38 妖精大捜査網
さて困った。
どうやって妖精を見つけ出そう?
聞いた話を総合すると、身隠しのエキスパートである妖精を発見するのは、潜伏した大泥棒を逮捕する並の困難さのようだ。
ただでさえ雑多としている大樹海から、手のひらサイズの妖精を発見確保するなど可能なのだろうか?
「こういう時こそ我らに御頼りください主様!」
そう言ってくるのは誰?
オオカミ族の長ウルシーヴァではないか。
「森の中での狩りこそ我ら獄狼族の独壇場! 群れの強みを生かし、チームワークで獲物を狩りたてることこそ我らの真骨頂! 妖精だって見事に追い立てて御覧に入れましょう!」
犬耳乙女姿のウルシーヴァに、通常の姿のオオカミたちが多数集う。
群れのリーダーである彼女だけが絆契約を結んで乙女の姿をとっているが、今も変わらず長としてオオカミたちを統率する。
「行け! 我らが群れの仲間たちよ! 獲物を捕らえ出し、我らの有用さを主様にご覧いただくのだ! 仕留めた者には主様より、ご褒美のオヤツがあるぞ!」
「勝手にご褒美の確約しないで!?」
いや、頑張ってくれたんならそれに報いもするけどさ!
あと仕留めるのもダメ!
相手て契約したいんだから殺すのは無論、できるだけ無傷で捕えて!
「それでは出撃! GO! GOGO!」
四方八方へと散っていくオオカミたち。
『バウバウ!』『ワンワン!』『キャインキャイン!』『ニャーン!』
ウルシーヴァは多数のオオカミを従えているので、こうした探索事には向いているのかもしれぬ。
人海戦術ならぬ犬海戦術だ。
それにオオカミといえば人間より何倍も鋭い嗅覚や聴覚を持つ。
それらのセンサーで数押せば見つからんこともあるまい。
光明が見えてきたな。
じゃあ捜索はオオカミたちに任せて果報は寝て待つとするか。
そのうちどれか一匹が妖精咥えて帰ってくることを祈りつつ……。
◆
そろそろ日が暮れてきた。
が。
「まったく見つからない!?」
成果ゼロ。
オオカミたちは申し訳なさそうに尻尾を垂らすばかりだった。
「そんな……!? 我ら獄狼族の鼻をもってしても見つけられないなんて……!?」
その結果にもっとも衝撃を受けているのは群れを率いるウルシーヴァだった。
みずからも樹海を駆け巡り目標を追ったが、手掛かりもつかめなかった模様。
「申し訳ありません主様! かように不甲斐ない姿を見せてしまって、主様のしもべとして顔向けできません!」
「いいからいいから」
成果は上がらなかったものの、頑張ってくれたご褒美に液状おやつ(犬用)を召喚してオオカミたちに与える。
指ごとベロベロ舐められた。
「しかし、妖精とやらの隠密能力は想定以上に高いようですね。恐らく匂いや音を完璧に消し去る魔法なり特性なりを有していると見ました」
「そんな相手を見つけるとなると一苦労だな。……いや、一苦労で済むのか?」
むしろ可能不可能を論じるべきなのでは?
正直皆で頑張れば見つかるだろうとタカをくくっていたのが、いささか楽観的なのかもしれぬ。
このままモタモタしていたらマシュハーダ王子が部下引き連れて到着してしまう。しかし、一王族の権力をもってしても妖精を見つけ出せる気がしない。
そして妖精を見つけるより先に俺が見つかってしまいそうだ。
それこそは何とか避けたい。
「はあ……、何かいい方法はないかなあ……?」
「にゃーん?」
「『にゃーん』じゃなくて、妖精を捕まえるナイスアイデアを出さないかって言ってるんだよ」
「にゃーん?」
「だから、にゃんにゃんばっかりじゃなくて……ん?」
にゃーんにゃーん言いそうなヤツに心当たりがあるとすれば、虎娘のニャンフーだな。
アイツは元々トラ型のモンスターなので、よくにゃーにゃー鳴く。
そういえば今日はあんまり見てないが……。
久々に向かい合った、絆契約で乙女化したトラの姿を目の当たりにしたら……?
「ニャンフー、何咥えてるの?」
「お探しのものはコレですかにゃ-?」
ニャンフーが乙女の姿で口に咥えているソレは……。
女の子のお口に収まるほど小さいが、しかしたしかに手足揃った人の形! それも女の子の風体!
逃れんとバタバタもがいている!
『ぎゃー! 離せー! 妖精殺しー!』
妖精だあぁああああああああッッ!?
小人でしかも翅が生えて!?
外見特徴が一致している!? これこそ俺たちが探し求めていた妖精!?
「主様のために狩ってまいりましたにゃー」
と言いつつニャンフー、口に咥えていた妖精をペッと吐き出し地面に落とす。
『拘束が解けた! 今だ脱出! ぐぇッ!?』
「甘いにゃー」
今がチャンスとばかりに飛んで逃げようとした妖精を、間髪入れず手で叩きつつ押さえつける。
猫パンチのごときムーブであった。
「ちょっと待てぇ!? ニャンフーなんでお前が捕まえてるんだ!? 我ら獄狼族が総がかりで探し当てられなかった目標を!?」
「狩りをする獣がお前らだけだと思ったら大間違いにゃー。我ら王虎族だって狩りは大得意にゃん。むしろウチらは単独で狩りをするのでより感覚が研ぎ澄まされてるにゃ。数に頼る誰かさんとは違うにゃー!」
誇らしげに鼻息を鳴らすニャンフー。
そうだなこの様相は、ネズミとかバッタを捕まえたネコが飼い主のところにもってきて自慢するような感じだ。
「単独で行動するならなんで群れてるんだ王虎族はッ!?」
「皆で日向ぼっこするためにゃー」
猫の集会。
まあニャンフーたちの習性についてはのちの機会に語るとして、今はもっと気にするべきことがある。
ニャンフーの手に押し潰されてムギュウとなっている妖精。
『たぁすけてー! アタシは無実だー! まだ何もしてないよー!』
とジタバタもがいてるその姿はまさしく妖精だった。
人型で、小さくて、可愛い女の子で、翅が生えている。
「ええと……なんだ……妖精さん? 俺とお話しませんか?」
妖精との対話を求める俺は、なんか年甲斐もないヤバい人のように自分自身を思えた。
『ゴメンよー! ほんの出来心なんだよー! 森に迷い込ませた羊は今でも逞しく生きてるよー!』
「なんのこと?」
そういや思い出した。
妖精は悪戯好きで、むしと人に隠れて悪戯するために隠形術を磨いているとか。
『スープにオシッコ入れたことも謝るよー! でも大丈夫! 妖精のオシッコは真水なんだよー!』
「お前ぇええええええッッ!?」
悪戯にしても度が過ぎていると思えてきた。
妖精ってこんなヤツだったのか!?
「なんか翅むしられても仕方ないヤツのような気がしてきたぞ!? ホントにコイツが妖精でいいの!? 霊薬の材料になる妖精でいいの!?」
『何々? 何の話? 面白そう?』
なんでこの話題に食いついてきますかね?
ちょうどいいので俺たちがコイツを探し求めていた経緯を知らせると、妖精は気楽な声になり……。
『ああー、そういうことね! なんか聞いたことあるし、長老フェアリーも言ってた! でも残念! アタシたちの翅に病気を治す効果なんてないよ!』
え? 本当に?
毟られたくないからってウソ言ってない?
『ホントホント! アタシらの翅には鱗粉がついててね! 吸い込んだらニンゲンや他のドーブツも感覚がおかしくなっちゃうの! それで体の痛みも誤魔化されちゃうからお薬って勘違いされるようになったんじゃないかって、長老フェアリーが言ってた!』
「マジかよ」
苦し紛れの出まかせという可能性ももちろんあるんだが、ここまで見つからず、オオカミたちをもってしても細くできなかったステルス能力を思えば、すべてがウソとも言い切れない。
そんな特殊能力ぐらいあってもよさそうだ。
『あッ、でも翅ぐらいなら毟ってもいいよー。どうせまた生えてくるし!』
「生え変わるの!?」
色々想定外のことを言われて、どうしていいものか迷う。
しかし妖精の言うことを信じるなら、別に翅を毟っても本人的には全然問題ないようだし、薬にもならない。
それだと王子様のお越し自体が無意味となりそうなんだけど。
「とりあえず……、絆契約してみるか……!?」
せっかくだし。
こんなヤツだけど、契約したらなんかいいものが召喚できるかもしれぬ。
ひょっとしたらお求めのいいお薬が出てくるかもしれんし。
「妖精よ。俺と契約を結ぶのとそこのネコのオモチャになるのとどっちがいい?」
『嫌ぁあああああッ! 猫のオモチャだけは嫌! 契約でも何でもしますぅううううううッッ!?』
ニャンフーが『遊んでいいにゃ?』と首を傾げる仕草がなんともゾクリとした。
いつも可愛い猫が時折見せる残虐性。




