52 複合召喚建築コンペ
「絆召喚術には別のアプローチがあります。そう、複合絆召喚です!」
コレーヌが我がことのように言う。
複合絆召喚というと、通常一種の契約相手との絆で行う召喚を、一度に二つの絆を合わせることでまた別のものを呼び出す召喚術式だ。
応用編ってわけだな。
「魔王さんとの絆で呼び出せるものは、やはり元が魔王であるだけに大仰過ぎるのかもしれません。他の因子で程よく薄めれば、ちょうどいいものが召喚できるようになるのかもしれません」
「薄めるって……!?」
頼むからもうちょっと言葉を選んでくれないかなコレーヌは?
ふむ……?
しかし、たしかに魔王さんとの絆を基調にした複合召喚はまだ試してないなあ。
単独召喚の摩天楼が圧巻すぎて、それだけでお腹いっぱいになってしまったから。
でも試すだけなら損はないし、やってみてもいいだろう。
それで本当に冒険者用の宿舎に相応しい召喚物が出てくればなおよし。
思い立ったが吉日とばかりに、早速行動に移してみる。
「じゃあ、誰の絆から複合させてみるかなあ……」
少し思案した結果、まずはゴブリーナの絆と複合してみる。
なんでって?
なんか無難そうだから。
【複合絆召喚術Lv65>絆1:ブラックロア(魔王)>絆2:ゴブリーナ(レディゴブリン)>召喚可能物:人間家畜小屋】
全然無難じゃなかった。
むしろ難しかなかった。
所詮ゴブリンだよ! これがゴブリンだよ、あらためて思い知った!!
「こッ、これは冒険者用の宿舎としてはとても提供できねええええええ……!?」
むしろ『ケンカ売ってんのか!?』ってなってしまうよ。
人の尊厳の争いになる!?
「でも内部は思ったより明るくて清潔ですね。家畜としての人間を大切に扱うという意味合いでは正しいですが」
「衛生管理が行き届いていた!?」
実際に召喚したものをコレーヌと一緒に視察したら、そんな感想になった。
「医療施設も充実していますよ? 心電計や人工呼吸器があります。家畜の扱いは大切にせよという方針なのでしょうか?」
「ゴブリンの心算がよくわからんッ!?」
むしろ設備的には充分冒険者の休憩場所としてピッタリなのかもしれないが、やはり葛藤の結果不採用になった。
お題目が悪すぎる!
というわけで召喚した人間家畜小屋は一旦引っ込めて次の検証に移ろうと思います。
【複合絆召喚術Lv65>絆1:ブラックロア(魔王)>絆2:スラッピィ(スライム)>召喚可能物:ウォータースライダー】
「なんだこれぇえええええええッ!?」
何やら水色の細長いものが、必要以上にウネウネうねって絡まり合っている!?
さらにその下には大きな水たまり!? 水色のウネウネの端が、その水たまりに向かって垂れさがっている。
「ウォータースライダーとは……、まさに水と関わりのあるスラッピィ隊長らしい建築物が出ましたね」
「キュピピピピピピッ!?」
知っているのかコレーヌ!?
「これは古代文明の遊戯施設です。あの滑り台に水が流れていますから、そのまま滑り落ちてスピードを体感するのです」
なるほどわからん。
こういう時は実際体感してみるに限る。コレーヌの案内で階段を上がり、ウォータースライダーの頂上に着く。
「ここから滑り落ちればいいんだな?」
「左様です。ではマスター、よい旅を」
と言って、傾斜になっている部分へ踏み出す。
ふぉおおおおおおおおおッ!?
滑るううううううううッ!?
速い! そして水の流れが気持ちいいいいいいいいッ!?
そして最後にバッシャーンと水たまりに突入!
「楽しかった!」
『キュピピピピピピピピピピピピピ~~ッ!!』
スラッピィも楽しげにチューブ状の滑り台を大滑走していた。
自分の絆が呼び出したものだけに水が合ったようだ。ウォーターだけに。
しかしこれは冒険者の休養場所としてはあまりに方向性が違いすぎるなあ。
楽しいけれど。
この深い水たまりにプカプカと浮かんでいるだけでも心地いい。
もう一回あの滑り台を楽しんでもいいかなと思う。
しかし、冒険者の休憩場所としては合ってない。
「……次の検証に移るか……」
名残惜しいが、絆召喚術を操作してウォータースライダーを引っ込めて、別の召喚の準備に移った。
【複合絆召喚術Lv65>絆1:ブラックロア(魔王)>絆2:ニャンフー(モットメディタイガー)>召喚可能物:猫カフェ】
これまたファンシーな空間だった。
室内に、猫が溢れている。
猫たちに囲まれて、至福のモフモフ空間が展開されるぅうううううッ!?
まあ、室内にはびこっている猫たちって、ニャンフーの部下のメディタイガーなんだけど。
「体積大きーい、獣臭ーい」
「喉を鳴らす音が十六気筒ですね」
一緒に毛玉に包まれるコレーヌがよくわからないことを言った。
さらにメディタイガーたちの長で、この毛玉空間を召喚する元となったニャンフーはというと……。
「おやつくれにゃー! おもちゃで遊んでにゃー!!」
トラたちと一緒になって猫カフェのスタッフとなっていた。
アイツは既に猫娘の姿なのに……。アイツに媚びられたら別の種類のお店になってしまう!?
……まあ、何にしろやっぱり冒険者の休憩所には不向きです。
癒され度は抜群だけども。
さらに……。
【複合絆召喚術Lv65>絆1:ブラックロア(魔王)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルヘイムウルフ)>召喚可能物:ドッグラン】
こちらもウルシーヴァの部下のヘルウルフたちが楽しいばかりだった。
ほーら、このフリスビーをとってこーい。
……俺も癒されたがね。
◆
さて……ここまで検証してみたところで、冒険者たちの未踏位領域活動拠点に使えそうな施設は何一つ見つからなかった。
楽しいものは多かったが。
「残りの検証は……二つか」
こないだ契約を結んだばかりの妖精ピクシーと、コレーヌ。
コレーヌはなー。
そもそも彼女の絆で呼び出せるものがとんでもないものばかりなので、とんでもない魔王さんとの絆を掛け合わせたら、なおさらとんでもないものしか出てこないんじゃって不安になるのさ。
だから後回しにした。
しかし、もう一つの残り物にもヤベー気配しか感じ取れない。
一体何が出てくるんだろうなぁ……!?
恐々としながらも、絆召喚術のコンソールを開けてみた。
【複合絆召喚術Lv65>絆1:ブラックロア(魔王)>絆2:ピクシー(妖精)>召喚可能物:夢の場所】
ほーらなんかやたらヤバそうなのが出てきた。
なんと言うか正気を保ち続ける意味で。
ピクシーの絆と掛け合わされて実体化した建築物は、なんだか原色ばかりのアバンギャルドな色合いで、チカチカした光を放っている。
しかもこれまで召喚した建築系のどれよりも広大だった。
「またヤバいものが出てきましたね? 妖精の召喚因子はヤバいものしか含まれないのでしょうか?」
コレーヌが呆れ顔で言う。
彼女に心当たりがあるということは、また古代文明のゆかりのあるものか?
……まあ、それ以外にないのだろうが。
「まあ、出てきたものは仕方ありませんし、せっかくだから楽しみますか。マスター、あの『法皇のエメラルドスプラッシュマウンテン』に乗りませんか?」
「あ、ああ……!?」
この魔王&妖精のかけ合わせで呼び出された不思議空間の勝手もわからないので、とりあえずコレーヌの勧めるままに何かに乗った。
楽しかったけれど相変わらず何一つ進展しないままだった。
これで残る検証はあと一つ。
コレーヌとの複合絆召喚を試してみると、出てきたのは……!?
【複合絆召喚術Lv65>絆1:ブラックロア(魔王)>絆2:コレーヌ(オートマタ)>召喚可能物:強化外装タイプ:ルシファー】
「申し訳ありませんマスター。私の召喚因子の方が強すぎたようで……!?」
でもなんか凄いのが出てきたよね?
とはいえ、冒険者の休憩施設には掠りもしないものだったので、結局は一から拵えることで合意した。
ゴブリーナがハッスルしてチェーンソーで木々を薙ぎ倒していった。




