66 招待状という名の挑戦状
はい俺。
最近は冒険者たちも多く訪問しにくる拠点で陣取り鬼とか缶蹴りしながら遊んでいた。
そんなある日、冒険者ギルド経由で何か送られてきた。
手紙?
「この封蝋に押された紋章は……!?」
間違いなく王族の紋章だな。
国王や王太子の専用じゃないから、それ以外のその他大勢系の王族が送ってきたお手紙ということになる。
「読みたくねえ……」
このまま読まずに黒山羊さんに手紙を食べさせたい。
しかしあいにく、絆契約した相手に山羊はいなかったので仕方なく封を開けて手紙を読む。
届けに来た使者が『返事を書かれるまで待たせていただきます』とか言ってるんで逃げ場がない。
「ふぅーーーーーーーーーーーぃん……」
黙読中。
変なため息が出た。
コレーヌが様子に気になったのか寄ってくる。
「マスター、何が書かれていたのですか? マスターに勲章を贈るとでも言ってきたのですか?」
「なんでよ?」
勲章を頂けるような功績なんて打ち立てた覚えはありませんぜ。
そう、俺のしてきたことはすべて俺と仲間のためにしたことであって、お国のための行動など一つもない。
「では、どんな用件なのです?」
「パーティへの招待……ってところかな?」
「パーティ? それでは極上のドレスを仕立てませんと! マスターの御衣装はタキシードでかまいませんか?」
「いやいやいやいやいやいや……ッ!?」
待って待って。
ウソ。
パーティってのは虚言。手紙の内容の呆れっぷりについつい皮肉を言いたくなっただけなの。
って言うか何でドレスまで仕立てようとしてるのコレーヌ? キミもパーティに出席するつもり? ドレス着るの?
「まあ実際は、パーティに似ているようで違うモノなんだけど……!?」
「一体何なんです?」
「騎士学校の対抗試合に出場しませんかってさ」
また俺にとって馴染み深いタイトルが出てきた。
因縁ともいえるが。
騎士学校はかつて俺が在籍していたエリート校で、王宮に仕え国を守る正規騎士たちを育成するための学校だ。
そこで行われる対抗試合は、年一の恒例行事で各学年の最強を決めるトーナメント戦。
「それにマスターが招待を受けたと?」
「おかしいよねー、俺もう退学になったのにさ」
一体誰の差し金だろうか?
って推測するまでもないよな。既に退学になった元生徒を学校行事に呼びつけるなんて無茶をできるだけの権力。そして封蝋に刻まれた王家の紋章を照らし合わせれば。
念のためにお手紙を今少し読み進めると、俺を対抗試合に招く理由が明記されていた。
何でも『最近活躍目覚ましいアナタに現場での戦いを実演してほしい』のだとか何とか。
これを読んで、やっぱり差し金はアイツだなという確信が深まった。
もう一つの犯人候補として、騎士学校の教師陣そのものが上がっていたが、彼らなら何とか俺を騎士学校の籍に戻して自分らの面目を取り戻そうとするはずだ。
自分らが見限った退学生がS級冒険者として大成なんて、こんな面子の丸潰れなことはないしな。
しかしそういう意図がまったく臭ってこないというなら、ここに騎士学校の意図は関わっていないのだろう。
だとすれば、やっぱアイツか……!?
「どっちにしろ恥知らずな要請と見受けられますがマスターは応じるのですか?」
「まさかー」
まさかまさか。
何にしろあそこの連中には嫌な思いでしかないんだし旧交を温めようなんて気は欠片も起こらん。
向こうは俺に会いたいようだが、俺は一生会いたくないのだ。
エクサーガ兄さんのような僅かな例外を除いて、王都にいる連中とは永遠の他人でありたい。
とはいえ最低限の礼儀を守って断りの返信をするぐらいさ。
『死ね』とでも書いておこうか。
「お待ちください。この手紙まだ続きがあるようですよ?」
「なんと?」
って言うか勝手に読み進めるコレーヌ。
一体何が書いてあるんぞや?
「なんでも今回の対抗試合には、特別な賞品がある模様です」
おおマジでそんなこと書いてある。
『本年、最上級年度の対抗試合にて優勝した者には、第三王女マリアデルとの結婚を認める』
……とのこと。
「はーん、王女様との結婚なんてまた月並みな」
『ダメだよそれー! ダメダメーッ!!』
いきなり新たな声が乱入してきたと思ったら、昆虫の翅が生えた小人であった。
ピクシーではないか。
俺と契約を結ぶ小妖精がどうしてここに。
『ご主人、お姫様と結婚しちゃうの!? ダメダメ、ダメゴローだよ!!』
「一体どうした?」
そんなに心配しなくても、俺には王族の親戚になって権力を手にしようなんて欲望は持ち合わせておらんのことよ。
マシュハーダのヤツも、これで俺をおびき出すエサになると思っているなら考えの浅いことだな。
『ご主人はどうでもいいんだよー! 問題はお姫様とエクサーガお兄ちゃんだよー!!』
「へぁ? どういうこと?」
『二人は今とってもラブラブってこと!!』
いや本当マジでどういうこった?
そういやアレか? いつだったか『王女様のご病気を治さんがために薬を探せ!』って話が持ち上がったけれど、そのお姫様というのが第三王女マリアデルってことか!?
エクサーガ兄さんは、発見した薬を捜索隊に献上する役割を担ったけれど、そのまま王都に連れていかれて病身の王女様を介護する役割についたとか。
「まさかそのままいい仲に……!?」
エクサーガ兄さんならあり得ると思った。
そういうテンプレを踏み抜く人だよあの人は!!
『どうしようどうしよう! 愛する二人が引き裂かれちゃうよー! 悲恋だよ! 四大悲劇の一つになっちゃうよー!!』
「ええい、落ち着け……!?」
ピクシーはどうしてまたカップルの危機にそこまで慌てふためいておる。
そういやピクシーは分身の一つがエクサーガ兄さんについていって王都にいるが、それで近況を知ることができるらしい。
「つまりは、このまま宣言通り対抗試合優勝者と王女様の結婚を許してしまえば……。二人の仲が裂かれることに……!?」
『そうだ! その試合にエクサーガお兄ちゃんも出場すれば!? そして優勝すれば晴れてお姫様はエクサーガお兄ちゃんのものに!?』
いや、それはダメだ。
「対抗試合はあくまで学校行事だからな。去年卒業してしまった兄さんに参加資格はない」
『万策尽きたぁーッ!?』
さらに手紙を読み解くと注意書きがあって『優勝者が同性あるいは既婚者(婚約者あり)の場合、代わりの結婚相手を自由に指名できる』と書いてあった。
クッソご丁寧に!?
これは、ルールの穴を埋める補足に見せかけて、立派な俺への脅迫だった。
『私に従って出場しなければ、兄の幸せをブチ壊すことになるぞ』と。
クソ王子への認識を改めねばなるまい。
考えの浅い若僧かと思っていたがとんだ策士だったか、より胸くそ悪い方向性での。
兄さんの幸せを守るためには、俺が対抗試合に出場して俺が優勝するしかない。
それでもってお姫様との結婚権を兄さんに譲る。
エクサーガ兄さんは、こんな俺でも家族と認めてくれて、こんな秘境まで探しにきてくれた唯一の人。
そんなエクサーガ兄さんのために何もしないわけにはいかない!!
「どうやら、行くしかないようだな……!」
二度と帰ることなどないと思っていた古巣へ。
しかし、俺の意志を曲げたその代償は大きいぞ。
この一件の黒幕として……もはや疑いようもなく確定した存在……。
マシュハーダ王子。
アイツとはどう考えても肌が合わずにこの先一生関わり合いにならなければいいと思っていたが、考えが甘かったようだ。
俺がどんなに拒もうと、アイツは俺を諦めきれずに追ってくるらしい。
『なんで?』としか言いようがないなら、それならこっちも覚悟を決めねばならない。
あんまりにもしつこい相手なら、叩き潰して立場をわからせてやるだけのことだ。




