44 覇者を巡って
魔王さんがひとりでに語り出したので、聞き手に回ることにした。
それまで撃ちまくってきた罪悪感もあったし、あとあちこちオーバーヒートしたコレーヌを冷ます必要があったので聞いてる間にスラッピィに水掛けてもらうことにした。
あとゴブリーナ、お茶もってきて?
茶葉がなければその辺の葉っぱ煮出せばいいから。そのための大樹海でしょう?
「我ら魔族は、もう長い間戦い続けています」
「そりゃあ魔族ていうぐらいですしねえ……?」
来る日も戦いに明け暮れる『魔』の種族。
「いいえ、そういうことではなく……! 魔族には古より覇を競い合う敵性種族がいるのです。それこそが神族と竜族です」
「ふんおぉ……!?」
「神族は天に住まう聖なる種族、そして竜族は三界を揺るがす最強者……。この二者を向こうに回し、何とか生き抜いてきたのが我ら魔族です。単純な力では対抗しようがなく、特殊能力をやりくりして何とか渡り合ってきました……!」
…………。
なんかスケールの大きな話になってきたな?
それ人間なんぞが耳にしていいストーリーですか?
「そんな三種族三つ巴の戦いですが、今のところどれも決定打に欠けて勝敗がつきません。そうして均衡状態が数百年続いていますが、その均衡を破ると言われている、たった一つの要素があるのです」
それは……?
「古代文明の遺産」
「やっぱりー」
そうじゃないかと思った。
だからコレーヌのことに散々こだわってきたわけか。
コレーヌが自分で言ってたもん。『わたくしは古代文明によって作り出されました』と!
「我ら『三覇族』の争いが始まるより以前に栄え、そして滅んだ古代文明の遺産には、神族の聖、竜族の力も無効化する秘密が眠っているとされています。我ら魔族の術をも……。なので古代文明の秘密を解き明かし、利用することのできた者が最後の勝者になると言われています」
魔王さんは語り続ける。
「だからこそ私も、全力を挙げて古代文明を追い求めました。魔族の呪法魔術は探索を得意としていますので、他の二種族より先んじることができたと思います。この、人間たちが『イデオニール大樹海』と呼ぶ場所に古代文明の手がかりがあることも割り出しました」
魔族を率いて守る者として、魔王さんは長い時間をかけて大樹海を調べたそうな。
有効活用できる古代文明の手がかりを求めて。
そこでピックアップされたのが、樹海各所を徘徊するゴーレム。
古代文明が滅びてなお活動を続け、破壊的なパワー、殲滅的な兵装を併せ持って樹海の生き物から恐れられている。
現代まで存在が続いている唯一の古代文明ゆかりのものというので、魔王さんたちは観察を続けてきたという。
壊れてしまえば手掛かりが途絶えてしまうため、手出し厳禁。
細心の注意を払って。
それを破って手出ししてきたバカが、あの吸血鬼とのこと。
「本当にあのヴァンパイアは……種族の存亡より自分の手柄を優先する愚かなヤツで……! 謎を解き明かす鍵となるアナタ方との協力を得られなかったらどうするのかと……!?」
部下の暴走に悩まされる悲しい上司、魔王さん。
なんか同情の気持ちが湧いてきた。
「調査を進めるうち、どんどん驚きは増していきました。これまでただの魔導装置であり、コミュニケーションなど不可能だと思われていたゴーレムと会話ができている。しかも姿まで変わって!」
視線を横にずらす。
あっちでは熱暴走したコレーヌが、スラッピィからの水を浴びて『うあ~』と唸っていた。
「さらに調査を進めていくうちに、その原因は人間であるアナタの仕業だとわかった。アナタが数千年間眠り続けてきたゴーレムのクオリアを呼び覚ましたのでしょう?」
「は、ハイ……!?」
「やはり人間は、恐ろしい……! 脆弱なように見えてときに思いがけない奇跡を巻き起こす……! だから『人間を侮ってはいけない』といつも言っているのに、一部の者たちは増長し、本質を見誤る……!?」
魔王さんはワナワナと震えてから、思い切ったように両手を下ろす。
掌を地面に直づけする。
「その一人が吸血鬼ネクドリオンでした。彼の狼藉はアナタたちにとって許しがたいことでしょう。ですが、どうかその恨みはヤツ一人だけに向けていただけませんか? 魔族全体にまで恨みを広げずにいただけますか?」
そして……。
頭も地面に向けて急降下。
手も額も地面に、すると必然的に膝だって地面につくことになって……!?
この体勢は土下座ッ!?
「そしてどうか、アナタの持つ秘術を私たちにも分け与えていただけませんか? 私たち魔族にはそれが必要なのです! 神族竜族の侵攻に耐え、魔族が生き残るためには!」
物凄い切実だった。
しかも自発的に土下座までするなんて。
魔王ってアレでしょう?
人間でいうところの王様ぐらい偉いんでしょう?
俺の知ってる国王様は、土下座なんて絶対にしないよ。
王子様でもしない。
それなのに、自分たちより遥かに弱い種である人間へ躊躇なく頭を下げる。それだけ自族を守ろうという思いが強いのであろう。
大切なもののためにプライドを捨てられる支配者、魔王。
「いや頭をお上げください! 困ります!」
そんなに畏まられると!
魔王さんが求めているのは絆召喚術とみて間違いない。
たしかにアレのお陰でコレーヌは意思疎通できたし、他にも得体の知れない古代文明的な産物も召喚できるようになった。
それを教えてあげれば万事解決となるだろうか?
◆
結論として、魔王さんは絆召喚術を使うことができなかった。
懇切丁寧に教えてあげたのに、なんで?
「どうやら、その術を使用するためには人間特有の因子が関わってくるようですね。魂に付随する何かか……? 研究の余地はありそうですが、焦りは禁物です」
なんでそんなに考えが理性的なの魔王さん?
一気に好感が持ててくるんですけど?
「今日のところは、アナタ方との良好な関係を築けたことでよしとします。ネクドリオンが先走って一時は取り返しのつかないところでしたから充分な成果です」
「そこはもう気にしないで……!?」
すべてはあのアホ吸血鬼のしでかしたことなので……。
「ああ、そうだ。せっかくだから魔王さんと絆契約を結んでみるというのはどうでしょう」
「そんなことができるんですか? 是非お願いします!」
トントン話が進んだ。
そして契約を結んでみて……何を召喚できるかチェック!
【絆召喚術Lv64>絆:ブラックロア(魔王)>召喚可能物:摩天楼】
まてんろう?
何だコレ?
とりあえず試しに召喚してみよう。
ズドドドドドドドドドドドドドドド……!
「なんだこりゃああああああッ!?」
塔!?
それを思わせる高くてデッカい建物が聳え立った!?
「これが摩天楼!?」
いや、俺が知っている塔よか遥かにデカいんだけど!?
王城よりデカいんじゃないかな!?
「そうか……!? だから摩天楼!?」
いかにも魔王が住んでそうな名前の響き!?
「いや、私も魔界でこんな凄い城には住んでないですが……!?」
そうなんだ!?
しかし、これまで召喚可能になったものの中で間違いなく最高質量ですよ!
さすが魔王様!
「皆で頑張って建てたログハウスが霞むなあ……!?」
「そっちはそっちで皆で住めばいいんじゃない?」
小市民の俺が、あんな立派な建物で寝起きしたら落ちつかなすぎる。
未踏の大樹海の中に忽然と聳え立つ巨大建築。
なかなかのミステリーでかつホラーだ。
「このようなものを生み出せるなんて……! アナタの編み出した絆召喚術は素晴らしい!」
魔王から感動された。
「この巨大建築の工法も、古代文明によるものでしょう。絆召喚されたものを研究していけば、いずれは神族竜族に対抗する手段も見つかるかもしれない! やった!」
お喜びいただいたようで何よりです。
とにかく最初はどうなることかと絶叫し通しだった。
しかし、終わってみればいい人と良好な関係を築くことができてよかったと思う。
◆
それで摩天楼の方ですが……。
あんまり高すぎて落ちつかないし、俺らが住むにしても大規模すぎて落ちつかないから消した。
やっぱり俺たちが住むには手作りのログハウスの方が身の丈に合っている。




