51 休憩所を作ろう
未踏破領域内における活動拠点は、冒険者にとって重要な意味を持つ。
今まで誰も踏み込んだことのない危険溢れる場所で、無防備に休める場所なんてありえない。
常に気を張り続け、進んだ分だけ戻って無事帰還する計画を頭の中で組んでいなければならない。
しかしそんな危険な領域の途中に、休憩できるポイントがあったらどんなに助かることだろう。
四方を硬い壁に囲まれて、敵の強襲を警戒せずに済む。
それでいて充分な資材が蓄えられ、水食糧、さらに様々な消耗品もそこで補給できる。
そんな中間ポイントがあれば、未踏破領域の探索もやりやすくなる格段に。
冒険者の間では、そうした中間ポイントの有効性は随分昔から認知されており、未踏破領域の探索は、まず進むだけ進んだところでの中間ポイント設営が基本となっていた。
中間ポイント。
あるいはベースキャンプ、休憩所、前線基地などとも呼ばれる。
俺もかつてはギルドからの依頼などで他の場所での設営に関わったことがるし、やろうと思えばできないこともない。
そんな中間ポイントもしくは冒険拠点を『イデオニール大樹海』の奥深くに作る。
それがS級冒険者に昇格できる一番確実な方法だよ、とオッサンから言われた。
◆
「というわけで、ここに冒険者の拠点を作ろうと思います」
大樹海の中にある拠点に戻った俺は、仲間たちにそう告げた。
「それってつまり、ここにダンナ以外の人間を呼び込むってことかよ?」
真っ先に口を挟んだのがゴブリーナ。
最近ではうちのチームでもっとも理知的。
「知らない人がたくさん来るのは嫌かな?」
「むしろダンナがそういうの嫌がると思ってたから意外に思っただけさ」
たしかにそうかも。
俺自身、実家や騎士学校での経験もあってあんまり交流を快く思わないところがあった。
対人恐怖症気味であったと思う。
しかし、いつまでも社交を恐れては人としてどうかと思うし、それに騎士学校を去って以降、新しい人たちとの出会いにぬくもりを感じさせてもらえることが多々あった。
それは絆召喚獣として契約した仲間たちもそうだし、ギルドで出会った気さくな冒険者たちもそうだし。
何より、エクサーガ兄さんのこともある。
自分の出世も投げ打って俺のことを探しにきてくれた。家にいた頃はそこまで思いやってもらえていたとは知らなかった。
これ以上エクサーガ兄さんに心配をかけないためにも、俺もしっかり自立しなければ!
そして誰からも侮られない立派な人間にならないと!
……と思うようになったんです。
「そのためにもS級冒険者の称号は欲しいし、人付き合いが苦手だなんて甘えてられないしね。そのためにも拠点の開放は必要だと思った」
「当然です。マスターは頂点に立って称えられるべき御方なのです!!」
コレーヌ。
話がややこしくなるから今は静かにね?
「まあ、そういうことならオレらに異論はないぜ? そもそも使い魔のオレらはいつだってダンナの決定に従うだけさ」
『キュピピピピピピピピッ!』
スラッピィも同意らしかった。
でも使い魔というのは違うからね? キミらは大事な仲間だからね?
では仲間たちの同意も得られたところで、本格的に冒険基地づくりを始めていこうと思う。
これが上手いこといってギルドに認められた日には、俺も晴れてS級冒険者の仲間入りだ!
「冒険者ってもっと派手なことしてランク上げていくものと思った」
「どこの世界でも、実際は空想より地味なんですよ」
しかし未踏探索域での拠点づくりは物凄く重要なお仕事なんです。
高評価に値するんです。
地味だけどね。
……ってギルドのオッサンが言ってた。
「で、どういうことしていけばいいんだよ?」
「そりゃもちろん、冒険者たちを迎え入れる準備に奔走するんだよ。まず必要なのは……家だな」
先ほども言ったが、中間ポイントは様々な呼び方がある。
ベースキャンプ、休憩所、前線基地など。
呼び分けの基準は、規模だ。
ベースキャンプは、もっとも簡易的な中間ポイントで精々テントを張った程度。
その分設営も撤収も容易だが、だからこそS級を目指す作業としてはあまりにお粗末だ。
休憩所は、もっとしっかりした建築物をで充分な休養を取れるようにした施設。
それでもログハウスや横穴とかごくごく簡単な作りの建物になるが。
俺が今、樹海の丘の上に建てたものが、まさに休憩所程度の規模。
さらにその上の規模になると複数の建物を柵などで囲い、食料や資材を充分に蓄積した前線基地になる。
防衛力も充分で、完全に安心して休める寝床、商店まであって補給だけでなく装備の充実までできる。
……と、そんな前線基地クラスの中間ポイントを作れれば最高なんだろうが、さすがに最初からそこまで理想高くやったら疲れるだろう。
まずは簡単に、一軒家のみの休憩所から目指していくか。
「じゃあ、またログハウス建てるんだな? ダンナの家建てたのと同じように? 腕が鳴るぜ……!!」
何故かゴブリーナがウズウズしだす。
そういや俺は住むよう家を建てる際、材木を伐り出したのも建築の手伝いをしたのも主にアイツだったからな。
……性に合ってしまったか。
「お待ちくださいマスター」
そこへまたコレーヌが。
「この建築事業は、マスターがS級となるための礎。半端なものは築けません」
「あぁ? オレの作ったモンがハンパだって言うのかよ!?」
ゴブリーナさん落ち着いて!
きっと言葉の綾です!
「それにマスターはそもそも、一から何かを建築する必要はないではありませんか。新たに得た絆で召喚すればいいのです」
コレーヌに指摘されて思い出した。
そうかあれか。
魔王さん、絆を使わせてもらいます。
【絆召喚術Lv65>絆:ブラックロア(魔王)>召喚可能物:摩天楼】
出た出た。
天をも貫かんほどに高く聳え立った建築物。
摩天楼だ!
なんかそういう呼び名らしいけれど。
こないだお知り合いになった魔王ブラックロアさんと絆召喚の契約を交わして、それで呼び出せるようになったのがこの巨大な建物だった。
「いつ見ても凄いな……!?」
首をいっぱいいっぱいまで上にあげても頂点が見通せない。
俺の住む世界の元々の建築物じゃ、どんなに高いものでもこの三分の一にも達しない。
これも異世界から呼び出した『この世ならざるもの』だという充分な証拠だろう。
「たしかにこの建物なら、冒険者千人だって寝泊りできそうだな」
「威容も充分です。これを見たものは超高層ビルディングに圧倒され、マスターへの畏敬を深めることでしょう」
「俺への!?」
「このビルの創造主にしてオーナーは、マスターです」
そうかもだけれどもさ。
「でもさあ……、これ、本当に住居として使えるの?」
ゴブリーナの指摘で誰もがハタと興奮から醒めた。
「一目見た時から思ったけどさ。これ人が住むには大仰過ぎねえ? しかも上に行くほど大変だぜ? 登って降りるのにどれくらいかかるんだよ?」
たしかに。
あまりにもこの世界の建築常識とかけ離れすぎて、中に入っても落ち着かないかも。
冒険者は新手のダンジョンだと誤認してしまうんじゃないか?
「それに、こんなバカ高いものを近くに建てられたら、またオレたちの棲み処が日陰になっちまうぜ。前にもそんな話したのにまた繰り返すのかよ?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!?」
というわけで摩天楼の休憩所化は不採用となった。
大仰過ぎるということで。
「いけませんね……! ファーストインプレッションで度肝を抜かせ、マスターへの畏敬を持たせる計画が、このままでは台無しです……!」
だからなんでそんなに俺を持ち上げようとするの?
まあ、召喚物で寝床を確保できないからには、やっぱり地道に一からビルド&クラフトだね。
「いいえまだです! マスターの絆召喚術はまだまだ奥深いのですから! ここで敗れは致しません!」
コレーヌ。
なんか悪役のセリフになっちゃってるよ?




