68 イディール騎士学校に再来す
いやー、本当に再びやってきてしまった。
王立騎士学校。
まさか戻ってくることになろうとは。
『二度と来るかこんなとこ』程度には思っていたはずなんだがなあ。
「……ここがマスターの学び舎ですか」
「『元』ね」
今回もオートマタのコレーヌにお供で来てもらっています。
彼女のゴーレム飛行形態があれば王都にだって日帰りできるしな。
拠点の留守はスラッピィに任せとけば大丈夫だが、不在の時間はできる限り手短に済ませたい。
というわけでパパッと済ませてパパッと帰ろう。
「年次対抗試合の日だから賑やかだな。けっこうお祭り騒ぎだ」
「あちこち人が屯っていますものね」
そして周囲から俺に集まってくる視線が痛いんだが。
一応ここ学校だから、生徒たちって制服着てるんだよな。
そして退学になってもはや部外者の俺は私服。かつメイド服を着たコレーヌまで引き連れてるんだから存在の浮くこと。
必要以上に目立って帰りたい。
「おい、あの人……!?」
「六学年生だったイディールだよな?」
「ジラハー家の『出涸らし』イディール……?」
「退学になったはずなのに、何故ここに……!?」
めっちゃ噂話が聞こえる。
せめて本人のいないところでやってくれよ。
ああ、もう帰りたい。
「さっさと用事を済ませたいんだが、具体的にどう済ませればいいのかねえ? さっぱりわからん」
「送られてきた招待状に何か書いてないのですか?」
「『学校に来い』としか」
なんて杜撰な招待状だ。
もうあと十秒以内に何かしらのアクションがなかったら、最初から何もなかったことにして帰る!!
「イディールくん! イディールくんではないか! よく帰ってきてくれたね!!」
と思った瞬間、何かしら出てきた。
あれは……、多分教師の一人だと思うのだが……?
「俺の記憶がたしかならば校長先生?」
「その通りだ! さすがに大恩ある教師のことは忘れないようだな!!」
校長という役職のみで名前は完璧に忘れましたがね。
しかし校長みずからお出迎えとはどういうことになっとるんじゃい。
「キミの活躍は聞き及んでいるよ! 騎士学校の生徒として恥ずかしくない成果を上げているようだね!」
「ん?」
なんか俺の中にある情報と矛盾ある文節があった気が?
それにこの誘き出し、裏で糸を引いているのはマシュハーダ王子だとばかり思っていたんだけれど。
ここで校長……というか教師側がしゃしゃり出てきたのは意外だな。
「校長先生、多分ですが俺をここに呼んだのはマシュハーダ王子だと思うんですが、ヤツはいずこに?」
「もちろん彼も学校内にいるだろう。しかし今は久々に戻った騎士学校を満喫してはどうだね!? 何しろここはキミにとって故郷のようなものだからな!」
何言ってんだコイツ?
この教師の態度が馴れ馴れしくてどうにも落ち着かない気分だ。
後ろに控えているコレーヌですらオートマタなのに全身鳥肌を浮かべている。
「校長先生」
俺は改めて念を押す。
「俺は退学になったので騎士学校とは何の関係もない。完璧なる永久不変の部外者です。今日だって人質をとるような形で呼び出されて迷惑千万というところなんです。さっさと用事を済ませて帰りたいのでマシュハーダ王子を出してください」
「そのことなんだがな……!」
校長、声を潜める。
「キミの退学処分を撤回してやってもいいと思っている」
「はあ?」
「キミの我が校を出てからの活躍は目覚ましいものだ。その実績は我々も認めざるをえない。なので極めて異例ではあるが特別に、キミの立場を回復させ復学させてやってもいいと思っているのだよ」
何言ってんだコイツ?(二回目)
退学処分はお前らから言い出したことだろう?
自分らで決定したことを自分らで覆すというのか?
「退学になった生徒がよそで成果を出すのが、そんなに具合が悪いですか?」
「ぐッ?」
「俺がA級に上がろうとした際も何かと邪魔してくれたようですしね。それでアンタらのメンツが潰れたとしてもアンタらの判断が招いたこと。甘んじて受け入れるべきじゃないですか?」
「だから! お互いのためにもっともいい選択をしようと言っているのだ! 我々はキミを迎え入れてやる! キミは再び栄光ある騎士学校の生徒に戻れる! 誰もが幸せになれる最良の選択じゃないか!」
「俺がまったく幸せじゃないんですが」
今さら騎士学校に戻ったところで、一体何のメリットがあると言うんだよ?
そりゃアンタらはいいよな。世界最高の称号であるS級冒険者を生徒に迎えれば学校の箔はつくし万々歳だ。
しかし繰り返して言うが俺に何のメリットもないの。
S級冒険者の称号を得た今、『騎士学校の生徒』などという肩書きなんて木っ端でしかないわ。
「そもそもヒトにものを頼む時はそれなりの態度があるでしょう? ましてアンタらは一度言ったことを翻しているんだ。前に言ったことは間違いだったってことですよね?」
具体的に言えば、俺を退学にしたことが。
「だったらまずは間違いを認め、謝罪するのが筋じゃないですか? 過去のけじめをつけた上でないと未来の話はできません。けじめもつけずになあなあのまま話を進めようなんて大人のすることですか?」
「それなんだがなイディールくん。我ら騎士学校は、伝統ある名門校だ。開校より一世紀以上を重ねて歴史があり、多くの人の憧れの的なのだよ」
だからどうした?
「その名門校に間違いなどあってはならないだろう? 騎士学校はいつでも正しくあらねばならん。それが世間からの信頼に繋がり、親御さんも安心して生徒らを預けてくれるのだ!」
「だから?」
「だからキミが戻ってくるにも、キミから頭を下げてもらわなければ困るのだよ。キミの退学処分は正しい判断だった。しかしキミはそれに反省して心を入れ替えS級冒険者になった。その努力を鑑みて復学を許可した。そういうシナリオで行こうじゃないか」
『行こうじゃないか』じゃねえよ。
なんで俺がそんな茶番に付き合わねばならん。何度も言うが俺は戻りたい気持ちなんてこれっぽっちもないんだがな。
「そのためにもまずキミの謝罪が必要なんだ。『私は不真面目な生徒でした』『退学になって自分の愚かさに気づきました』『どうか騎士学校でもう一度学ばせてください』。そう言って頭を下げるだけで騎士学校に復学できるんだぞ。こんなに光栄な話はないじゃないか!」
などという校長の口元にいやらしい笑いが浮かんでいた。
俺が要求を飲むと信じ切っているのか?
「なんという図々しい男でしょうか。マスター、御成敗なさるならどうかわたくしにお命じを」
コレーヌもキレかけている。
俺も別に忍耐の限界を見極める実験なんてしていないから、そろそろ衝動に身を任すと致しますか。
「あの銅像……」
騎士学校の敷地内には、いかにもな感じで銅像が立っている。
格式張った男性像で等身大だ。
「たしか騎士学校創設に関わった人物でしたっけ? 戦争で大手柄を上げて、その褒賞として騎士の教育機関設立を願い出たとか……?」
「おお! よく知っているじゃないか!? あれこそ騎士学校初代校長ジェルジェマン伯爵の像だ! そうだあの像に向かって土下座するというのはどうだ!? キミの反省が全校生徒に伝わることだろう!!」
きっと創設者の志は高尚で清らかだったんだろうが、百年そこらでこうも腐るとはな。
そんな形骸化した学び舎に自分の像を置かれても、創設者だって迷惑だろう。
ということで……。
【複合絆召喚術Lv74>絆1:ゴブリーナ(ゴブリン)>絆2:ニャンフー(モットメディタイガー)>召喚可能物:長曽祢虎徹】
シュンッ! シュンッ! シュンッ!
鋼の走る音が何回か鳴って、絆召喚した異界の刃が煌めく。
何が起こったか、周囲の人間にはわからなかったろう。校長しかり、居合わせた生徒たちしかり。
しかしなしたことの結果はすぐに現れた。
騎士学校を代表する人物の厳かな銅像に、いくつもの斬閃が入り、輪切りとなって崩れ去った。
「おっほぉおおおおおおおッッ!? うげぇええええええええッッ!?」
もはやいくつもの断片となった銅像に、校長は顎が外れんばかりに大口を上げる。
「初代校長の銅像がああああッ!? 我が校のシンボルがあああああッ!?」
「これが俺の答えだ」
召喚した異剣を掲げて言う。
「俺がこの学校で過ごした日々は空虚だった。何の益もない毎日だった。オレは退学になってはじめて自分の人生を得た」
だから……。
「たとえ頼まれようが命令されようが、俺はこの学校に戻ってくるつもりはない。俺はこの宣言を覆すつもりはない何度も言わせるようなら叩き潰すぞ!」




