆で召喚されたローションだ。
半固形の粘りつく液体は、凄まじい体積でギルズさんの頭からぶっかかる。
量が半端ないのは絆召喚レベルが上がったお陰。
「何だコレは!? 一体なんだ!?」
ローションを頭から被って、なんだかわからないものの様相になってしまったギルズさん。
そしてローションはヌメリとまとわりつきながら滑るので……。
「ぐわあああッ!? 滑る!? 立てない!? どうしたことだぁ!?」
ローションに足元をとられて、すってんころりん立つことすらもままならぬ。
あれだけ足元が不安定なれば、自慢の神速剣技も発揮できまい。
そして俺の方は……、ローションの範囲外から。
【絆召喚術Lv74>絆:ゴブリーナ(ゴブリン)>召喚可能物:コンバットナイフ】
鋭利なナイフを呼び出して投擲!
これなら俺自身ローションに塗れることなく範囲外から遠距離攻撃できる。
ザクッ!
コンバットナイフがギルスさんの鼻先の地面に突き刺さった。
「うひッ!?」
「次は当てるぞ」
彼は完全にローションに絡めとられて、立ち上がるどころかその場から動き出すこともできなかった。
そして俺はレベルアップした絆召喚術でコンバットナイフを同時に百本は召喚可能。
彼の体を剣山に変えてしまうのもよろしいな。
「さーん、にーい、いーち……!」
「降参だ! 降参する! ……だから、やめてくれ……!」
はい勝利。
俺の一回戦突破が確定した。
ローションの掃除はそっちでお願いしますね。
「ちょっと! ちょっと待ちなさい!」
そこに水を差してきたのが公爵令嬢アーレッサ。
さっきも噛みついてきた子猫ちゃんだ。
「なんだ今の戦いはッ!? わけのわからない透明な泥に、投擲武器なんて! いずれも騎士道に反する卑怯の行いだ! こんなもので勝利して騎士と言えるのか!?」
「いや俺騎士じゃないですし……」
ただのS級冒険者ですし……。
「使えるものはなんでも使って状況を打破する。それが現場第一主義である冒険者のやり方だ。学校では体験できない現場の戦いを学びたくて俺を呼んだんだろう?」
一応招待状にはそう書いてあった。
「それに騎士といえば、他国から攻められれば迎撃し、国を守るのが務め。戦争なら益々何でもありになる。敵からのどんな奇策にも対応できないで国を守ることができるのか?」
「ぐぬッ!?」
反論もできない公爵令嬢は押し黙った。
そして二回戦は……。
【複合絆召喚術Lv74>絆1:コレーヌ(オートマタ)>絆2:ゴブリーナ(ゴブリン)>召喚可能物:チェーンソー】
コレーヌとゴブリーナとの複合絆召喚で呼び出したチェーンソー。
これで対戦相手の得物ごと両断して俺の勝ちだ。
「んぎゃああああああああッ!? やめてやめてやめてッ!?」
「チェーンソー相手に剣で受けた時点で負け確定だ。大人しく諸共両断されろ」
もちろん寸止めで終わらせたけれどね。
これで第二回戦突破。




