53 完成・樹海基地
何やかやで準備が整った。
俺たちが根城としている『イデオニール大樹海』の奥地に冒険者を迎える設備が完成したので、お披露目の段階へと移る。
まず呼ぶのは、この企画の発案者。
これまで散々お世話になってきたギルド職員のオッサンだった。
日頃のお世話の感謝でもあるし、ギルドに関わるオッサンの認可が下りてこそここを冒険者の休憩ポイントとして認められる。
というわけでこれは、俺たちのしたことが報われるかどうかの最初の試験でもあった。
樹海の外れまで、まずオッサンを迎えに行く。
「やーやー、オッサン来てくれてありがとう」
「まさか本当に呼び出されるとは思わなかった……!? 本気で樹海内に、冒険者の活動拠点を作ったのか?」
オッサンが戸惑い気味に尋ねてくる。
何だい、オッサンが出したアイデアだろう?
「かと言って本当にやるとは思わねえよ! 今まで何百人って冒険者が挑戦して砕け散った作業だと思ってるの!?」
「だからこそS級の偉業に相応しいんでしょう?」
最終的な目的は、それだからな。
「まあまあ見ていってよ。実物さえ目にすればウソか本当かなんて論じる必要もないでしょう?」
「そ、そうだが……!?」
俺はオッサンを連れて樹海内へと進む。
はあ、なんか昔を思い出すぜ。俺が本当にペーペーの駆け出し冒険者の時は、オッサンが研修でクエストに付き合ってくれたんだよなあ、こんな風に。
「こうして一緒に未開地を進むと……お前がズブの新人だった頃、手ずから指導してやったのを思い出すなあ」
オッサンも懐かしんでいた。
「世間知らずのお坊ちゃん学生だったお前が……今じゃ世界有数の大秘境を闊歩できるまでに成長するなんて……! 本当によく成長しやがったもんだなあ……!?」
いや、そんな肩を震わせないで……!?
実の父親は、俺の成長を喜んだことなどないが、それなのに赤の他人のはずのオッサンがこんなにも俺のことで喜んでくれるのが、嬉しい。
エクサーガ兄さんのこともあって、俺って案外孤独ではないんじゃないかと思えてくる。
「お前のことを見出したオレの目に狂いはなかったってことだ。そのことは充分に誇らしいが、だからって今日のことに手心は加えないぜ」
オッサンは一点、緩んだ気を引き締めるように涙を拭いた。
「お前のことは信頼してるが、それでも常識的に考えて『イデオニール大樹海』の奥地に拠点を設営できたなんて常識的に考えて信じがたい」
「だからこそS級冒険者の偉業に相応しいんだけどね」
同じことを二回言った。
「もし『ただテントを張っただけ』で拠点と言い張るようなお粗末なものだったら、残念だがギルド本部に報告することはできないぜ。お前のことは息子のように思っているが、だからこそ依怙贔屓なんか絶対しない!」
「ぐお……ッ!?」
ここで胸に突き刺さるようなことを何気なく言わないで……!
感動で泣くから……!?
実の親には勘当されて、親のように慕う人からは感動されて、っつって……!
「もちろんコネに頼るつもりはないよ。ギルドの基準に満たないなら容赦なく切り捨ててくれてかまわない」
「よっしゃ! オレをがっかりさせんなよ!」
オッサンと連れたって樹海内を進んでいくと……まず最初のポイントに到達した。
おもてなしポイントだ。
樹海の木陰からヒョイと出てくるオオカミ。
しかも数頭。
「あれは……ッ! 大樹海固有のオオカミモンスター、ヘルウルフッ!?」
オッサンはすぐさま武器を身構える。
今はデスク職に落ち着いているとはいえ、かつてはバリバリの現役冒険者であった事実が窺える。
「気をつけろイディール! ヘルウルフは大樹海でも上位に食い込み危険なモンスターだ!」
「オッサンオッサン、大丈夫大丈夫、心配ない心配ない」
俺は無造作にオオカミに近寄り、それを見て悲鳴を上げるオッサンにもかまわず手を差し出した。
少しでも経験を積んだ冒険者なら、これを間近に見て『俺の手が食いちぎられる』と想像するだろう。
しかし実際は違った。
差し出された俺の手をベロベロ舐め回すオオカミたち。
「ええええええッ!?」
「こらこら、オレの手は餌じゃないぞ?」
しかし、言いつけ通りここで俺たちのことを待ち受けてくれたんだから、ご褒美を上げなくてはな。
【複合絆召喚術Lv67>絆1:スラッピィ(スライム)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルヘイムウルフ)>召喚可能物:液状おやつ(犬用)】
召喚術で、コイツらの大好きなおやつを出すと、途端に目を輝かせるオオカミたち。
「はいまだまだだよー。おすわり! お手! ふせ! ……よし!」
チューブから絞り出す液状おやつを舐め貪るオオカミども。
それを見て呆然とするのがオッサンだった。
「大樹海で一、二を争う凶暴モンスターが、飼いならされた犬のように……!?」
「実は本当に飼いならしていたりして」
これから多くの人々を樹海奥へ招き入れるにあたり、俺の仲間たちと他のモンスターを分けるのは絶対必要なことであると思えた。
そこで俺は一工夫して、既にオオカミたちに首輪をつけてある。
少々窮屈だろうが、安全のために我慢してくれ。
そして首輪のついている獣には攻撃しないようにと冒険者たちに周知させておかねばな、と。
「んだば、ここからはオオカミに乗って先に進もうぞい」
「へぇッ!?」
変な声を出して驚くオッサン。
そんなに意外かな? ここから俺たちの築いた拠点まで、人の足で辿りつこうとしたら楽に数日かかるぞ?
「なのでここからはオオカミ運んでもらうのです。コイツらの速度なら日中には到着する」
バウッ! と頼もしげに吠えるオオカミ。
エクサーガ兄さんの樹海奥通いによって確立された移動法だ。
さあ、その背にしがみついて……GO!
「ひょええええええええええッッ!?」
同じようにしがみつくオッサンが、風切る速度のオオカミの疾走に叫び声をあげた。
うむ、オオカミでの移動も思ったより快適だなあ。
これまでは飛行ゴーレムに頼って街まで行き来していたけど、これからはオオカミに乗ってでもいいかも。
……と思ったが、コレーヌの拗ねる姿が目に浮かんだのでやめた。
◆
そうしてオオカミさんの背にしがみついて移動すること小一時間。
緑の塗りつぶされた樹海の風景が延々と続く中、ついに一旦の変化が現れた。
「おお、オッサン。こちらをご覧ください!」
視界に現れたあ、あるモノへと注目を促す。
「へ? 何? もう中間ポイントについたの?」
「それはまだです」
オオカミの疾風の速度……つまりウォルフ・デア・シュトルムにオッサンはヘロヘロになっていた。
実際に疲れるのは走ったオオカミだろ? というツッコミもありそうだが、その超速度にしがみついて振り落とされまいとするにも体力がいるのだ。
「それより見て見てこれ! 自信作なのこれ!」
「はあ?」
俺は指さすのは地面だった。
地面なんか見てどうするの? って話でもあるが、そこに俺たちが用意した会心の仕掛けがある。
ここは『イデオニール大樹海』。
どこまでも続く数え切れない木々の群の中、不自然に開けた範囲がある。
そこには木々が生えておらず、しかも地表は石畳を敷かれて舗装されていた。
「樹海の中に道!? 石畳の道路が!?」
「凄いでしょー? へっへっへーん」
もちろんこんなものが自然に発生したわけではなく、人の手で築き上げられたものだ。
手を加えたのはもちろん俺たち。
ゴブリーナに手伝ってもらってガンガン木を伐採し、ゴーレム強化外装をまとったコレーヌにガンガン石畳を引いてもらった。
「とはいえ、まだ途中までしか引いてないんだけども。中間ポイントを目指す冒険者たちがこの道を見つけたら、あとはもう辿るだけで到着できるでしょう? 道標のつもりで舗装してみた」
「はあああああ……!?」
オッサン、リアクションをとる余裕すらなく呆然とするだけだった。
でもそれで充分期待していた反応だったので満足した。
さあ、次はいよいよ中間ポイントそのものを検分していただくぜ。
この舗装された道をたどって、いざ行かん我らが拠点へ!




