64 皆のユートピア
当然ながら魔王さんが勝った。
召喚された古代の大都市による効果……侵入した者の神聖力が消滅させられるという作用のお陰で、神の軍勢は壊滅的打撃を受けている。
天使たちが次々消滅していく中、大将である神だけが平気を装っていた。それは神の持ちうる神聖力が圧倒的だからではあるが、だからと言って古代都市の作用からまったく無影響なわけではない。
全体的なパワーがしっかり何割か減殺されているに違いなく、そんな状態で凌ぎきるには魔王さんはあまりに宿敵すぎた。
元々根性あるわけでもないらしい神は劣勢に立たされると滅法弱く、あっという間に押し切られてブチ転がされてしまうのだった。無様に。
『んぎゃびえぇええええええええッッ!?』
神。
You lose。
魔王さん。
You win。
実に一方的なスッキリする戦いであった。
『ぐぼぅヴァラッ!? 待て貴様ら汚いぞ!』
死んだと思ったらしぶといな。
魔王さんによって叩き落とされ地面と熱烈なキスをしたはずの神はそれでもまだまだ元気であった。
『そもそもお前の力は、そこの人間との契約によって得たものではないか! その人間に術を与えたのは私なのだぞ! 神の与えた力によって神を討つなどおかしいではないか!?』
「別におかしかないけど?」
元がどこであろうとも、絆召喚術の使い手は俺だ。
術者が自分の力をどう使おうとそれは自分の勝手。己が身を守るためならばなおさらのことだ。
このクソ神は、俺の魂ごと術を回収しようとしてたんだしね。
『魔王も魔王だ! 元々が神の力である絆召喚術を利用して、それで勝って嬉しいのか!? 魔界の王の誇りはないのか!?』
「私は私の大事な者たちを守り抜くことが誇りだ。そのために必要な古代文明の力を扱えるようにしてくれたのがイディール殿。であれば彼のために戦うのも当然のこと」
『だったら神のためにも戦えよ! あの人間に術を与えたのは神だぞ!』
「邪な目的には与しない」
ズバッと切り捨てる魔王さんの決然っぷりに惚れ直す。
ボッコボコにされた神はもはや息絶え絶えで、勝負の結果は明らかだった。
「神どもは大体いつも悪巧みで裏から進めていくが、詰めが甘く管理がずさんだからな。今回だってイディール殿に術を与えただけであとは放っておいたのだろう。適当なところで回収しようと思ってすっかり忘れていたのではないか?」
『ぐぬ……!?』
「その間に私がイディール殿の存在に気づき、無事契約を結べたのは幸運ではあったが……。お陰で神の姦計からイディール殿を守り通すことができた」
いや本当に助かりました。
魔王さんが駆けつけてくれなかったら今頃どうなっていたか。
『ごおおお……!? こうなったら人間! おい人間!』
「はい?」
いきなり神から呼ばれたのは、きっと俺。
呼びつけられる筋合いなんか本来ないんだがな。
『喜べ! この神もお前と契約を結んでやるぞ! 私も絆召喚で途轍もない古代文明の遺物を呼び出し、その力で魔王を捻り潰してくれるわ!!』
「断固として嫌ですが?」
『ぐのぉおおおおおおおおおッッ!?』
いや、何故拒否されて驚く。
そもそも絆召喚術は絆の力だぞ?
そんな絆を、どうしてお前なんかと結べるというんだ?
俺を駒のように扱って、なおかつ最後には術のおまけとして取り込もうとしやがったんだから。
人はな……魂を抜かれると死ぬんだぞ!!
知らなかったか!?
「こんなに腹の立つ相手は、俺を勘当してくれた親父以来だな。お前となんか死んでも仲よくできねーよ」
そしてそれはお前だって同じだろう?
俺たち人間を下等種族と見下して虫けら扱いしてくるんだ。そんな相手と絆を結べるとでも?
「試しにちょっとやってみようか?」
【契約不可>この相手と絆をむすぶことはできません】
「ほーらね」
『どちくしょぉおおおおおおおおおおッッ!!』
神、泣きながら空を駆け上がっていった。
あッ、逃げた?
『これで勝ったと思うなよ! 下等な人間どもに邪悪な魔王! 神は偉大なのだ、神聖なのだ!! すぐさま正義のパワーが神に味方し、邪悪など一撃のもとに砕き散らすであろう!!』
負け惜しみとしか思えない神の捨て台詞。
「……コレーヌ」
『了解ですマスター』
ゴーレム強化外装をまとったコレーヌ、その装備から深紅の光線『ルベド・ブラスト』を放射。
赤い光は逃げ行く神に命中し、その全身を飲み込んだ。
『ぐぎゃあああああああああッッ!?』
そして黒焦げで墜落していく。
『とどめをさしたとまでは行きませんが、それなりのダメージは与えたことでしょう。あれでも一応神ですし』
「よーやった」
相手は神だしなあ、殺し尽くすのも不可能か。
今はできる限りこっ酷く叩きのめして『俺たちにちょっかいを出すとタダでは済まんぞ』と知らしめておくべきか。
「上出来です。ここまでやれば神も容易に動けますまい」
魔王さんも戦果に満足のご様子だった。
「救援ありがとうございました!」
「アナタと契約を結んでいるものとして当然のことです。神の目論見も阻止できて一安心ですな」
しかし、神のヤツは見た感じとてもねちっこい性格をしているようだし、また来ないとも限らんというか必ず来るだろうから備えは怠らぬようにしておかないと。
「いえ、そこまで心配はいりますまい。既に絆召喚術は、神が回収できないほどに変質していると思われます」
「どういうこと?」
「他者と絆を交えることによって効果を発揮する……という術のメカニズムがヤツにとって仇となったのでしょう。術そのものが使い続けることによって変質していくものですが、他者との接触があれば変質はさらに進みます」
もう俺の中で絆召喚術は変質しまくっていて、神と同化することができなくなっている?
「イディール殿、事実が明らかになったからと言ってアナタの絆召喚術を借り物とか、与えられたものと認識するのは間違いです。絆召喚術をここまで育てて大成させたのは、明らかにアナタ自身です」
「そうですマスター! その術は間違いなくマスター自身のものです!」
魔王さんの説明にコレーヌが割って入る。
「このわたくしを永遠から解き放ってくれたのもマスターです。マスターがいなければわたくしは今も、既にいなくなった古代文明の命令に従い何もない土地を守り続けていたでしょう」
「コレーヌ……?」
「わたくしのマスターはアナタだけ。わたくしの恩人はアナタ様だけです」
普段沈着冷静なコレーヌがここまで情熱的に言ってくるなんて。
「まッ、ダンナと一緒にいるのもなかなか楽しいしな。ただのゴブリンだった頃には味わえなかったし、その点感謝してるよ」
ゴブリーナ……!?
「我らの主人はアナタのみ、共にこのナワバリの王を目指しましょうぞ!!」
「エサが美味しければ何とかなるにゃー」
ウルシーヴァにニャンフー……!?
『キュピピピピピッ!!』
「スラッピィ、そうだな……!」
別に、神に対して負い目があるなんて最初から考えていない。
俺は、俺を大事に思ってくれる人と一緒に、この森の奥に築き上げたユートピアを栄えさせていくだけだ!
絆召喚術によってな!!
「見事な覚悟です。アナタが絆召喚術を得たことこそ、この世界の最高の幸運でしょう」
見届け終わったあと、魔王さんは静かに空中へと昇っていく。
ここでの用事が済んだってことなんだろう。
「皆さんまた会う日までお元気で。私はアナタたちを祝福しましょう。我が契約者イディールとその仲間たちに魔の加護あれ!」
そしてもと来た時と同じように暗黒の穴へと入り、魔王さんはこの世界から去っていった。
きっと魔界にお帰りあそばしたのだろう。
一件落着であった。
無事に済んでよかった。
そして、その一部始終を傍観者として眺めていた拠点利用の冒険者たちは……。
「神を倒し、魔王から認められた……!?」
「どうなってんだここの主は……!? S級冒険者の中でも飛び抜けているよ、マジだよ……!?」
ここからさらに大袈裟なことにならないか心配であった。




