50 続・S級獲得計画
……ってな感じで騎士学校が手を回してきたんだろうなあ。
俺の想像は、ほぼ事実と同じであろうと確信。
「……売られたケンカは買う主義です」
そしてコレーヌが物騒なことを言うので抑えるのが大変だ。
さもなければ今にもゴーレムになって王都へ飛来し、騎士学校とその周辺を瞬く間に焦土と変えること請け合い。
「待ってコレーヌ! ひとまず落ち着こう! 俺は別に冒険者等級なんて気にしないから!!」
大樹海で採取した素材を、時折円満に買い取ってもらえたらそれだけでいいんだってば!
「我がマスターを侮辱する者を一人残らず掃討しなければ、従者たるわたくしの存在価値はありません。お許しをマスター。我らの敵を灰一粒残さず現世から抹消することをお許しを」
「許しませんよ!?」
だから怖いことを言うな!?
普段は物静かなコレーヌであるものの、怒らせれば怖いということはゴーレム強化外装をまとった姿を回想すれば考えるまでもない。
しかし俺に関することでここまで起こるのは予想外だが。
「そこのアナタもですよ!」
俺が頑なに制止するためか、コレーヌの怒りの矛先がギルド職員のオッサンに向いた。
「部外者からの口出しで、自分たちの方針を捻じ曲げられた……。そんなことをされて怒りはないのですか? プライドを傷つけられたと思わないのですか!?」
「とんでもなくムカついてるよ……!」
ギルド職員のオッサン、それこそ苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「お嬢ちゃんの言う通りプライドだってズタズタよ。俺たち冒険者はな、お上なんかに頼らず自分たちの腕っぷし一つで戦い抜いてきた自負がある。……それをお貴族様なんぞが権力振り回して土足で踏み荒らしてきたんだぜ。イラつくに決まってるよなあ……!?」
「お、落ち着いて……!? オッサンも落ち着いて……!?」
若かりし日は前線でバリバリ活躍する冒険者だったというオッサン。
そのスピリッツは引退した今なお燻り続けて、何かきっかけでもあれば劫火へと盛り戻りかねん。
「だったらアナタとて、売られたケンカは買うべきでは?」
「オレぁ、ケンカについては買い専だが、いつでも言い値で買ってきたぜ」
「ならば話は早い。今回も言い値で買いましょう。そして倍返しです」
二人の会話がドンドン危険なものになっていく……!?
何がここまで彼女らのケンカ魂に火をつけるのか?
「このケンカの勝利条件は、マスターをA級冒険者にして差し上げることです。騎士学校なる者たちがいかなる妨害をしてこようと、彼らの意思など一切かかわらない形でマスターにはA級冒険者になっていただきます。なんならS級でもかまいません」
「元々S級って話も出てきてたしな。お嬢ちゃんの案は非常にいいじゃねえか。それならとびっきりいい方法があるぜ」
「何です、もったいぶっていないでさっさと教えなさい」
オッサン、コレーヌに感化されて悪くなってない?
「功績を立てればいいのさ。試験なんて所詮仮のもの、実戦とはまったく違うごっこ遊びに過ぎねえ。そんなのを根拠に昇格を提案したからこそ、貴族の横やり程度で簡単に蹴られちまったのさ」
「だったらなんで、そんな愚かな手段をとったのです?」
「いや……! 手軽って点では一理あるかなと……!?」
まあ、俺たちも一日ぐらいしか街に滞在しないし、そんな短い間で昇格を判断するって言うなら手軽に試験でもするのが一番だし。
色々あるのよ。
「だからこそ今回は、誰にも文句を言わせないほどしっかりとした、確固たる根拠で昇格を主張すればいいのよ」
「それが実績ですね?」
冒険者は、プロフェッショナルなので常に結果でしか評価されない。
だからこそある意味当然というべき提案であったが。
S級……もしくはA級昇格に値する手柄って言ったら、どんなのがあるかな?
単騎によるドラゴン討伐? 魔王覆滅?
それやったら間違いなく確実にS級行くだろうな。
「こないだ来た魔王を呼びましょう。そしてマスターに倒されてもらうのです」
「誰かの犠牲を平然と求めないで!」
ホント『いいこと思いついた』程度の軽さで言うなあ。
「そういえば以前倒した吸血鬼のことを報告すれば、どの程度の手柄になりますでしょう?」
「魔王? 吸血鬼? 何の話?」
オッサンが戸惑うのを放置して話を進める。
たしかに吸血鬼をブッ倒した実績があればB級昇格ぐらいは確実、ワンチャンでA級も行けそうだが、今回に関しては多分無理。
だって吸血鬼を倒したこと自体が、もう随分前のことだし何より倒したという実証がないんだもんよ。
塵も残さず消滅してしまったからな。
目撃者もいない。
「魔王を連れてきて証言してもらえばよいのでは? あの人のいい魔王ならそれくらい引き受けるでしょう?」
「魔王さん人柄につけこんでいいように使おうとするのやめて!」
それに、そのアイデアにはそこはかとない本末転倒感がある。
「……ま、まあお前らが大樹海の奥でとんでもない目に遭っているということはわかった。大体予想通りだがよ……!?」
オッサン、額に浮かんだ汗をフキフキし……。
「大樹海って、奥に行くほどやっぱり魔境なんだろうな。そこで起きたこと自体をいちいち掻い摘んでいったら労せずS級になるんだろうよ。でもな、オレはもっと根本的な事案でお前をS級にしてやりたい」
A級を素っ飛ばして?
そんな大手柄が身近なところで何かあったっけ?
「『イデオニール大樹海』だよ」
ん?
それは俺たちが今根城にしている秘境のことでは?
「ああ、察しが悪いなあ忘れてないか?『イデオニール大樹海』は、いまだ人類が太刀打ちできない異境の一つだぞ? 人類が安全を確保しながら踏み込める領域なんて、ほんの入り口程度のもんだ」
はいはい。
たしかに大樹海は、いまだ全領域の踏破もされておらず、むしろほとんど未開で満足な調査もされていない。
樹海の最奥には、いまだ人類が目にしたこともない大怪物が潜んでいるとか何とか。
その点で言えばゴーレムもまさに、樹海の誰も見たこともない大怪物だが。
「要するに、謎だらけの『イデオニール大樹海』に少しでも食い込み、道を切り拓いて前進することができれば、それだけで大手柄ってことさ」
「どこかで聞いた話だねえ……」
なーんて惚けてみても、わかっているよ。
俺がまさにその大偉業を達成しているってことでしょう現在進行形で!?
絆召喚術を究めるのが楽しくてついつい奥の方まで行きすぎてしまったんだよなあ。
恐らく大分奥の方。
未踏領域を超えてからかなり進んだところ。
どれほどの記録更新となっているのか。
「お前さんは大樹海の奥で何をしているかあんまり触れられたくないようだから今までスルーしていたが、こうなったらそれを最大限押し出していくしかないぜ! 大樹海の探索範囲が更新されたら大ニュースだ! 世界全土に広まるだろうし王様の耳にも入るだろう!」
そうなったら、たとえ騎士学校でも口出しできない妨害できない。
たしかに嫌な相手にぐうの音も出ないほどの一撃を加えられる最良手段だ。
ただ俺の平穏が無事では済まなそうだからな……。
「……やっぱりダメか? 昇格に値するだけの功績はいくつかあるが、災害級モンスターの討伐を除けば未踏領域の更新がもっともオーソドックスなんだ。実際にどこかのダンジョンを最深部まで制覇したり、海を渡って新しい島を発見したりとかした冒険者にS級を与えられた例もある」
オッサンが気遣うように言う。
「『イデオニール大樹海』の場合は、いまだ最果てが明らかになっていない秘境中の秘境だから制覇できなくても更新するだけでも昇格対象の功績になる」
「A級になれるくらいに?」
「うむ……、そうだな。昇格の程度はどれくらい更新できたかによるが、新情報を持ち帰れるくらいに未踏領域を進んだんならA級は確実だな。S級まで行けるかとなると不安なところだが……!?」
しかしA級が確実となればやる価値はあるか。
俺が拠点にしている地域を調査して、まとめたデータを提出ぐらいしてもいい。そういう作業好きなんだよ案外。
「いけません」
そこでコレーヌからの横入が!?
どういうこと!? 樹海奥地にある俺たちの領域をみだりに晒したくないってこと!?
「我がマスターは最高の御方です。ならばマスターに相応しい称号もまた最高でなければいけません。つまりS級でなければならないのです」
「不満そっち!?」
「先ほどそちらの老いた方がおっしゃられていましたが、更新範囲を報告するだけでは精々確定するのはA級まででしょう? S級までとなるとわからない……ですよね?」
『老いた方』というのは、オッサンのこと?
「今後二度とつまらぬ者につまらぬことを言われないためにも、マスターにはここで一気にS級まで上がっていただきたいのです。そのために絶対S級と認められるような確定超絶的成果を叩きつけましょう!」
「気合たっぷりっすね」
でも具体的にどんなのが確定超絶的成果なんでしょう?
S級といえば、全冒険者の頂点に立つ存在。それに相応しいと誰もが認める成果と言ったら一体どれほどのものになるのだろう?
「どうなのオッサン?」
「知恵を出しなさいオッサン?」
俺たち二人して年配のオッサンのお知恵に縋る。
オッサンは釈然としない表情を作りながら……。
「そうだな……S級確定となると相当な大手柄になるぜ? それこそ大樹海の攻略事情を一変させてしまうような……」
そして、また一考して……。
「……そうだな、大樹海の中に拠点でもあれば凄いことになるんじゃないか? まあそんなもの作れるわけないけどなー」
「あるよ」
「えッ?」




