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41【別視点】次兄と王子

 マシュハーダ王子は、ボトリヌス辺境街へと到着した。


 街を治める辺境伯へと赴き、挨拶ののち滞在許可を取って行動の自由を得る。


「速やかに樹海へと入る準備を始めろ! 適切に人員を配置し、漏れのない綿密な探索を行う!」

「は? 今から探索を始めるのですか!?」


 同行した兵士たちは驚いた。

 普通であれば、到着したその日には体を休め、どんなに早くとも翌日以降から目的に向けた行動を開始すべきである。


 ここまで移動してきた疲労もある。

 それらを解消するためにも、まずは充分な休養が必要不可欠だった。


「甘ったれるな。私が指揮官となった以上、無駄は一切挟まぬ。迅速にして最短、それが私の率いる軍のあるべき姿だ」


 マシュハーダとしては兵を動かすと同時に、私的に雇った手勢も紛れ込ませてイディールに関する情報を集めさせる算段だった。

 それもあって行動を急がせたが、兵たちの表情には隠し切れない不満があふれ出ている。


 それを感じ取りながらもマシュハーダは態度を変えず……。


「気に入らないヤツは名乗り出ろ。すぐに解雇して王都へ帰してやる。この程度の働きができぬような無能は、私の率いる軍には必要ない」

「恐れながら殿下……」


 傍らから進み出る兵士は、老境に差し掛かり髪や髭に白いものが交じっていた。

 まとう鎧も立派で、兵士の中でも高い地位にあることが佇まいからわかる。


「何だ将軍? 私の決定に異議があるならお前とて容赦せんぞ?」

「いいえ、戦場における兵士は考えを捨て、そのすべてを指揮官に預けるものです。そうしてこそ軍は戦場において一個の生命のごとく円滑に動くことができる。ゆえにこそ全兵士の思考を預かる指揮官の能力が重要になるのですが……」

「何が言いたい? 私に指揮官としての能力が備わっていないと言うつもりか?」

「滅相もございません。私は報告に参ったのです」

「報告?」


 マシュハーダは段々と苛立ちを覚えてきた。

 天才肌であるからこそ、いくつかの段階を素っ飛ばして直結的な思考ができる彼は凡人の、考えてから行動に移す遅さにイライラしてしまう。


「何の報告だ? 我々は早速これから樹海に入り、霊薬を探し出すとっかかりだけでも確立させねばならぬ。くだらぬことなら帰還してから聞くぞ?」

「その必要がなくなった……という報告です」

「何?」

「先ほど地元の守護騎士団へ挨拶に行ってきましたが、彼らが王子のため、既に霊薬を探し当てて用意してくれていたとのよし。もはや霊薬探索の必要はありません。既に手の内にあるのですから」



 そうしてマシュハーダは、霊薬を見つけ出したという現地の騎士と引見する。

 さらに二度驚いた。

 対面した騎士が、彼の見知った顔だったのだから。


「エクサーガ先輩……このようなところでお会いするとは」

「私はもう騎士学校を卒業したので『先輩』と呼ばれるには当たりません。王子殿下もご機嫌麗しゅう」


 エクサーガは、前年まで騎士学校に在籍し、マシュハーダ同様全学年で首席をキープした優秀な生徒。

 卒業後は正式な騎士となり、エリートコースを駆け上がるのは間違いないとされていた。それがこのような辺境で再会を果たしている。


「辺境の騎士団へ配属となったか」

「私自身の希望で。一人前の騎士となったことでやっと自分の考えで行動できるようになりました」

「その考えとは、人探しかな?」


 王子の意味ありげな言葉に、場の音が止まる。


「貴公がそのように肉親の情の厚い男とは知らなかった。であれば貴公、私に協力できることがあるのではないか?」

「それよりも本題に入りたく存じます」


 エクサーガが両手でもって差し出す瓶。


 それを近習の者が受け取り、不備がないかしっかりとたしかめた上で、さらにマシュハーダへと渡す。


 マシュハーダは瓶の中に詰め込まれた白色の粉をまんじりと見つめる。


「これが万病に効くという不可思議の霊薬か?」

「御意。私みずから樹海へと入り見つけ出しました」


 エクサーガはウソをついていない。

 別に薬目当てではないが、彼自身が樹海に入り、そこで手に入れて持ち帰ったものではあった。


「王子が霊薬を求めて行幸されるという先触れを聞き、王族にご足労させるわけにはいかぬと思い立って用意いたしました。手足を動かすのは下々の役目ですゆえ」

「気配り感謝する……とでも言えばいいのかな?」


 マシュハーダは、現地について早々目的を達成したことになるのだが、表情はあからさまに不機嫌だった。

 表の目的に隠れた、裏の目的がまったく果たされていないのだから。


「エクサーガ。貴公どこまで把握している?」

「何のことでしょう?」


 相手に惚けられたら、それ以上の詮索はできない。


 引見の場は、対面する二者だけでなく他にも多くの立会人がいた。

 その中でマシュハーダ王子は王命などどうでもよく、それに乗じて果たそうとした真の目的があったなどと露見させるわけにはいかない。


 自然と言葉は選ばれ、もどかしい内容となっていく。


「エクサーガよ、私は優秀な人材を求める。この国をよりよくしていくために多くの人材が必要なのだ」

「王子の周囲には既に充分以上の人材が揃っているかと。『黄金の一三九期生』です。卒業後は優秀なる手足となることが確約され、王子もよい学友に恵まれたことかと」

「私は欲張りなのだ。目につく偉才はすべて我が下で十二分に才能を発揮させたい。それがその者にとっても幸せだと思っている。貴公もそうは思わぬか?」

「幸せとは、一人一人がその形を見つけていくものかと。他者からの強制は……たとえそれが王族からであったとしても、人生を歪めるものに他なりません」


 周囲の者たちから見れば、これは思わぬ邂逅をこれ幸いと、若き王子がジラハー家の秀才を召し上げようとしているのだと理解された。

 そして当のエクサーガは何故かそれを固辞していると。


 しかし実際のところマシュハーダは執拗にイディールを求め、弟を守らんとエクサーガが抗している。

 本人たちにしかわからない水面下の激しい攻防であった。


 やがてそれにも飽き、エクサーガが頑なであることがわかるとマシュハーダは気だるげにため息をついた。


「もういい、樹海へ入る準備を進めよ」

「王子ッ!?」


 それに驚いたのはマシュハーダ王子の左右に控える者たちであった。


「何故今さら森に入る必要があります!? 目的のものはエクサーガ殿が見つけ出してくれたのです! この上は迅速に帰還し、得たものを国王陛下へ献上奉ることこそ肝要かと!?」

「せっかく辺境まで来たのだ。何もせずに帰るのはもったいなかろう。ここからは演習ということにして、慣れぬ秘境での行動を体験しておくというのも損にはなるまい」


 マシュハーダは意地でもここに残るという意志を曲げない。

 このままでは、せっかく王子を門前払いするために立てた計略が水泡に帰す。


「一軍を動かしここまで来たのにも相当な費用が掛かったはずだ。それを無駄にしないためにも最大限に状況を生かすべきだ。ゆえにこそ、エクサーガ殿のお陰で浮いた時間を兵の強化に充てる。よいアイデアであろう」

「恐れながら殿下」


 そう言って進み出たのは、白髪交じりの壮年将軍であった。


「王子殿下は心得違いをなさっております。目的を達したからには一刻も早くご帰還されることが、アナタ様のするべきことです」

「私が間違っていると?」

「御意」


 その答えに、周囲がザワザワと動揺する。

 王族に向かって真っ向から『お前は間違っている』と言うとは。


「まず殿下が思い違いなされているのは、こたびの進軍はあくまで王命を果たすためのものです。その王命とは『霊薬』を手に入れること。それは王の手に霊薬を送り届けるまで完遂いたしません。使命を果たさぬまま余事にかまけるのは騎士軍人にあるまじきこと」

「しかし、私は全体の利益をだな……」

「長い目で見ればこそ、王命を蔑ろにするのは害にしかなりません。それに殿下は『演習』と気軽におっしゃりますが、それは綿密な予定を立てて行うもの。思い付きのように決行するのでは充分な成果を得られず、さらには不慮の事故まで招きかねません」


 百戦錬磨の老将軍であるからこそ、その金言に王子といえど若僧の反論する余地がない。


「時を稼げたからこそ急いで立ち戻り、国王陛下の心証をよくするいい機会ではありませんか。殿下、御英断を」


 そこまで言われると、もう王子にもどうにもならなかった。


「チッ」


 露骨な舌打ちをして……。


「わかったわかった。現地での目的は達成した。これより急ぎ王都へと向かい、成果を父上に報告する」


 その王子の言葉に、周囲から起こった感情は安堵であった。

 何にしろ恐ろしい大秘境に踏み入ることなど誰も望んでいない。


「だが」


 そんな安堵の雰囲気に冷や水を浴びせかけたのも王子であった。

 まだ何か言いがかりがあるというのか。


「父上の命を遂行するにしてもまだするべきことは残っているのではないか? それを果たさずして帰ることはできまい」

「な、何でございましょう?」

「この薬、本物なのか?」


 瓶に詰められた白粉を見詰め、マシュハーダは言う。


「伝え聞くところによれば、我らの求める霊薬は妖精を素材にして作られるものだそうだな?」

「ぎょ、御意……! ここ『イデオニール大樹海』に生息する妖精の翅には、強力な薬効があると伝わっております。その翅をすり潰して粉状にし、飲めばいかなる病もたちどころに治り、虚弱な体質も健康体に早変わりするという……!」

「では、この白い粉は妖精の翅を粉々に砕いたものということか? 私は、その工程を直に見ていない」


 王子の指摘に痛々しい沈黙が広がった。誰も反論ができなかったから。


「であるからにはこの粉が伝説の霊薬『フェアリーパウダー』であるという確証は持てぬ。そんなものを父上に献上し、何の効果もなかったら、いい恥さらしだ。私の経歴にも傷がつくことになる。……そこのところ、どう説明するエクサーガ?」

「そう言われると思い、用意したものがございます」


 エクサーガの返答に周囲の者がざわついた。

 さすが秀才、いかなるイチャモンにも対抗する準備があるとは。


「薬を作り出した本人の証言を聞けば、信用に値するものだとおわかりでしょう。……待たせたな、出てきていいぞ」

『はーい! お待ちどーさまー!!』


 そして現れたモノが人々の視線をさらっていく。


『アタシは妖精のピクシーだよ! ピクシーって種類じゃなくて名前なの! 凄いでしょー! ヨロピクねー!』

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[一言] このノリが岡沢さんですよね!
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