45 パン作り、パン窯作り
という感じで魔王さんが辞去していったあと……。
「今日はパンを作ります」
相変わらず自由な俺たちである。
コレーヌが言い出したことだが何故いきなりパン?
「ピクシーと契約して小麦粉を出せるようになったではありませんか。アレを利用できないかとかねがね考えていたのです」
「ああ、あの白い粉ね」
「だからその呼び方はやめていただきませんか?」
この文脈になると何故か一際ナイーブになるコレーヌであった。
まあ小麦粉と言ったら俺たち人間の大切な主食。
むしろ縦横無尽に活用してしかるべきだが、他になんか色々ありすぎてすっかり忘れ去ってしまっていたな。
主に魔王さん襲来とか。
魔王が現れたら主食どころの話じゃないって、わかってくれるよね?
「せっかく落ち着いてきたことですから、かねてからの計画を実行に移すのは絶好の時期かと」
「かねてから計画してたんだ……!?」
とはいえ、大樹海に落ち着くようになってから俺が食してきたのはカッチカチの保存食やら、現地調達の草やキノコ。
幸い水はスラッピィさえいればいくらでも一等綺麗なのが湧き出てくる。
なんなら食物もウルシーヴァやニャンフーとの絆で召喚できるドッグフードやキャットフードで充分飢えを凌げるんだが、それはコレーヌから絶対禁止されている。なんで?
俺自身、冒険者生活がもう長いんで充分粗食に慣らされているんだが、それでもフワフワのパンが恋しい時もあるさ。
目の前にあれば喜んで食したい。
「え? パン? 食べられるのパン?」
ワクワクする心を抑えられない俺だった。
「はい、わたくしの記憶回路には古代文明のあらゆる情報がインプットされており、その中から美味しいパンの焼き方も検索可能です」
「やったあ!」
えらく所帯じみた情報まで蓄積しているんだな古代文明。
では早速パンを作ってみてくれたまえ!
「ではまず、パンを焼くための窯作りから行います」
「そこから!?」
案外道のりが遠い。
「マスター、パン作りを侮ってはいけません。外はカリッと中はモチモチ。そんな完璧な歯ごたえパンを焼くには、絶妙な火加減をむらなく浸透させる火力設備が必要なのです。それこそが窯!」
「はい」
「もちろんパン焼き窯の製造法も我がデータベースに収録されております。マスターは大船に乗った気持ちで完成をお待ちください!」
かなり時間がかかりそうだけれどな。
俺自身、はやる気持ちを抑えてパンを食せるその日を指折り待つ気になってきた。
「で、窯作りってまずどうするの? 俺に手伝えることがあるなら何かするけど?」
「恐れ多い、マスターのお手を煩わせるなどあってはなりません。すべては我ら下僕の働きによってなしますのでマスターはお見守りください」
「下僕って……!?」
俺はキミらをそんなつもりで見たことはないよ?
大切な仲間だよ?
「ではまず、窯を形作るためのレンガを作製します」
「そこから!?」
パンを作るために窯が必要になって、窯を作るための煉瓦が必要になって……!
これもうキリなくない!?
「大丈夫です。レンガはもう既に完成段階にあります」
「まあ手際がいい!」
いつの間に!?
「かねてから準備を進めておりましたので。ここ周辺の地層を調べ、幸い窯の形成にピッタリな耐火粘土を採出することができました。それに砂や水やコンクリートなどを混ぜて形成し、しっかり焼いて固めたものがこちらです」
「おぉ~い、注文のものができたぞぉ~?」
と言って何やら運んでくる者は、ゴブリーナ。
「レンガ素材の混交、形成、乾燥管理、焼きの作業はゴブリーナさんにお任せしました」
「テメエが言い出したことなのになんで自分でしねえんだよ!?」
「アナタそういうの得意じゃないですか。できる人にやらせるのが一番いいのですよ」
ゴブリーナが上手く使われている……!?
そしてコレーヌ、出来たレンガを一つ持ち上げて矯めつ眇めつ観察して……。
「……初めての作業だけに粗も見られますが、まあ実用に耐えうるクオリティですね。使ってあげましょう」
「なんでそんなに偉そうなの!?」
レンガ造りを頑張ってくれたゴブリーナには、あとで俺からねぎらっておこう。
「とはいえ一つ一つの品質にもムラがありますので使えるか使えないか選別しないといけませんね。やはり窯も使わずに野焼きで焼成するとこうなりますか」
「窯を作るために窯がいる!?」
「そのうちマスターにはレンガを召喚できるようにしていただけると非常に助かります。赤レンガ、耐火レンガ、アンティークレンガ、種類を分けて召喚できるようになればよいですね」
「け、検討してみます……!?」
レンガを召喚するには、どんなモンスターと絆を結べばいいんだろうか?
泥田坊?
「これでやっと準備が整いましたね。では窯そのものを築き上げる作業に入ります。……えっさほ、よいさほ」
出来たレンガを積み上げていくコレーヌの手が早い!?
スラッピィが出してくれたセメントを均一に塗って、その上にレンガを積み上げて……!?
見る見るうちに形が出来上がった!?
「スラッピィ様がコンクリを出せるおかげで、こちらの作業は捗りましたね。やはり絆召喚術様々です」
『キュピピピッ!!』
まーたスラッピィが地味に活躍している。
知識をコレーヌがひねり出し、それに沿ってゴブリーナが作業を進め、スラッピィが隙間を埋める。
なんかウチの絆召喚獣たちの間で役割分担が綺麗にできていた。
ほけーっと見ている間に、気づいたらもうパン窯の形が成っていた。
完成だ!?
出来上がりだ!
「いえ、ここから結合剤としてのコンクリートが固まるのに数日待たねばいけません。本格的に使用するのはそれからです」
「マジかよ!?」
この期に及んでまだ待たねばいけないのか!?
◆
数日経った。
よし、今日こそパンが食べられるだろうな!?
パンが食えると思ってから幾夜を経て、食べられると思ったからこそ俺のパン欲が突き抜けてくるんだが!?
「パンパンパパパーン! パンパパパーン!」
「ダンナが昂っている!?」
今日こそパンが食べられると思ったら興奮して!
昨夜は眠れなかった!
「これ以上マスターがおかしなことになる前に調理に入りましょう。マスター、小麦粉の召喚をお願いいたします」
そうだった!
俺が小麦粉を召喚できることがパン作りの発端だったよな!
【絆召喚術Lv65>絆:ピクシー(妖精)>召喚可能物:白い粉(小麦粉)】
絆を結んだピクシーは、エクサーガ兄さんと一緒に気ままに旅立っていったが
「ほぉーれ! たくさん出てきたぞぉー!」
「もう粉塵爆発はゴメンなので撒き散らさないでくださいね」
俺は同じ間違いを繰り返さない!
広げた布の上に山盛り積もった小麦粉よ!
「マスターの召喚した小麦粉は、既に篩にかけたように粒が均一ですね。品質もよさそうですし、これはいいパンが作れそうです」
「そんなワクワクさせること言うなよぉ! 待ち遠しくなってしまうよぉ!」
「もはや一刻の猶予もなりませんね……! ではこの小麦粉に水と塩と……酵母を混ぜまして、ひたすらコネまくります!」
こうぼ?
何それ?
「パンを膨らませるおまじないのようなものです。樹海内に繁殖する山葡萄から上手く培養することができました。その辺準備も万端です」
「ふーん、そう」
「わかっておりませんね?」
まあいいや。
とにかくこの水とまぜた小麦粉を混ぜ混ぜこねこねしてパン生地を作ればいいんだな!?
だったら皆でやろうぜ! 手が多ければその分早く進む!
「こねこねこねこねこねこねこねこね……!」
このパン生地をこねる独特の手応え!
意外と心地いい!
この柔らかさ手触り! スラッピィをモチモチする感覚に近い!
……と思ったら本当にスラッピィだった!?
『キュピピピピピッ!!』
「ダンナ……スラッピィと遊ぶなら離れててくれよ……!?」
スラッピィが打ち粉塗れになっていたので洗い流して戻ってきたら、もうコレーヌとゴブリーナはガンガンパン生地をこねてちょうどいい大きさにちぎり分けていた。
あの二人が一番手際がいい!?
「さーて、いい感じの柔らかさになったから早速焼くか」
「窯の内部はもう適温に温めてあります。ガンガン入れていってくださいな」
息合ってるなあ、あの二人。
ほぼコレーヌとゴブリーナの共同作業によって、あっという間にパンが焼き上がった。
キツネ色でホカホカだ。
これが焼きたてパンかッ!?




