62 神軍襲来
一方その頃、俺はといえば……。
神々からの攻撃を受けていた。
「ぎえぇええええええええッッ!?」
なんで!?
なんで毎回こうなの!?
どうしてこう始まる時はいつも唐突なの!?
『イデオニール大樹海』の奥に作られた冒険者たちの大拠点。
その頭上の空を埋め尽くさんばかりに光り輝く軍勢が浮かんでおります。
「あれって何かなぁ……!?」
「背中から翼が生えているぞ? 天使なんじゃない!?」
居合わせた冒険者たちも、目の前の事実がぶっ飛びすぎて他人事みたいな口調になっていた。
事実を受け止めきれないの。
天使といえば、神の下僕として命令に従い、時には降臨して地上の不信心者を罰して殺戮を行うことがあるという。
「誰だぁーッ!? 神の教えに背いたヤツは誰だぁーッ!?」
「さあ?」
「オレら神様なんて関係ねーし」
コレーヌもゴブリーナも、たしかに神様とか関係なさそうだからなあ。
「むしろダンナじゃねえのか? 神様の怒りを買ってそうなのは?」
「ええ俺!?」
そんなアホな!?
俺ほど日々を質素に敬虔に生きている人間はおらんのことよッ!?
あッ、もしや昨晩、デザートの果物を他より一個多く食べた貪欲さに神がお怒りを!?
「いやいやそうじゃなく。旦那の使う絆召喚術っていかにも禁忌に触れてそうじゃねえか。使えるのはダンナしかいねえんだろ?」
言われてみればたしかに。
珍しい術であるのは間違いないだろうけど、それが神様のお気に障ったとでも!?
『いいや、そうではない……』
なんだ? この厳かな声は?
頭の中に直接響いてくるような、それでいて真上から雷鳴のように突き刺さってくるかのような声は……!?
『絆召喚術は、それ自体は清らかで合理的であり、褒めたたえるべきもの。故に罰するいわれはない』
一体何なんだこの声は?
そして誰が言っている?
『何故ならば、その術は私が与えた術だからだ』
天空に浮かぶ数え切れないほどの天使の群が、一斉に動き出して二つに割れた。
まるで軍隊の隊列のように。
そして道のように大きく開いた隊列の隙間から、さらに輝かしい存在が下りてくる。
『天使よりもさらに……!?』
天にまします輝かしき存在。
それは何かと推察するなら考えるまでもなくわかる。
神。
格好こそ人の形に似るものの、その表面は余すことなく清らかな白光を放っていた。
すべての汚れを洗い流し、また汚れを許さぬというほど白い光に。
そのあまりにも清らかすぎる気配は、俺なんかは鼻白んでしまうほどだった。
体つきは女性ではなく男性のようだが、一目でその見分けがつきにくいほどの美男子であった。
神ならば、理想の美貌を当然のように持っているってことか?
いや重要なのはそこではない。
神々の尖兵たる天使たちだけでなく、神自身すらもこの樹海に降臨したとは。
本当に何事!?
「でもどういう意味だ? 絆召喚術を与えたのは神様だって!?」
そんなわけがない。
俺に絆召喚術を教えたのは、偶然に知り合った吟遊詩人だ。
アイツも謎めいたヤツで、出会ったのがあの時最初だったし、絆召喚術を教わって以降は一度も再会することがなかったが……!?
「もしや……まさか……!?」
『お前の推測する通りだ』
天空の神が、一瞬にして姿を変えた。
そして現れた神の違う姿は、竪琴をもった吟遊詩人……!?
「まさか本当にアンタが……!?」
『いかにも、お前に近づくために一時人の姿を借りたのだ。騒がれることなく密かに絆召喚術を授けるために』
すぐさま吟遊詩人の姿は消え去り、輝かしい神の姿に戻る。
それでは本当に、絆召喚術は神の秘術だったのか?
人間ではとても作り上げることはできないとはわかっていた。
でも俺は、恐らくはどこぞの遺跡に眠っていた文献から復活させた古代魔術だろうかと思っていたんだが……。
そんな俺の想像を遥かに越えていたとは!?
「しかし、それならなぜ今さら正体を明かして出てきた? 俺に絆召喚術を授けて目的は果たしたんじゃないのか?」
『何をバカな、人間ずれに力を与えてそれで終わりというわけがなかろう』
やっぱり?
そして神の言葉尻からはそこはかとない人への軽侮が感じ取れる。
『お前という存在は、いわば目標達成の途中段階。物事を進めるための駒に過ぎぬ。絆召喚術を覚えさせたお前が我が目論見通りに進んでくれれば、私の欲しいものはおのずと手に入るはずであった』
「俺にはそんなつもりはなかったが?」
『当然であろう? 人は皆、自分の意思ではなく神の決められたとおりに動く生き物なのだ。自分の好きにしているつもりであろうが、それはすべて錯覚。この神の手の上で踊るだけが人のできることなのだよ』
いや完全にアイツ人を侮っとる。
人は自由意思すら神の思い通りである運命の奴隷だとでも?
『お前もそうだ。私の授けた絆召喚術に酔いしれ、より大きなことを成そうと、この大樹海に入ってくることは予想できていた』
いえ?
俺が大樹海に入ったのは絆召喚術の検証のためですが?
『そこでお前は大いなる力に出会い、その力を絆召喚術で解き放つはずであった。絆召喚術はいわば鍵だ。この地に眠る大いなる力を呼び覚ますための……』
「大いなる力?」
この『イデオニール大樹海』に眠る。
俺はそれに心当たりがあった。
「古代文明の遺産……!?」
『その通り、矮小なる人間が知る必要のないことであったが、誰かが余計なことを吹き込んだらしいな』
この大樹海には数千年前、俺たちの築き上げたものとはまったく異なる文明が栄えていたらしい。
恐らくは今の時代より高度で進んだ文明だったのだろう。
俺の絆召喚術で呼び出せるものはすべてこの世にないもの……つまり古代文明が生み出して今は存在しないものと思われる。
神が欲した真の目的は……それか?
『遥かなる過去……。栄え滅んだ古代文明は、この神すらも得難き秘宝や真理に満ち満ちいた。神はそれらを手に入れなければならん。世界のすべては神のものであらねばならぬのだから』
「勝手」
『しかしいかな神といえども時間の流れすら思うままにはできぬ。過去へと飛んでいくなどできようはずがない。常識を考えろ』
何なの?
『もっとも策を講じれば不可能なことではない。結局のところ神は万能なのだ』
「その策というのが絆召喚術か?」
『いかにも。絆召喚術を得たお前は、時の彼方から様々な文明の遺物を召喚してくれた。この神の目論見通りに』
「すべてお前の思い通りだと?」
『神の思い通りにならぬことなどない。お前の魂と才能がたまたま絆召喚術への適性を持っていたが、授けて正解であったぞ。あとはお前の魂ごと取り込み、術を我がものとするだけで、いくらでも古代文明の遺物が我がものとなる!!』
実った果実をもぎ取るように。
俺は神が収穫するために勝手に育った作物と言ったところか。
ふざけるな。
俺は俺の能力をたしかめるために絆召喚術を研究したんだし、俺に関わる皆のために力を使いたい。
この術を与えてくれたのが神といっても、今さら取り上げられてなるものか。
しかも俺の魂ごと?
益々ふざけるなよ!
これはもはや抵抗あるのみ。
何でもかんでも神の思い通りになるなんて大間違いだって教えてやりゃー!!
「その通りです。我が契約者を害そうなどとは、やはり神とは悪辣野蛮」
おお、その通りだ!
……て言ったの誰?
コレーヌ?
「いえ、わたくしは何も申し上げていませんが?」
ではスラッピィ?
『キュピピピピ……?』
スラッピィでもない。
では一体誰がそんな厳かで思いやり溢れることを?
「私です、私ですよ」
へぁッ!?
気づいたら俺の背後の空がドス黒く渦巻いている!?
あたかも神の白光を押し返さんばかりに!?
「お忘れですかイディール殿。私もまたあなたと契約を交わした者。契約相手の危機にはそれを救うために馳せ参じましょう。我ら本来の相手たる神が敵対者ならなおさら……!」
そういうアナタは!?
かつて俺たちの下に訪れ、そして絆契約を交わした……。
魔王ブラックロアさん!?




