04 絆召喚術の検証
俺に絆召喚術のことを教えてくれた吟遊詩人は、以下のようなことをほざいていた。
――「普通の召喚術は、精霊とか幻獣、悪魔とかを呼び出すものです」
――「絆召喚術も名前通り召喚術に類する術式ですが、通常と大きく違うのは召喚する対象」
――「霊的な生物ではなく……モノを召喚するのです。無機質の物体をね」
――「もちろんただの物質ではない」
――「この世界には本来ありえないモノ。失われた世界からやってくるモノ」
――「それをこの世界に呼び出せる唯一の手段が絆召喚術。……その本格的な教授の前に、一曲歌わせていただきましょう」
なんで?
唐突に吟遊詩人設定を挟み込んでくるな。
◆
回想終了。
多少、癖の強い気まぐれ吟遊詩人ではあったが、術の伝授自体はしっかりとしてくれた。
この世界にはない物質を呼び出すという謎の術式、絆召喚術。
何が召喚されるか、ワクワクしないと言えばウソになる。
『この世界にはない』物質だからなあ、未知の鉱物だったり、異様な属性を帯びた魔力物質だったりしたらどうする!?
それを素材に剣とか魔道具とか作ったら偉いことになるかも!?
吟遊詩人はさらにこうも言っていた。
◆
――「この世界にないもの……つまり異世界の物質を召喚するのだから、そう簡単にはいきません」
――「何しろここにはない、伝承すらないものだから、こっちに引っ張ってくるヨスガが何もない。これだとさすがにどうにもならない」
――「絆召喚術を開発した古代術者は考えたのでしょう。あるいは偶然発見したのか。この世にあり得ないモノを呼び出すヨスガになりえるもの……」
――「それを明かす前にもう一曲……」
◆
回想終了!
要するに、この世ならざる存在……モンスターとの絆をよりどころにして、この世界にない物質を召喚する魔法。
それが絆召喚術だった!
まあ、説明ばかりじゃわかりづらいので実際やってみよう。
たった今結んだばかりのスライムとの絆を拠りどころに……。
「絆召喚術スタートだ!」
『キュピピピピピピッ!!』
スライムもやる気だ。
お前の力を貸してくれ、そして召喚を成功させてくれ……!
「絆召喚!!」
魔力を発動させ、術式通りに流し出す。
すると目の前に、なんか文字が浮かんで……。
【ペットボトル(水)】
という表示が虚空に浮かんだ。
「……ぺっとぼとる・かっこみず?」
どういうことか?
水はわかるが、それ以外の単語がどれ一つとしてわからない。
虚空の文字は魔術に伴うコンソールだろうが。
全体の表示はこんな感じだ。
【絆召喚術Lv1>絆:スライム>召喚可能物:ペットボトル(水)】
【召喚しますか? YES/NO】
「い……YES?」
すると魔法発動。
虚空から現れる、何か透明なもの。
なんだ!?
慌ててキャッチすると、それは何やら筒のようなものなんだが先端がすぼまっている。
全体が透明で向こうの景色が透けて見て水晶のようであった。
「これがペットボトル……?」
この世界にないものが召喚されるという絆召喚術だが、たしかに見たこともないものだった。
手触りも今までさわったこともない感じ。
『キュピピ! キュピピピピピピピッ!!』
「ん? どうした?」
傍らでスライムが鳴り響いている。
何か伝えたいことがあるようだ。
「え? この先端の部分を握って? 回す?」
『キュピピピッ!』
スライムの指示に従うと、ギリギリッという手応えと共にボトルの先端が回った!?
クルクル回して……取れた!?
「まさかこれは蓋だったのか!? 蓋が開いて中身が……水だァアアアッ!?」
【ペットボトル(水)】ってこういうことだったのか!?
恐らく、この水を入れている透明の入れ物がペットボトル!?
たしかにこれは、今まで見たこともないこの世界にはないものだ。
「水は有り触れているけど……!?」
しかし、この水も今まで見たこともないほど透明で綺麗だ。
試しに飲んでみた。
美味い!
しかも冷たい!
『キュピピピピピピピピピピピッ!』
「キミも欲しいのか? よしよしよし……!」
キミのお陰で召喚できたものなんだから分け与えるのは当然。
ボトルを傾けジョボボボボ……と流す。
『キュピィイイイイイイイイッッ!!』
そのゼリー状の体に水を吸収し、打ち震えるほどに嬉しそうなスライムだった。
いやしかし水は、実に助かるな。
人間何をするにしても水が必要不可欠だし、というか水がないと生きられない。
クエスト中も水の確保が何より大切だし、見知らぬ土地に来たらまず水源の位置確認。水筒は常に必ず携帯し、手持ちの水が尽きたらクエスト断念も選択肢に入りうる。
しかし今の俺には、そうした心配が一切ないのだ!
スライムと契約した今の俺は、魔力の続く限り水を召喚できるのだから!
色々試してみたが、スライムとの絆で召喚できた水は、飲んでもまったく問題ない綺麗な真水だった。
煮炊きにも使えるし、体を洗うこともできる。
冒険中、水の心配をしなくていいのは有り難すぎる!
……で水を飲みほしたあとのペットボトルは……消えるのか。
この回して開ける蓋は、逆方向に回すとまた締められるし、ボトル自体も丈夫そうだから勿体ないな。
でもまた召喚しようと思えば何本でも取り出せるからいいのか。
◆
しかし、これで絆召喚術の成果はバッチリ確認できたぞ。
召喚できた【ペットボトル(水)】は地味だけど凄く役立つものだし、他のモンスターと契約して絆召喚できる種類を増やせば、もっと派手なものも呼び出せるかもしれない。
目的は、絆召喚術の検証および使いこなせるようになるための訓練。
そのために『イデオニール大樹海』へとやってきたんだからしっかり経験を積まなければな。
「そのためにも色んなモンスターと戦うぞ!」
『キュピ!』
スライムを連れて、大樹海の奥へ奥へと突き進むのだった。
絆召喚術をさらなる磨き上げるために『イデオニール大樹海』は格好の実験場。
何しろ多くの種類のモンスターが断続おかずに襲ってくるので。
普通ならば敵が多すぎて危険というべき最難関だが、俺にとっては都合がよかった。
「敵が多いってことは、それだけ経験値ガッポガッポってことだー!」
『キュピピピピピピピピッッ!』
契約したスライムも一緒に戦ってくれる。
元から一人で戦うつもりだったが、期せずして共闘者ができたお陰でかなり戦いやすかった。
一人で戦えばどうしても死角を作ってしまい、そこから狙われたらどうにもならない。
スライムは、そんな俺の死角を的確にカバーして威嚇したり防御したりと、俺への感知外からの攻撃を的確にシャットアウトしてくれた。
お陰でまあ戦い易いのなんの。
視界の外にまで注意を向けるのは想像以上に消耗する。体力も精神力も。
しかしそれらをスライムに任せることで俺は目の前にだけ集中することができ、狙ったモンスターを一体一体着実に仕留めることができた。
「出会ったばかりだというのに、俺たちまるで名コンビだぜ!」
『キュピピピピピピッ!!』
話は通じないが、思っていることはちゃんと伝わっているような気がする。
これも絆召喚術の効果なのだろうか。
乱戦してかなり多くのモンスターを倒したので、その中から新しい絆を結んで契約しようとしたが……。
……コンソールにアラートが浮かぶ。
【絆召喚術レベルが足りません。現在のレベルでは一体までしか契約できません】
と。
「何だと!?」
『キュピピィ!?』
スライムも驚く。
どうやら絆召喚術で様々なことを行うためにはレベル上げが必要のようだ。
今日、絆召喚術を試し始めたばかりの俺だから、当然ながら絆召喚術レベルは<1>。
ここからさらにレベルを上げていかなければほとんど何もできない。
「ならば……やることは決まりだな?」
『キュピピィ……?』
俺とスライムの間で不敵な視線が交わる。
スライムのどこから視線が送られるのかわからんけれど。
「樹海でモンスターと戦いまくって経験値を稼ぐんだッ! レッツ、レベリング!」
『キュピピピピッ!』