48 合否発表
『……ということがあったのさ』
「マジかよ」
グループ魂を持つという妖精からの報告を受け俺、数奇なエクサーガ兄さんに想い馳せざるをえぬ!
王女専属のナイトになっちゃったよあの人……!?
元々それだけの能力は持った人ではあるが、今年正式に騎士叙任されたばかりのペーペーで王族の直接警護を任されるとか異例の出世!
最年少騎士団長となったゼクトウォリス兄さんとはまた別ルートでの出世街道大驀進であった。
「まあ、報われてしかるべき人だからな」
一時は俺なんぞのために中央から外れ、辺境勤務となって出世は絶望視されていたのに……。
ああいう人徳のある人はどこかで報われるように世の中できてるってことか。
いいことだ。
『だからー、これからしばらくご主人様の所へ遊びに行けないからゴメンってー。あのヤなヤツ王子の目もあるしー』
と、王城に連れていかれた分身(?)からの情報を距離を超えて伝えてくる妖精。
コイツら魂を共有しているので、同種族の別個体一人一人が自分自身らしいよ。
魂を共有して別個体の経験をそのまま自分の記憶にできる。
だから遠く離れたことも一瞬で知りえるし、こっちのことも距離を超えて一瞬にして伝わる。
……何気に究極の通信手段じゃないの、コレ?
『でねー、お兄さんからの伝言でー、……あ! そうメロン美味しかった! メロンメロン! 種がピピューって! そして中ほど美味しい! お兄さんが心配するなって言うけどお姫様が可愛いからなんつって、ちゃんつってー』
「ノイズが多い!?」
最強の通信手段かと思われたが、信頼性に難ありだった。
まあ、エクサーガ兄さんは現状のままでよかろう。
王城へ連れ去られたのはマシュハーダ王子の謀であろうが、そんなもので思い通りにされてしまうことはない、ウチの次兄は有能だから。
むしろエクサーガ兄さんの出世の道を切り拓いてくれて王子様ありがとう、そして俺のことは永遠に放っといてくれ。
「そう言えば王子もちゃんと王都に帰ったのかな? その辺詳しく兄さんに聞いてくんない?」
『うんとねー、お鍋のノリがラテン系だってー』
ダメだまったく違う変なところから受信している。
これは真相をたしかめるためにも、実際街に行って調べてみる他あるまい。
「それは……危険ではありませんか?」
街に行きたいと相談するとコレーヌから難色を示された。
「マスターはその王子とやらに会いたくないのでしょう? でしたらソレがいるかもしれないエリアにわざわざ出向き、万が一にも鉢合わせしてしまったらすべてが台無しでは?」
コレーヌの危惧ももっともだが、だからと言ってこのままずっと街に行かないというのもな。
エクサーガ兄さんの工作が上手く行ったことはたしかだし、ならば王子本人も引き上げた可能性は非常に高い。
よしんばまだいたとしても、見つからないように身を隠していれば目に留まることなんてまああるまい。
辺境ではあっても街は街。人はたくさんいるんだから。
「それに、前に街に行ってから時間経ってるしな。また訪ねるようには言われてるんだ冒険者ギルドから」
「そういえば時間を置けば結果が出るのでしたね。マスターの冒険者等級の昇格」
「うう……ッ!?」
たしかにそうなんだ。
前に冒険者ギルドを訪ねた時、なし崩し的に等級昇格試験を受けてなあ。
結果的にA級に上がる許可は得たんだが、しかしそれはまだ現場の判断。
A級ぐらい上のランクになると、各ギルド支部の単独判断では正式な決定が下せず、中央に申し送りしなければならないという。
そうして送って、返ってくるのに時間がかかる。
そろそろ返ってくる、という頃合いだった。
「我がマスターは最優ですので必ずやA級に昇格していることでしょう。となれば一刻も早く朗報を受け取らねばなりませんね。早速飛びましょう!」
「ちょっと、ちょっとちょっとッ!?」
行くとなったらいきなり性急なコレーヌに、むしろ俺の方が引きずられて再び街へと赴くことに。
何とかスラッピィたちに留守を任せて、飛行ゴーレムを召喚したコレーヌにしがみついて天翔けるのであった。
◆
そして着いた。
冒険者ギルドへ行くといつも通り職員のオッサンが温かく出迎えてくれる。
「おうイディールやっと来たか! もっと早く来やがれって言っただろうによ!」
「そうだっけ?」
仮にそうだったとしても、王子が居座っている街に気軽に来れたりは無理だしなあ。
そのことを心得ているのかオッサンは苦笑を浮かべて……。
「お前の兄さんから伝言は受け取ってるぜ。王都に行かなきゃなんなくなったって。王子様と一緒によ。まったくいい迷惑だよな王様一家ってのはよ」
「それ不敬罪ですよ」
あんまり人の多いところで迂闊に口滑らせちゃいかんですよ。
特にご本人がその辺うろついてるかもしれんならなおさら。
「安心しな。王子様は無事お帰りになられたよ。取り巻きどもも一緒にな」
「確認できてるんですか?」
「もちろん、お前の兄さんが去り際念入りに確認していったよ。王子様っつっても所詮学生だから好きなように使える手駒がクラスメイトの学生しかいないようなんよ」
折り目正しいエリートだからな騎士学校の生徒は。
さすがに学業を疎かにしてまで辺境街に残してはおけんか。いかに王子様の我がままでも。
「それなら安心した。兄さんは本当に俺の憂いを全部一緒に連れて行ってくれたんだな」
エクサーガ兄さんが帰京したことは妖精通信で伝わっているためそこまで驚きはしなかったが、ここまで俺のためにしてくれたとはな。
本当に頭が下がる。
エクサーガ兄さんには世話になりっぱなしだぜ。
「というかオッサン、ウチの次兄と面識あったんだな。そっちの方にビックリした」
「本格的に話をしたのかこっちに来てからだが……。若いのによくできたお兄さんじゃねえか。話を聞いてたらお前の親族ってクズばっかりだと思ってたんだが……」
「あの兄さんはいい人だよ。俺の自慢の兄さ」
本当に。
俺には過ぎた親類だ。
「そんなことより」
俺の小さな感動を『そんなこと』で片づけないでくれる?
コレーヌが俺を押しのけズイとオッサンに詰め寄る。
「わたくしたちは聞きたいことがあって訪ねてきたんですが、いつまで世間話に呆けているのです? アナタは我がマスターに報告することがあるのではありませんか?」
「ああ、わかってる……わかってるって……!? 一応今までのことも必要な連絡事項だったんだがな……!?」
まったくその通りですよコレーヌ。
オッサンは大事なことを漏れなく俺に教えてくれようとしているんですから。報連相をしっかり実行してるんですよ。
「今こそマスターは、晴れて上級冒険者として世界中に勇名を轟かせるのです。マスターほど御方が有象無象に交じったままなどありえません」
「イディールよぅ。お前厄介な女に惚れられたなあ……!?」
いや、惚れたとかそういうんじゃなくて……!
……そういやオッサンはコレーヌのことどう認識してるんだろう。
前回今回と、俺と連れ添って来訪したのは気づいているんだろうが……あえて触れない。
これが大人の気遣い力か?
「とにかくそっちに話題を移してくれないオッサン? これ以上引き伸ばすとコレーヌの忍耐の限界が撤廃」
「まあ、マスターがA級冒険者になれるのは確定ですから、あとはS級になれるか否かですね? 煩わしいことなく一気にS級昇格でもいいのですよ?」
コレーヌは自信たっぷりだが、それに対してオッサンの態度は何故かモジモジして……。
「……落ち着いて聞いてくれよ?」
「?」
「イディールのA級昇格は、棄却された」
……。
あッ、コレーヌ待って!
こんなところでゴーレム強化外装を召喚しないで! 大惨事になるから!
「なんでです! 前回のドタバタでマスターのA級昇格は確実と言っていたではないですか!? 未確定のS級だけならともかく、なんで確定案件までやすやすと覆るのです!?」
「コレーヌ! そんな我がことのように怒らなくても……!?」
「いいえ、マスターに関わることはすべて、わたくし自身の問題です! マスターはわたくしのすべてなのですから!!」
こんな公共の場で、あらぬことを口走らないで!
「いや、お嬢ちゃんの言う通りだ。今回ギルド側の我々の力がまったく足りず、イディールを不当な立場に追い込んでしまった。申し訳ない」
「オッサン……!?」
そんな心から申し訳なさそうに頭を下げないで……。
「もしや、勘付かれてはいけない人たちに勘付かれてしまいましたか?」
「さすがに察しが早いな。……そういうことだ」
やはり。
S級はともかくA級までの昇格はギルド内でも決定事項になっていたからな。
それを覆せるとすれば、それ相応の権力の持ち主でなければならないってことだ。
「一体何なのです? わたくしは誰を駆逐すればいいのでしょう?」
駆逐しないで。
俺が冒険者として大成したとして、それが面白くなく、実際に邪魔を入れられる存在があるとしたら、まあ心当たりは一つだけ。
王立騎士学校。
こうして見ると俺って案外敵が多いんだなって気がしてきた。




