46 焼き立てパンの猛威と妖精帰還
「うんめええええええええッ!? 焼き立てのパンうめええええええええええッッ!?」
何も付けていないのにガンガン口に入っていく!?
熱い! 柔らかい! モッチモチ!
……あ、状況説明が遅れました。
ただ今焼き上がったばかりのパンを試食しているところです。
とにかく美味い!?
今起きたことを伝え忘れるほどに美味い!!
「最初はバターもジャムも付けないパンとか味がしないで食えたもんじゃねえだろと思ったけれど! パン生地の味だけで充分満足ううううううッ!?」
何なのこのパン!?
今まで俺が食べてきたカッチカチのパンとは全く別物!?
中は白くて、ふんわりモチモチしている!?
「イーストで発酵させた分の柔らかみがあるのですよ。あと焼きたてであるのもポジティブに働いていますね」
と言いつつ自分もパンを齧って舌鼓を打っていた。
オートマタも食事できたんだ。
「わたくしの口内には約一万の味覚センサーが搭載されているのですよ。ハッキリ言って無駄機能ですが」
「言うなよぉ!」
「たしかに、このパンは予想以上の出来栄えになりました。やはりマスターが召喚された小麦粉の品質がよかったのでしょうね」
「な、なるほど……!?」
ということは、このパンの美味さは俺の手柄でもあるというわけだな?
そう思うとなんか誇らしいぜ……!
パンを焼くための窯作りから始まって、何かと手間暇かかった今回の試み。
コレーヌが情報を引き出し、ゴブリーナが諸作業を進めて、スラッピィや俺も手伝った。
改めて、俺たちのチームの役割分担が明確になって、それを確認できたのも益あることだったな。
そして我がチームのさらなる一員、オオカミ乙女のウルシーヴァと虎娘ニャンフ-も……。
「うめにゃ! うめにゃうめにゃうめにゃッ!!」
「おいこらクソ猫! 少しは慎まんか! せっかく主様がご用意くださった食事をもっとゆっくり味わって食え!」
「自然界では先に食ったもん勝ちにゃ! モタモタして美味しい餌を横取りされるヤツが悪いんにゃあああああッッ!!」
「なんだとぉ! だったら私もひたすら喰う!!」
……。
アイツらは食す担当かな?
役割分担ができているなあ!!
「アイツらにはドッグフードとキャットフードで充分だったかもしれませんね?」
「言うなぉ!!」
コレーヌさん思っていても口には出さないでよ!!
「パン作りは大成功と言ってよいですね。これを足掛かりに新たな段階へと突き進みたいところです」
「たしかにこれだけだと味気ないからなあ。どれだけパンがふっくらモチモチでも、ずっと食い続けてたら飽きるし……」
『キュピピピピッ!!』
ウチの賢明組が話を出し合っている。
「今度はクロワッサンも作ってみたいですね。しかしそれにはバターが不可欠です。アホみたいにバター使いますからねクロワッサン」
「バター作るの大変そうだよなあ……。牛の乳から作るんだっけ?」
「ミルクであれば山羊からでも馬からでもかまいませんが……。まあ牛から搾るのがもっとも効率いいでしょうね。牛を育てるところから始めねばなりませんね」
「また面倒くさすぎるぜ! ダンナがパァーッと召喚してくんねえかな!?」
『キュピピピピピピピピピッッ!!』
また俺の絆召喚術に丸投げしようとしている……!?
『キュピピピピピピピッ!!』
「そうですねー」「何でもダンナに頼りきりなのはよくねぇわな」
それをスラッピィが諌めた!?
偉いぞ、統率力があるぞスラッピィ!!
「さーて、じゃあパンも温かいうちに食いきっちまおうぜ? 冷めたら折角のモチモチも消えちまうだろうからよ?」
「お待ちなさい」
残ったパンへ手を伸ばすゴブリーナを、コレーヌが止める。
「パンとは保存食の一面もあります。作成からある程度時間をおいて、冷めたりしてどう味が変わるかの検証もしないといけません」
「なるほど」
「なので一定量は残して、明日にでもどのように風味が変わったか試食してみましょう。だから全部食べてはいけませんよ」
「わかったよ。……だがな」
「はい?」
「もうパンが一個も残ってないんだけど?」
「はいッッ!?」
気づいたらもうテーブルの上には何もなかった。
空っぽになったお皿以外は。
「まだあと二、三個は残っていたはずでしょう!? 誰です!? 誰が勝手に食いました!? あのアホ犬とクソ猫ですか!?」
「コレーヌ落ち着いて……!?」
最有力容疑者のウルシーヴァとニャンフーは『『やっぱりドッグ(キャット)フードがいいよねー』』と言いながら離席している。
となればヤツらが犯人ではない?
『げぷー、食った食った。何とも美味しいフワフワパンだよねー』
犯人は見つかった。
テーブルの下を覗いてみると、そこに腹をパンパンに膨らませた妖精一匹。
『中々に美味しかったよー。でも全部食べるのに苦労した。ちょっと分量間違ってない? 妖精さんがキミたちより小さいことをちゃんと考えに入れておいてほしいな?』
「誰がアナタのために振舞うと言いました?」
コレーヌ、憤怒の表情で盗み食い犯を鷲掴み。
「マスターの下から盗みを働くなど極刑です。ゴブリーナさんコイツ、パン生地に混ぜ込んで一緒に焼きましょう」
「了解」
待って混ぜて焼かないで!
というかあのゴブリンとオートマタ大分仲良しになってない!?
というか帰ってきてたのかピクシー?
兄さんに同行して街に向かったはずではなかったっけ?
「無事帰ってきたってことは、思惑通りになったってことか? 兄さんによる王子退散計画は?」
『ううん、帰ってきてないよー』
?
『ボクはまだ街にいるよー。ご主人様のお兄さんと一緒ぉー』
「いや何言ってんの? キミは間違いなくここにいるじゃん?」
ここにいるということは、エクサーガ兄さんから離れて大樹海に帰還したってことだろう?
『ううんー、ここにいるボクはボクであってボクでないの』
「???????」
『ボクは妖精ピクシーだよー。そしてあっちにいるのも妖精ピクシーなの』
????????
まったくわけがわからない。
妖精なんぞも言うことを理解しようというのがハナから無茶ぶりであったのか?
「マスター、わたくしの見解を述べてもよろしいでしょうか?」
「何なのコレーヌ、何でも言って!?」
理解できないものを理解しようとして頭がぐんにょりする前に、あるべき解を俺に示して!
「妖精は、グループ魂を持っているものと思われます」
「グループ・コン!?」
「個体が魂を有しているのではなく、種族全体が一つの魂を共有している形態のことです。グループ魂を採用している生命は、一つの種族がそのまま一つの生物。一にして全なのです」
そんな生命の在り方があるのか……!?
なば、ここにいるピクシーは、俺たちが最初に出会って契約し、エクサーガ兄さんと同行して街に向かったピクシーとは別個体。
しかしながら同じ存在のピクシー?
「キミのこともピクシーと呼んでいいのか?」
『いいよー、魂を共有しているボクらは、記憶も魔術効果も共有してるんだよー。だからボクもキミと契約していることになるんだよー』
絆召喚術のことか?
「というかその理屈だと、俺は全妖精たちと絆を結んでいることに!?」
『この森に棲んでいる妖精は皆、魂を共有しているから、そういう理解でいいよー。森の外の妖精は違うけれどー』
それでも充分スケールの大きな話だ……!?
『ボクはピクシーだよー』
『ボクもピクシーだよー』
『ボクたち全員ピクシーだよー』
『よろしくー』
『ヨロー』
『ボクもパン食べたいー』
『ボクもボクもー』
ひぇええええええッッ!?
たくさん妖精出てきた!?
これらはすべて別々個体でありながら魂を共有するために同一存在!?
なんという生き物たちなんだ!?
「食したパンの味はグループ魂を通じて全員に共有されたのでしょう? だったらそれで満足しておきなさい。そもそも妖精は半霊体なのですから花の蜜でも吸っておけば充分でしょうに」
そして物怖じしないコレーヌ強い。
「それより、こんなに大挙してやってきたということは我々に伝えることがあるのではないですか? グループ魂の生命は各個体の記憶を共有します。遠くにいる別個体が経験したことも即座に伝わるということです」
『そういうことー、あのねー、城ピクシーがねー』
「城ピクシー?」
『うん、お兄ちゃんと一緒に行ったピクシーを便宜上そう呼ぶのー』
便宜的に呼び分けてくれるのは助かるが、ちょっと引っかかるぞ?
『城ピクシー』って、エクサーガ兄さんに同行したピクシーのことでいいよな?
エクサーガ兄さんと一緒にボトリヌス辺境街に行ったのなら『街ピクシー』と呼ぶべきでは?
あの街に城はないぞ? 精々領主の館ぐらいしか?
『ううんー、「城」で合ってるよ? だってねー』
各個体間で記憶を共有する妖精は、言う。
『街に行ったボク、お城へ連れていかれちゃったー。お兄さんも一緒に。偉そうで怖そうなヤツの命令でねー。逆らえないってー』




