39 ホワイトパウダー
そうして無事、妖精さんと絆契約を交わすことができた。
「今なら契約した相手には漏れなく名前を付けるんだけど、いる?」
『名前くれるの!? わーい、欲しい欲しい!』
そんなに喜んでくれるとは予想外で困惑する。
『アタシたち妖精には、個別の名前なんてつかないんだー! だからニンゲンと仲良くなった時ぐらいしかつけてもらえないの! だから嬉しい!』
そうなの……!
じゃあ、ご期待に添うようにカッコ可愛いネーミングを……。
「……ピクシーでどうだろう?」
なんか唐突に浮かんだ。
『ピクシー! ピクシー! わーいわーい!』
喜んでもらえて何より。
これでなんとか当初の目的を達成できたが、それが予測通り問題の改善に繋がってくれるかは謎なところだ。
都合よく王子を追い払ってくれる万能薬が出てくれるものかな?
早速召喚を試みよう。
開いてみたコンソールに浮かんだ表示は……!?
【絆召喚術Lv59>絆:ピクシー(妖精)>召喚可能物:白い粉】
「ダメですッッ!!」
なんか物凄い勢いで制止したのはコレーヌ。
妖精探しに同行した彼女だが、今まで発言の機会がなく静かなままだった。
それがここに来て大絶叫。
「いきなりどうしたのコレーヌ!? そんな大声を出して!?」
「ダメですマスター! これを召喚してはいけません! 召喚やめるか人間やめるかですよ!?」
そんなに!?
なんだよコレーヌ、ドッグフードの時も同じようなこと言ってたじゃん。
絆召喚できる事物って、そんなに人間に厳しいものばかりなの!?
「鱗粉が幻覚剤になると言っていましたが、その関連かこんな危険なものを召喚するとは……! マスター、その小人は危険です。即刻抹消を推奨します!」
「いやいや待って!?」
コレーヌ一人納得されても、俺がよくわからないまませっかく増えた仲間を切り捨てることなんてできない。
ここはもう少し情報を出し合ってですね……!?
「いいえ事態は一刻の猶予もありません……!? マスターはよいのです。わたくしが警告すれば信頼をもって理解し、召喚を控えてくれるでしょう。ですが問題がもう一方です」
「もう一方?」
「ピクシーです!!」
そういえば。
契約によって絆召喚できるようになったものは、俺だけでなく契約した相手も召喚できるんだった!?
コレーヌは強化外装を自分の判断で召喚するし、スラッピィだって自分で水を噴射しまくりだもんな!
ってことは……。
『わー、何コレ面白―い!』
妖精さんが白い粉を撒き散らしながら飛んでいる!?
契約することでアイツも召喚可能になったか!?
『白い粉がたくさん出てくるー! 綺麗―! 楽しいー!』
「コラやめなさい! それが予想通りのシロモノならうっかり吸い込むととんでもないことに……!」
コレーヌが大いに慌てた。
そして空中に舞い散る白い粉を、手であおいで付着させ、その上でペロリと舐めると……。
「これは……!?」
「何?」
「……小麦粉」
はい?
ピクシーとの絆によって召喚できた白い粉の正体は、小麦粉だった。
【絆召喚術Lv59>絆:ピクシー(妖精)>召喚可能物:白い粉(小麦粉)】
召喚用コンソールに、遅ればせながら但し書きが追加された。
「何なんですか紛らわしい!? ただの小麦粉ですか!? だったらこの世界にもありますよ!」
コレーヌがキレ気味だった。
よほど慌てていたのか、肩透かしを食らって安心すると同時に、まんまとしてやられた悔しさもあるらしい。
「えーと……、ただの小麦粉ってことなら危険はないんだよね?」
「はい! まったく問題ないです! とんだ人騒がせですよ小麦粉なんてまったく安全、少しも慌てなくていいシロモノです!」
その一方で今もピクシーはそこら中に小麦粉を噴出させている。
よっぽど楽しいのだろうか。
あまりにも召喚し続けるので、舞い散る小麦粉が濃厚になり、目の前が白く霞がかって見えなくなるほどに……。
「ちょっと待ってください? ……周囲に充満した小麦粉。それはとても危険なような……!?」
「え? さっき安全って言ったじゃない?」
「いえ、小麦粉の唯一危険な使用法がですね、こうして空間中に充満させたあと、火花を散らすと……!?」
その時、背後からニャンフーらしい乙女の声がした。
「うにゃー、なんか無性に爪を研ぎたくなったにゃー。……あ、ちょうどいいところに木があったにゃー!」
そして木を削るようなガリガリという音が聞こえた直後……。
すべてが光に包まれた。
◆
結論から言って俺たちの中に怪我人は出なかった。
やっぱり皆、頑丈なんだなあ。
それどころか周囲の樹木すら焼け焦げもせず無事だった。
『イデオニール大樹海』は生えてる木すら特別なんだなあ。
「こ、コレーヌ……一体何が起こったの……!?」
「粉塵爆破と言ってですね……、詳しい仕組みは……長くなるのでまたあとで……!?」
はー、とにかく死ぬかと思った。
「幸いなのは、いち早く危険に気付いたスラッピィ隊長が細かい水を噴霧することで空気中の小麦粉濃度を低下させたことですね。お陰で爆破範囲が最小限で済みました」
『キュピピピピピピピッッ!』
スラッピィ……。
また思わぬところで大活躍を……。
本当に頼りになるスライムだなお前は!?
「とにかく! 二度とこんな危険がないように小麦粉ばら撒くの絶対禁止! わかりましたね!」
『はーい……?』
何故か当然のように無事なピクシーに、押し迫るコレーヌ。
しかし本人にあまり堪えた様子はなかった。
これ以後も実証を続けて……。
【絆召喚術Lv59>絆:ピクシー(妖精)>召喚可能物:白い粉(小麦粉)……
白い粉(砂糖)
白い粉(塩)
白い粉(味の素)
白い粉(パン粉)
白い粉(重曹)
白い粉(粉末クリーム)
白い粉(竜核酸)】
と色んなものが出てきた。
基本白い粉であることは変わりないが、細かに違うらしい。
「なんでこんな傾向に……!?」
「ひとまず想像したヤバいものは最後まで出てこなくて安心しました。そういう意味でも人騒がせな妖精ですね……!?」
最後まで気疲れしていたコレーヌ。俺にはよくわからないことだがお疲れ様。
「しかし成果はありましたよマスター。ピクシーとの絆で絆で召喚できたものの中には、薬品と呼べるものもありました」
「えッ!? 本当に!?」
じゃあ、それを上手いこと献上すれば王子様、さっさと帰ってくれるかな!?
「では、私が薬を持っていこう」
というエクサーガ兄さん、爆発の火勢から逃れきれなかったのか髪の毛の先がチリチリしてるよ?
「この中で、直接王子へ謁見できるのは私だけだからな。イディールが直接持って行ってはまた一揉め起こることだろうし……!」
「面倒な役押し付けてごめんね兄さん……?」
本当に、肝心なところを兄さんに頼りっぱなしだ。
勘当されてから独立独歩で生きていくつもりだったのに、エクサーガ兄さんには本当に頭が上がらない。
「いいんだよ、頼ってもらうことを私が望んでいるんだから。それにマシュハーダ王子はあからさまにヤバい人だから、心底イディールと関わり合いになってほしくないんだ」
「だねー」
共通してヤバい人認定を受けている王子様だった。
『わーい! だったらアタシも行くー!』
「「は?」」
そう言ってくるのは妖精ピクシー。
粉塵爆破という大やらかしの直後だというのに、少しも気落ちした風がない。
『だってアタシが出したものを届けに行くんでしょー! どんな結末になったかアタシにも知る権利がある!』
「そうは言うけど、向こうはキミらの翅毟るつもりで来てるんだよ? 危険じゃない?」
『毟るの? 面白そー!』
「面白い!?」
妖精の感覚は我々人類には計り知れ難かった。
「いや……しかし来てくれるならそれはそれで助かる。こんな白い粉をもって言って『薬です』と言っても簡単に信じてもらえんだろうからな……」
「妖精そのものを添えれば説得力が増すか……!?」
検討の末、ピクシーにも一緒に行ってもらうことになった。
兄さんがついてれば大丈夫とは思うが、無事帰ってくれることを祈るばかりだ。
さあ、これでマシュハーダ王子にとっととお帰り願うことは叶いますかな!?




